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本編 学園中等部編
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しおりを挟むルーカスとディムロットは転移の魔法でロージーの屋敷まで飛んだ。すると、屋敷は黒い煙をこれでもかというほど立たせ、炎炎と燃えている。
「旦那様達の屋敷が!!」
「どうやって消したらいいんだ!!」
「旦那様や奥様達はどこに!?」
屋敷の周りには村人達が大勢来ており、青い表情でどうすることも出来ず、ただ呆然と立ち尽くす者、火を消そうと井戸や川から水を汲んでくる者、ロージー達を探そうと集う者達もいる。
「ルーカス殿下、どうされますか?」
「一先ず屋敷の鎮火しよう」
「分かりました」
ルーカスのその言葉に、ディムロットは水の魔法で、屋敷に向かい大量に水を放射する。
「な、なんだ!?」
「あれは、魔法士様か?」
急に出てきた大量の水に、村人達は驚きざわついた。
「これから鎮火を行う。危険だから少し下がっていなさい。ディムロット、少しの間頼めるかい? 僕は人の気配を探る」
「承知致しました」
ルーカスはもう黒幕は分かった為、素のまま村人達に指示を出した。それを予想していたのか、ディムロットは驚くことなく返答する。
そしてルーカスは神経を集中させ辺りに人の気配がないかを探る。
……屋敷内に人の気配がひとつもない。全滅か、刺客を送ったと言っていたけれど、その気配も全くない。逃げたのかな?
ルーカスは屋敷の気配を探り終えると、今度は屋敷の周りを半径5km程に集中し、殺気立った気配がないかを探る。この村は山々や渓谷に囲まれている為、5kmの山岳を越えた所にある村、そしてそれを越えた街の辺りまで、人の気配は殆どないのだ。
ルーカスは集中して気配を探る。すると殺気を飛ばしながら村の方へ走って行く気配を見つけた。
気配は6つ。殺気を飛ばした大人4人と、追いかけられている大人1人、そして、その大人に抱えられた赤子が1人。
どうして赤子の気配が……?
「この屋敷には赤子がいるのかい?」
ルーカスは村人達にそう尋ねた。
「あ、ああ。旦那様と奥様の子で……4か月前に生まれた」
「ディムロット、鎮火は任せるよ。僕は刺客を追う」
「承知致しました」
そう言うとルーカスは、翼を体内から出し広げると、気配のした方へと飛んでいってしまう。
「……お、い、なん、だ? 翼……?」
「まさか、、第3皇子殿下……か? じゃあ、ディムロットって、、魔法士、団長の……?」
村人達は、驚きの余り腰を抜かしてその場に座り込んだ。
「皆さん危ないから下がって。怪我をする」
ルーカスは空を飛びながら気配を追って、刺客達の方へと向かう。そして彼らに近付いた時、赤子を抱えた女性が、渓谷の上で刺客達に追い詰められていた。
「はぁ、はぁ、手間かけさせやがって」
(どうにかして、坊っちゃまだけでも……!!)
刺客の1人が、赤子を抱えた女性に向けて剣を思い切り振り下ろす。ルーカスは急いで氷の魔法を発動し、刺客達を氷柱で突き刺したが、刺客達が倒れる前に、惜しくも女性は刺客の剣で切られてしまう。
「あああ……!!!」
そして女性は、反動で後ろに倒れ込み、そのままばたりと渓谷ギリギリの地面に倒れ込んだ。女性が抱えていた赤子は、女性の抱える力が弱まり、その身は深い深い渓谷へと放り出されてしまう。
「っ……坊っ、ちゃま、、」
まずいっ!!
ルーカスは慌てて翼を動かし、赤子の下まで回り込み赤子をなんとかキャッチする。それを見た女性は、安堵しそのまま息を引き取ってしまったのだった。
「ふっ、うぅ……うぇ~ん!!!」
赤子は全てが終わった事を悟ったように、刺客や女性が息絶えた瞬間、大声を上げて泣き叫んだ。
「えぇ~~ん!! うぅっ……」
「……来るのが遅くてごめんね」
「うう……! ふぇ~ん」
どう泣き止ませれば良いんだろう。……そうだ。
ルーカスはそう考え混み、何かを思いつくと、歌を歌いだした。お腹の中で聞いた、シャーロットの歌を思い出しながら、赤子が泣き止むよう願い歌う。
魔力は込められていないが、慈しむような柔らかく優しい歌声に、赤子はすっかり泣きやみ笑顔を見せる。
「きゃっ、きゃぁ~。あ~ぶ!」
「ふふ、良かった。皆の所へ戻ろうか」
優しく微笑みそう言うとルーカスは、翼を大きく広げ、優しく空を飛び、ディムロット達の元へ向かったのだった。
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