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六、男同士のデート

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 騎士団祭の翌日。

 オレは、ターバ、【魔導士】とともに王城の騎士団第一隊の部屋に来ていた。

 奥の執務椅子に座っている騎士団長。その傍に立つ副騎士団長。
 いつもの光景だ。

「ライン、ターバ、アーグ。昨日の戦い、見事だった」
「「…………」」

 オレたちの心の中は、「最後にちょろっと来ただけだろが!」である。

「まあ、お前たちの思いはわかる。だが、昨日は所用でな。だが、成功した」

 自信満々な顔でそう宣言するが、この場でその内容を知っているのは、騎士団長と副騎士団長。そして――オレだけだ。

「成功……とは、どういうことでしょうか……?」
「いい質問だ、ターバ! ライン、説明してやってくれ」
「え、あ…………はい」

 オレかい! いや、たしかに全貌を知っちゃいるが……。
 まあ、上司の命令には逆らえない。
 オレは立ち上がり、説明する。

「先日、妖狐どもを捕らえたな?」
「ああ、あれか」
「あいつらから引き出した情報はあれだけではなかったのか?」
「そう。得た情報、騎士団長と副騎士団長との間でのみ共有した情報は――」



 あの日。
 オレは、この王都に潜入している諜報員《スパイ》は、あの妖狐3匹だけじゃなかったことを知った。

 もう1匹、協力者・・・がいたのだ。

 妖狐たちは全員、「協力者」と呼んでいたことから、仲間とまではいかないこともわかった。

 ただ、ポジションは超重要だった。

 もしかしたら寝返らせることが可能かもしれない。そう思ったオレは、2人に進言した。

「友好的な関係を築くことが可能であれば、築くにこしたことはない」

 と。
 騎士団長は二つ返事で承諾してくれた。その後、綿密な打ち合わせの結果、このような流れとなった。



「なるほど……。ライン、どんな拷問を?」
「私だったら雷の魔法とかでやりますが……そこまで情報を引き出すのは……」
「理由はいたって単純。あいつらには大して忠誠心がなかった。いくつか条件を出すことで、そのもう1人の間者同様、こちらに引き込んだんだ」

 そう、オレは拷問なんかしちゃいない。
 スタンフォードの監獄実験を再現しようかと思ったが、いかんせん、人数が少なすぎた。
 だからオレは友好的な手段に出た。

「連合に対する忠誠心が揺らぐほどの条件を出したのか? 一体どんな?」
「ああ、それはたしかに私も気になっていた。聞かせてくれ」

 隠すことでもない…………か。

「ああ、ただ、互いを人質にしただけだ」

 妖狐Aを人質に妖狐Bを、妖狐Bを人質に妖狐Cを、妖狐Cを人質に妖狐Aを抑え込んだ。そして、情報を引き出しただけ。

「あいつらは家族同然のようだったからな、素直に情報を吐いてくれた」
「つまり、無傷か」
「いや、逃げられたりしたら困るから、足だけは撃ち抜いた。今頃は治癒の魔法で治っているとは思うけど」
「そうか……さて、話を戻そう。まず、この計画は各国同時に行われた。そして、その結果を伝えよう――」

 まずは、エルフの国……アグカル国。
 侵入していた魔物は全部で3体。1体は仲介役だった。

 だが、いずれも連合への強い忠誠心を持ち合わせており、戦闘となった。
 が、実戦向きではなかったため、多少の損害はあったものの、鎮圧に成功。

 しかし、得られた情報は皆無。
 連合に関する資料も発見されなかった。
 魔物は3体とも妖狐で、侵入経路は不明。だが、正面突破である可能性は低いらしい。



 次に、鬼の国……フェンゼル国。
 こちらは2体で、1体は妖狐。
 もう1体、仲介役となっていたのは、蛇型の魔物――バジリスク。
 極めて強力な毒を持つ、厄介な魔物だ。
 一滴でも毒が体内に侵入したなら、12時間以内に死ぬ。希少種だ。

 バジリスクを発見できたのは偶然に近い。
 それは、近くに隠れる場所がなかったこと、偶然にも、情報の引き渡し中だったこと。

 もし、バジリスクを発見できていなければ、事態は悪化していただろう。



 そして、ケモミミの国……ワインド国。
 こちらは、妖狐が4体。仲介役に使われていたのは、そのうちの1匹のペットの鳥だ。
 ペットの鳥は今は、騎士団が世話している。

 いくつか情報は吐き出したが、オレの引き出した情報と被っていた。

 

 そして最後に、リザードマンの国……ジュイラス国。
 こちらは妖狐が6体。
 そのうちの2体が仲介役だった。潜入先が商人だった。
 ばれなかった、ということは、商人としての腕は及第点であったということだ。

 こちらは、2匹が商人だったこともあり、平和的に解決したのち、牢屋行き。



「以上だ。我が国でも、ジュイラス国でも、待遇はお客だ。部屋は牢のままだが、居と食はしっかりさせている」
「この戦いが終わるまで、そのままの方がいいでしょう。ここに侵入していた吸血鬼《ヴァンパイア》は……?」
「ああ、あいつは連合に使われる前から働いていたからな、監視をつけてはいる」

 なるほどな……。各国の騎士団長と二つ名持ちがいなかったのは、そういうことか。
 妖狐は変装さえ見破れれば、あとは雑魚だもんな。『透視』があれば見破れるわけだし。

「今回の行動により、国家の内部からの崩壊は免れた。しかし今後、連合の活動が活発化する恐れがある。もしかしたら、隊長が出てくるかもしれん」
「そうなった場合の対処は?」
「隊長級であれば、二つ名持ちと騎士団長が相手だ」

 ここで言う「二つ名」とは、公式な二つ名だ。
 その点、【貴公子】はそうではない。オレや【魔導士】、ターバなんかはそうだ。
 そして、各国の騎士団長。

「二つ名持ちには、なにか見てわかる特徴を着けるのは?」
「仮面を配布することが昨日、会議で決まった。2人の持つ『千里眼』はないものが多いが、『透視』は最低条件に組み込んである」

 たしかに、『透視』があれば幻術を見破ることが容易だ。

「と、いうわけだ。ターバ、受け取れ」

 騎士団長が引き出しの中から取り出したのは、仮面だった。

「残念ながら『千里眼』はないのだが、『透視』はある」
「は! ありがたく頂戴いたします」
「騎士団長」
「なんだ、ライン?」
「はい。すでに仮面を着用している冒険者や騎士もいますが……」

 かなりの少数派だが、仮面を着ける『人』はいる。
 だからこそ、オレも仮面を着けることに抵抗が少なかったのだが。

「ああ、そこは……どうしようもない、ということで会議は終わった。騎士であれば、服装でわかるし、いいんじゃないか?」

 なんと……雑な……。大丈夫か、これ……? この状況。

「はあ…………」
「まあ、そういうことだ。ただ、ターバは外に出るときさえ着用してくれていたらいい。が、2人は今まで通り基本、着用していてくれ」
「「は!」」

 話は終わったか?
 さて、この後どこ行こうかなぁ……。エルフでいいいかな。

 オレや【魔導士】みたいな立場の者は――今のところ――いない。
 それだけオレたちって扱いにくいのかねぇ。

 そもそも、オレたちがどんな理由でこの任務に着けられているのかはわからないが。
 冒険者としても扱われるのは、正体を隠すためってのはわかる。

 でも、それだけでこの任務に? 違う気がする。

「――き、騎士団長様方!! き、きき、緊急事態です!!」

 そのとき、慌ただしい様子で1人の騎士が部屋に入って来た。
 そこに礼儀作法――ノックがないことから、持ってきた内容がどれほど緊急性が高いのかがわかる。
 だからこそ、誰も咎めない。

「所属と名前を言え」
「は! 近衛騎士第一隊所属! ヘルガー・ゲルマンです!!」

 所属と名前を言う必要はないだろうが、おかげで少し冷静さを取り戻したようだ。

「して、用件は?」
「はい! 王都東側の森より、魔物連合の大群が突如として出現! その数およそ1000! 隊長に準ずる量の魔力を保有する個体が6。その他は雑兵かと」
「雑兵は非覚醒者でも勝てる魔物か?」
「はい! 一概にそうとは言えませんが、銀あれば勝てるかと」

 優秀な騎士だな。
 軍隊の出現だけを知らせに来たのなら、無能の烙印を押すところだった。

「密集しているか?」
「はい」
「であれば、私が直々に出よう。隊長はいないと思われるんだな……?」
「はい。魔力探知の結果ですが」

 魔力探知でわかるのは保有する魔力量のみだが、魔物の場合、それだけでその魔物の威圧感まで伝わる。
 連合の隊長であればわかる。威圧感が半端じゃないから。

「……【魔導士】、お前は上空から戦場を見ていてくれ」

 観測要員か。
 まあ、飛行魔法が使えて、強いのは【魔導士】だけだし。何より、目の前にいるし。

 騎士がいるから、本名は控えて二つ名で呼んでる。

「では、私も共に」
「ああ、頼む。【水晶使い】、ターバ。お前たちはここで待機だ」
「「は!」」
「お前は私とミュイのアヌースを用意しろ!」
「は! 直ちに!!」
 



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