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本編 学園中等部編
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しおりを挟むそんな沈黙の中、意を決した様にフロースが口を開いた。
〈シュネー、話しずらいことだとは分かっているわ。けれど教えて。イヴェールの笑顔を奪ったってどういうことなの? イヴェールは、もっと笑う神だったの?〉
その問い掛けに、詳細を知っているであろう世代の者達は、より暗い表情となった。
「わしから話そう。これはお主達が誕生する前に起きた出来事じゃ」
そう言うと先代長老はことの詳細を話し始めた。
グラキエス達の世代の1代前に、イヴェールの世代が誕生した。それは彼らの誕生する数万年程前の話。
神達はおおよそ人間で言う7歳位の姿で誕生する。イヴェールが誕生すると、その目を奪われる程に完璧なまでの端正な容姿に、皆はそれはそれは歓喜した。
冬の神であるイヴェールだが、誕生直後はよく笑う愛らしい子であった。性格は冬の神にふさわしい冷たいものではあったが……。
イヴェールは世代が近く、同じ系統の神である氷雪の神シュネーに、兄に対するようにとても懐いた。そして二神はとても仲の良い友となった。そしてシュネーと以前から仲の良かった戦の神シュラハートと勝利の女神スリアンヴォスも、イヴェールはよく懐いた。
そうして時間が過ぎ、イヴェールが誕生して千年程経ったある日の事。シュネーに、想いを寄せる女神が出来た。その女神とは以前から交流があり、恐らく両思いであるだろう事は、シュネー自身も気付いていた。
この頃にはとても優秀だったイヴェールは、神としての使命を果たす為、仕事を教わり忙しなく働いていた。その間、忙しさのせいでシュネーとも殆ど顔を合わすことは無かった。
そうしてまた少しの時が過ぎ、イヴェールが仕事になれたてきた頃。シュネーは思いを寄せる神に、告白をしようと計画を立てていた。相手もどうやら告白の計画を立てていることに薄らと気付いていた様だ。
そんな浮き足立った雰囲気を感じながら、二神は何度か共に過ごしていた。そんなある日、シュネー、シュラハート、スリアンヴォス、そしてシュネーが想いを寄せる女神の四神が、会話をしながら休憩していた。
するとそこへ、シュネーを見つけたイヴェールが、翼で飛んでシュネーの胸に嬉しそうに飛び込んできた。
「シュネー、久しぶりだね」
〔っ、イヴェール。こら、突然飛び込むのはよすんだ。怪我をするだろう〕
「うん、ごめんね。あ、話し中だったみたいだね。彼女は誰だい?」
イヴェールは知らない神がいる事に気付くと、嬉しそうな笑みをやめて真顔に戻ってそう尋ねた。その笑顔から冷たい真顔に戻った事に、女神は驚いただろう。
〔彼女は私達の友人だよ〕
シュネーはイヴェールに友人だと紹介した。当たり前だ。シュネーはまだ想いを伝えていないのだから。しかしその紹介に、女神は胸が傷んだ。
当たり前のようにシュネーの胸に飛び込んできた最高級の美貌を持つイヴェール。それを受け入れているシュネー。彼女は目の前が真っ暗になり、その後のイヴェールの行動に気付かなかった。
イヴェールがシュネーにしたのと同様に、シュラハートとスリアンヴォスにも抱きついていた事を。
「シュラハート、久しぶり」
❮おう、久しぶりだな❯
「スリアンヴォスも、久しぶりだね」
❪ええ、無理はしてないみたいね❫
イヴェールが誕生してから千年程しか経っていない。人間から思えばとても長い歳月だが、半永久的に生き続ける神にとって、千年生きただけでは一人前とは程遠い。神は1万年生きて成人とされている。
まだ千年程度のイヴェールは、恋愛のれの字も知らない幼子と同じであった。女神の前でシュネーに抱きついた事が、どんな影響を受けさせるのか、知る由もしなかった。
❪イヴェールもそろそろこの抱擁を辞めなくちゃいけないわね❫
❮そうだな。これじゃどっからどう見ても恋人にしか見えねえから、って、おい……!❯
その言葉を聞き、女神は顔を真っ青にしてその場から逃げ去ってしまう。その後を慌ててシュネーが追いかけていく。
❪ちょっと!! あの子の前で言ってどうするのよ!!❫
❮わ、わりー、完全に失言だった❯
❪いいえ、話を振った私も悪いわ。……誤解を解けるといいけれど❫
しかしその思いは虚しく、女神は自室へ籠ってしまい、シュネーは彼女と一言も言葉を交わすことが出来なかったのだった。
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