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本編 学園中等部編
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しおりを挟む翌日、ルーカスは午前はいつも通り過し、午の刻前に、出かける準備をする。そして準備が整うと、門に向かう。
ルーカスが門に着くと、リヴァイと馬車が既に到着していた。リヴァイはルーカスに気付くと挨拶をし、2人は馬車に乗って街へと出発した。
街へ向かう間、馬車でルーカスが言う。
「ねえ、髪と瞳の色を変えようと思うのだけど、良いかい?」
「それは構いませんが、変装なさるのですか?」
「うん。せっかくのデートだから、素で行きたいでしょ?」
「はい……」
ルーカスがニヤリと笑って尋ねると、リヴァイは少しだけ照れながら返答する。
「ねえ、リヴ。髪と瞳を黒にしてもいいかい?」
その言葉に、リヴァイは目を見開いて少し固まった。
「僕もね、前世では黒髪黒目だったんだ。髪の色は君とお揃いだね。それに、君の色を纏えるのは、とても心が弾むよ」
ルーカスがはにかんでそう言う。リヴァイは、手を伸ばしてルーカスの髪に触れた。そしてその髪に、口付けをする。
「私の色を纏ってください。お返事が頂けましたら、正装も黒が良いです……」
リヴァイが我儘を言う子供のようにそう言うと、ルーカスは少し頬を赤らめこくりと頷いた。
(本当に可愛らしいお方だ)
ルーカスは髪と瞳が黒くなるようイメージをする。すると、彼の色が黒に変わった。そして結っていたリボンを取り外し、左腕に巻き付けた。
「凄いですね……。以前は既に色が代わっておられましたので、過程を見ると、とても不思議な感覚になります」
「そうだね。以前僕も鏡で見た時は驚いたよ」
リヴァイは、ルーカスの髪と瞳をまじまじと見ている。それにルーカスが笑うと、少し恥ずかしそうに謝った。
「それから呼び方だけど、殿下だとばれてしまうよね? だから、呼び方を変えようか」
「……はい」
うーん、そうだね……。テオやルーカスはだめだね。
「やはりルークが妥当かな? けれど、ばれてしまう可能性も……」
ルーカスはじっくりと呼び名を考える。
リヴならば、アルシアンに触れたって嫌ではない。むしろ嬉しいから。
「……そうだ! リヴ、僕の事はシアンと呼びなさい」
「っ、それは、アルシアンの名に触れてしまいます……」
「僕はもう、君に決めているよ。君にならば呼ばれたい。アルシアンでは長いしばれてしまう。アルは、他の者達に呼ばれてしまった。せっかくルミナスがくれた名前だから、君には君だけの特別な呼び方をして欲しい。君だって、僕が最初で最後なんでしょう?」
ルーカスは少しむくれてリヴァイに問うた。
「はい。貴方が、シアン様が、私の最初で最後です」
ルーカスはとても嬉しそうに笑う。
「だけどリヴ、様と敬語はなしだよ! 君が敬語を使うのは、家族と皇族に母上の事だけでしょう? 公爵達にも使わないのに、僕に使うと変だからね」
「それはいけません……!」
「むぅ、以前お忍びで出かけた時に、僕の言った呼び方をすると約束したよ?」
ルーカスが拗ねるように言うと、リヴァイは困った顔をする。
「いいえ、約束ではなく、善処すると言ったはずです……」
覚えていたか。
「ならば、善処してよ」
「殿下……」
「ほら、僕の事はどう呼ぶのだったかい?」
「……シアン様」
リヴァイが様を外さずに呼ぶと、ルーカスはリヴァイをじっと見つめた。
「…………シアン」
「うん、なあに?」
ルーカスはとびきり甘い笑顔をリヴァイに向けた。リヴァイはその笑顔にやられ、耳を赤くする。
「……昼食と本屋が終わった後に、寄りたい所がありま、、ある……。そこに、寄ってもいいか……?」
リヴァイはルーカスにじとっとした視線を向けられ、訂正しながら敬語を外して話していく。
「構わないよ。どこに行くんだい?」
「雑貨屋に行きたい……」
「では、本屋のあとは雑貨屋だね。そろそろ着くはずだから、まずは昼食を取りに行こうか」
「……ああ」
そうして馬車が少し走ると、ルーカスとリヴァイの今日昼食を取る場所に着いた。流石と言うべきか、馬車を降りるとリヴァイはつかえることなく、しっかりと敬語を外した。
2人の時は、ルーカスへの敬意が勝つが、外に出た今は、ルーカスの計画の邪魔にならないようにと言う気持ちが勝ったようだ。
「では、中に入ろうか」
「ああ」
店の中に入ると、2人は個室へ案内される。ルーカスの身分が分からないとはいえ、リヴァイも公爵家の子息だ。大物の客に、店員は少し緊張している。
2人は個室へ入ると、すぐに注文を済ませて料理が運ばれて来た。
「美味しそうだね。この後は本屋と雑貨屋に行くけれど、他に行きたいところはないかい?」
「シアンの行きたいところに行けば良い」
「では、どこに行くか考えておくよ」
「は……ああ」
少し意地悪しすぎたかな。
「リヴ、2人きりの時はいつも通りで構わないよ。君の反応が可愛くて意地悪してしまった。ごめんね」
「……いつも殿下に揶揄われている気がします。私も殿下を揶揄いたいです」
「えっ、例えばどんな……?」
「そうですね。私の行動に顔を赤らめて下さる貴方も好きなので、そんな顔を見れるように揶揄いたいです」
そう言ってリヴァイは悪戯に笑う。その表情に、またもや顔を赤らめてしまう。
「……僕も、君のその悪戯な表情も、結構すきだよ」
「それは、とても良い事を聞きました」
今の表情、凄く意地悪だ……。
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