379 / 410
本編 学園中等部編
232
しおりを挟む長老が決定してから数年が経った。この数年間、新しく長老になったシュネー達はものすごく忙しなく動いていた。
「最近ニクスに会わない」
⟬ああ、私も最近は避けられている気がする⟭
イヴェールがニクスと最近会えていないと言うと、グラキエスが共感した。
〈きっとニクスも忙しくしているだけよ〉
⟬だと良いが……⟭
そんな2人を慰めるようにフロースが言うと、イヴェールとグラキエスは納得したのかそれぞれ仕事に戻って行った。
〈ルミナスはどう思うかしら?〉
《我とフロースは最初から避けられていただろう》
〈そうね〉
ルミナスとフロースは、イヴェールとニクスと初めて挨拶を交わした後日から、何故かニクスには避けられていた。
ニクスはグラキエスに対する嫉妬心を隠している。イヴェールとグラキエスは無理に心の内を知ろうとする性格ではなかったため、違和感を感じても言及することは無かった。
シュネーにはグラキエスの事は大切だが同時に嫉妬心も抱いており、どうすれば良いか分からないと相談していた。
しかしシュネーも馬鹿ではない。それだけがニクスの心の内では無いことに気づいていた。だがシュネーも等しく言及はしない。
その冷徹な性格がもたらした行動が、イヴェール達の大きな失態であった。
あれからまた数年が経ち、イヴェールとグラキエスの二神とニクスの間には、目に見えるほど明らかな壁が生じていた。けれど会話が全く無くなったわけでも、喧嘩をする訳でもなかった。
そんなある日、以前長老となった魅了の神が、下界から伴侶にしたい人間を連れて来たいと言う。
神には死という概念が存在しない。そして伴侶として1人を決めると、それは絶対に覆ることなく、その者とは永遠に共に過ごす事になる。その相手が同じ神であろうが、下界の者であろうが例外ではない。
もしも下界の者を伴侶にするのならば、自身の神力を使ってその相手の寿命を消すことが可能だ。それもたったの1度しか叶わない。
その為神は安易に伴侶を決めることはしない。だが、魅了の神はその唯一の存在を決めたらしい。
「お主自身で決めたのならば誰も反対はせんじゃろうて」
そうして魅了の神は、唯一無二の伴侶を神界へと連れて来た。
その者は魅了の神の管轄する国で、国1番の美女と呼ばれていたそうだ。確かにその女性は美しい容姿を持っていた。しかしそれは、自分達の優れた容姿を見慣れた神達にとっては、平凡と言わざるを得ない程の美貌であった。
だが魅了の神にとっては誰よりも、例え神界内でも上位の美しい容姿を持つ自身よりも、美しく目に写っていることだろう。
魅了の神はその女性の寿命を無事に消すことに成功した。そして数百年近く、とても仲睦まじく幸せそうに過ごしたのだった。
だがそれは、長い時を生きる神にとってはたったの一瞬の幸福に過ぎなかった。
寿命が無くなった女性は、数千年が経つ頃には、日に日に横柄さが増していった。だが魅了の神にとっては最愛の人である為、彼はその横柄さをちょっとした我儘程度にしか思っていなかった。
そんな矢先、事件は起きた。イヴェールは魅了の神の伴侶になんて露ほども興味がなく、今までその者と会うことなんて殆どなかった。それこそ彼女が神界に来てすぐの頃の神界内の案内の時くらいだろう。
そんな中、イヴェールがフロースとルミナスの元へ向かう道中、彼女とばったり出くわしてしまう。その瞬間、彼女は魅了の神の伴侶でありながら、あろう事かイヴェールの事を口説き出したのだ。
「ねえ、貴方も神様よね? すごく綺麗で私好きになっちゃった。あの人にはそろそろ飽きてきちゃったのよね。ねえ、私を貴方の伴侶にしてくれない?」
彼女は猫なで声でそう言いながらイヴェールに触れようとした。それをイヴェールはさっと避けると、穢れたものを見るような目で彼女を見を下ろした。そしてそのまま何も言わずに彼女の前を去っていった。
その翌日、イヴェールが仕事をしていると、突然部屋に激怒した状態の魅了の神が押しかけてきた。
「おいイヴェール貴様! 一体どういうつもりだ!!」
「突然押しかけて何の用かな?」
「なんの用だと!? 貴様が私の伴侶を誑かしたのだろう!!」
魅了の神は怒り心頭の状態で声を荒らげてそう言った。するとその騒ぎを聞き付け皆がイヴェールの部屋へと何事かとやって来た。グラキエスやフロース達もやって来たようだ。
「彼を攻めないで! 貴方がいるにも関わらず、彼の甘い言葉と容姿に絆されてしまった私がいけないの!」
すると突然魅了の神の伴侶が二神の間に割って入り、泣き落としを始めた。
「この者はいったい何を意味の分からないことを言っているんだい」
「まだしらばっくれる気か!!」
<おい、イヴェール。やっぱり素直に話すべきだ。確かに伴侶のいる者を口説くのは堕落に値する事だが、恋に落ちることは仕方がないことだろう? 不憫に思って見て見ぬふりをした俺にも責任がある>
そう言って今度は、何故か雪の神であるニクスが、イヴェールに向けて憐れむ表情でそう言ったのだった。
21
お気に入りに追加
723
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる