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本編 学園中等部編
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しおりを挟むあの後、ルーカスが座って少しの間休憩していると、リヴァイやアレクサンダーが控え室へと戻ってきた。この頃にはルーカスの声も普通に出せるようになっていた。
「殿下っ……!!」
リヴァイはルーカスの顔を見ると、ルーカスの元へ行き勢いよく抱きしめた。ルーカスもそれに応えてリヴァイの背中に腕を回す。
「……申し訳ございません、殿下。私は不純な動機から貴方に、試合に勝って欲しくないと思ってしまいました。私がそれを望んだ為に殿下がお怪我をなさったなどと、自惚れたことは考えておりません……! しかし、貴方がご無事である事を確認した今、私は殿下がご優勝為さらなかった事を嬉しく思ってしまっております……」
リヴァイは本当に苦しそうに、ルーカスにそう伝え謝った。
「そっか。けれど大丈夫だよ。傷も治してもらったから、気にしないで」
「喉に剣が刺さったのです……。大丈夫なはずがございません。あれ程、苦しそうにされて……。なのに私はこんな、、」
リヴの手、震えている。本当にリヴは、真面目で優しいね。
リヴァイは震える手でルーカスを強く抱き締めた。
「リヴ、ここに座ってくれるかい?」
ルーカスは控え室にある椅子を差しリヴァイにそう言った。
「……はい」
リヴァイはおずおずと椅子に座る。するとルーカスは、リヴァイの前に立って、リヴァイの頬を両手で包み、自分の顔を近付けた。そしてそのまま彼の頬に口付ける。
その行動に、リヴァイだけでなく周りで2人を見守っていた皆も目を見開いて驚いた。
「殿下……?」
ルーカスはそれを気に止めずリヴァイの顔中に口付けをする。そして口付けを止めるとリヴァイの顔を見て言う。
「人はね、凄く驚くとその事ばかり考えて、先程のことを忘れてしまうんだよ」
そう言い終えると、ルーカスは親指でリヴァイの唇を優しく撫でてから、顔を上げさせる。リヴァイや他の皆はルーカスが何をしようとしているのか気付いただろう。
ウィリアム、ラルフ、ノーマンが、それぞれリリアン、ヴァイオレット、フローレンスの目元を手で覆った。
そしてルーカスはリヴァイの唇に口付けをした。
長く触れるだけの口付けを終えると、ルーカスはとても甘い表情でリヴァイの事を愛おしそうに見つめた。その視線にリヴァイは頬がほんのり赤く染まった。
「ねえリヴ、自惚れてよ。沢山嫉妬もして構わない。僕は、君が思っている以上に……君の一つ一つの行動に嬉しくなっている」
その言葉にリヴァイは驚いた。
「僕は君が愛してくれる限り、君に何をされたって嬉しく思ってしまうよ。君に殴られようが、蹴られようが、罵倒されようが、そんな事でも嬉しくなる。だって、もし君がそんな事をする時は、決まって嫉妬をした時だけだからね」
「……私は殿下にそのような事は出来ません」
リヴァイが困った表情でそう言うと、ルーカスは嬉しそうに笑って言う。
「ふふ、知っているよ。あのね、リヴが嫉妬深いことはこの2年でよく分かったつもりだよ。けれど、僕の君に対する愛だって、物凄く重たいんだよ。だから君に嫌われない限り、僕は君に何をされたって構わないんだ」
「……私が貴方を嫌う事も有り得ません」
「では、僕は一生君の言う不純な動機を許し続けるだろうね。あっ、でも全て聞ける訳では無いからね。誰とも会って欲しくないから城にずっと篭っていろとか、今回の様に大会に優勝して欲しくないからわざと負けろとかも出来ないかな。けど、君がどんな風に思っているのか知りたいから、教えてくれると嬉しいな」
(ああ、この方は私の我儘を許してくれる。その上で叶えられるものとそうでないものをちゃんと判断して、出来うる限りで私を甘やかす……)
リヴァイは自分の事をしっかり考えようとしてくれるルーカスに心底嬉しく感じる。
「……私の願いは殆どが叶えられるようなものではございませんよ」
「そうかい? 案外簡単に叶えられるものもあるかもしれないよ。だから、気が向いたら教えてね」
(本当にこの方は、私を甘やかす天才だな……)
リヴァイがそう思っていると、ルーカスが思い出したように言う。
「あ、そうだ。急にキスをしてごめんね。返事を待ってなんて言っておきながらキスをするなんて、ずるかったね」
そう言ってルーカスが申し訳なさそうに謝った。
するとリヴァイは、ルーカスの腕を引いて、自分の方へ顔を引き寄せ、ルーカスの唇に噛み付くように口付けをした。
っ!?
ウィリアム、ラルフ、ノーマンの3人は、またもや慌てて妹達の視界を手で覆う。
そしてリヴァイはルーカスの唇に軽く甘噛みをして、名残惜しそうに離れた。ルーカスは顔を真っ赤にして口元を手で抑える。
唇、噛まれた……。
「……これであいこにして下さい」
その獲物を捉えた獣の様なリヴァイの瞳に、ルーカスはただ顔を赤くして頷くことしか出来ないのだった。
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