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本編 学園中等部編
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しおりを挟むルーカスとリヴァイが寮の自室に戻ると、ルーカスはリヴァイに、ウィリアムの部屋に行ってくる事を告げた。
「送り迎えはセドリックがしてくれるみたいだから、リヴは先に湯浴みとか済ませておいてね」
「…分かりました」
ルーカスの言葉に、リヴァイは少しだけ寂しそうな表情で返事をした。しかしルーカスはリヴァイの顔を見ていなかった為、その表情に気が付かない。
そしてルーカスはそのまま、帰ってきてからのする湯浴みや就寝の用意をする。その後少しすると、扉が叩かれた。
セドリックがやってきたようだ。
「ではリヴ、行ってくるね」
「はい」
ルーカスはそう言って部屋を出て、セドリックとウィリアムの部屋に向かった。
(この部屋に1人になるのは、久しぶりだな……)
ウィリアム達の部屋の前に着くと、セドリックが扉を開けた。
「ウィル、連れて来たよ。私はこのまま湯浴みに行くから、ルーはゆっくりしていってね」
「ありがとう、セドリック」
気を遣って2人で話が出来るようにしてくれたんだね。
セドリックは直ぐに浴室に向かって湯浴みをする。
「ルーク、そこに座って」
ウィリアムに促されて、ルーカスはウィリアムの向かい側のソファに座った。
「単刀直入に聞くけど、ノアちゃんと喧嘩したの?」
その真っ直ぐな問い掛けに、ルーカスは一瞬戸惑った。
「……していないよ」
「そう」
ルーカスが少し躊躇ってから否定したが、ウィリアムは追及してくることはなく、ただ端的に返した。そして話を変える。
「昼間に騒動があったみたいだね。足を怪我したと聞いたけど、大丈夫?」
「うん。医務室で直ぐに治療してもらったからもう平気だよ」
「よかった」
ルーカスの言葉を聞き、ウィリアムは凄く安堵する。
「ノアちゃんが凄く怒っていたという噂が私の所まで届いていたよ。それから、医務室から戻ると、ルークとノアちゃんの間の空気が、いつも以上にギスギスしていたという事も」
ウィリアムはいつもの優しい笑顔で、ルーカスの目を見据えた。
……最初の質問は、知っていて尋ねていたんだね。
「初めは、ノアちゃんが余りにも強く怒り過ぎたから、バランスを取るために演技しているのかと思ったよ。けど、君達の様子を見て違うと分かった」
ウィリアムはルーカスに話して欲しいと言うような視線を送った。
「……本当に、喧嘩をした訳ではないよ。ただ、僕が少し、リヴを避けてしまっているだけ。ねえ、ウィル兄さん、僕、リヴに愛想をつかされてしまった……」
その言葉を聞き、ウィリアムは目を見開いた。
「どうしてそう思うんだい?」
ルーカスはウィリアムに今日あったことを全て話した。リヴァイ達の友人が来た為、キャサリンが来てからならば友人達と回ってきても構わないと言ったこと。
するとリヴァイに、護衛1人で安全だと思っているのならば余りにも軽率だと言われたこと。
ルーカスを手篭めにしたいなどと言っていた者がいた。口に出していないだけで心の中でそう思っている者が大勢いるのだと。それでもリヴァイ達が離れても構わないのかと問われたこと。
「ノアちゃんがそんな事を……?」
「いつものリヴなら、絶対にあんな風には言わなかった。リヴが心配して言ってくれていることは分かっているから、気を付けようと思った。それなのに、あんなことになった……」
「それはルークが悪いことではないよ」
「……リヴに、折角忠告して貰ったのに、あんな事になって、手を煩わせた事を謝ったんだ。そしたら、僕はリヴがそんな事で怒ると思っているのかと怒られてしまったよ」
ルーカスは自分を卑下する様に笑ってそう言った。
「それでルークは、ノアちゃんに愛想をつかされたと思ったのかい?」
その問いにルーカスは頷いた。そして物凄く、悲しそうに、辛そうに言う。
「その時のリヴの瞳が、声が、凍える程冷たかった……」
ルーカスのその表情に、ウィリアムは思わず黙り込んでしまう。
「僕には、リヴが何に怒っているのか分からないから、どう接すれば良いかも分からない。これ以上、リヴに嫌われたくないよ……」
「……だからルークは、ノアちゃんを避けたんだ?」
問い掛けにルーカスが頷く。するとウィリアムは困った様な笑顔になって言う。
「ルーク、今はノアちゃんと距離をおいても構わないと思う。けれどいつかは、ちゃんと向き合わなければならないよ」
「……うん」
このまま避け続けても、何にもならない。けれど、今は、向き合える自信がないよ……。
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