転生皇子の新生活

𝐍 𝐢 𝐚🐾

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本編 学園中等部編

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 ルーカスが赤子を抱いて屋敷の方へ戻ると、ディムロットが屋敷の鎮火を行っている。


 少し顔色が悪いね。魔力を使いすぎたんだろう。


「ディムロット、代わるよ」


「ルーカス殿下、すみません」


「いや、転移に時の魔法を使ったんだ。魔力は相当減っているはず。安易に魔力を一度に出せないんでしょう? この子を抱いて少し下がっていなさい」


 そう言うとルーカスはディムロットに赤子を渡して、体内の魔力を一気に手のひらに集める。
 そしてそれを放出し、屋敷全体を氷で覆った。屋敷はパキパキと音を鳴らしながら、凍り炎が消えていく。


「っ、」


「ルーカス殿下!」


「……平気」


 ルーカスはこの広い屋敷の全体を氷で覆うため、魔力を一気に使った。その為体内の魔力が急に減り少しふらついた。


「す、すげぇ……」


 ルーカスはディムロットから赤子を渡されると、村人達の方へ向き尋ねた。


「誰かこの子の名前を教えてくれないかい?」


「あ……」


 村人達は、ルーカスの問いに暗い顔をして黙り込んでしまう。


「どうしたのでしょう?」


 ディムロットは黙り込んだ村人を見て不思議そうにルーカスに言った。すると1人の村人が、おずおずと口を開いた。


「俺達は、名前を知らないんだ……。5ヶ月になった時に、村でお披露目をするから、その時に名前を伝えると、旦那様達が……」


「っ、では、この子の名を知る者は、もういない、ということかい」


「で、でも! 旦那様達なら……!」


「そ、そうだ……、旦那様や奥様を見つければ……」


 村人達は、暗い表情をしながら口々にロージー達を見つければ名前がわかると言った。彼らとて、赤子だけが戻ってきた事で、ロージー達がもう亡くなっている事など、気が付いているだろう。それでも、現実を認めたくないのだろう。


 彼女達は、村人達にとても慕われていたみたいだね……。


「ディムロット、父様の所へ戻って騎士達を派遣してきてもらえるかい?」


「……分かりました。絶対におひとりで動かないで下さいね」


 ディムロットは転移の魔法を使い、1度皇城へと戻った。するとルーカスは赤子を抱えたまま村人達の方へ向いて言う。


「直に騎士達が派遣される。君達は家に戻っていなさい。調査が済み次第公表されるはずだよ」


「あ、あの、坊ちゃんは、どうなるんだ……?」


 1人の村人がそう言うと、ルーカスは腕の中でおしゃべりをして笑っている赤子に目をやった。そして頭を優しく撫でながら言う。


「オスカーの孤児院に入れるか、どこかの貴族へ養子に出すことになるだろうね。大丈夫。悪い様にはしないよ」


 それを聞くと村人達はほっと息を吐いた。そしてルーカスに挨拶をすると家へと戻って行ったのだった。

 それを見届けてルーカスは赤子を抱いたままディムロットを待った。すると突然、赤子が手を伸ばしてルーカスの翼に触れた。


「あ~ぶ~、きゃぁ~」


「これが不思議かい?」


 ルーカスは優しい声でそう言うと、翼を動かし赤子の前へと持ってくる。赤子は不思議そうに翼に触れ、翼を掴むと、口元へ持っていきぱくりと口に入れてしまう。


「わあ、食べてはいけないよ。汚いからね」


「う~? あ~う~」


 ルーカスは慌てて翼を赤子の口元から離し注意すると、赤子は不思議そうに した後、翼を掴んでまた口に入れようとする。


「ふふふ、だめだよ」


 ……この子の名前は、なんと言うんだろう。屋敷がこの様子では、形見など残っていないはず……。せめて、名前だけでも分かるといいな。


 ルーカスがそんな風に考えていると、目の前にディムロットが魔法で飛んできた。


「お待たせ致しました。騎士らは半刻ほどで準備を整えこちらへ来るそうです」


「分かった。ありがとう。……ねえ、ディムロット」


「どうしました?」


「この子の名前を、君の魔法を使って見つけられないかな?」


 ルーカスは少し躊躇いながらそう言った。するとディムロットは少し驚いたあと、暗い表情で言う。


「屋敷がこの様子では、難しいかもしれません……」


 時の魔法は建物や物が見たり聞いたりしたものを見ることが出来る。しかしそれは、その建物や物が、今も変わらぬ形であればの話だ。それに、普通ならば何時の出来事を見るかを指定できるが、変わってしまったものの過去を見るのは、時間の調整が出来ないのだ。
 屋敷は燃えてしまい、建物は崩れて原型を留めていない。もし過去が見えたとしても、断片的なもので、何時を見るかも試さなければ分からない。そして試したところで赤子の名前が分かるとは限らないのだ。


 魔法とて万能では無いため、何十年も前の出来事を見る事は叶わない。それでも、十数年程であれば見る事が出来る。その十数年のうちの、たった1年程の出来事を当てるのは、それも赤子の名前を見るのは、至極確率の低い事なのだ。


「そう、だよね」


「しかし、試してみることは出来ますよ。あと2回であれば、リスクもなく時の魔法を使えますから、やってみましょうか」


「ディムロット……ありがとう」


「いいえ」


 ルーカスは嬉しそうにお礼を言った。そしてルーカス達は屋敷の中へ入り、時の魔法を使う準備をしたのだった。





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