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本編 学園中等部編
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しおりを挟むあれからルーカス達は色々な教室を回った。エドワードやセドリックの教室にも行った。そして、最後にウィリアムの教室の射的に行こうということになる。
射的と言ってもこの世界には銃などない。銃の代わりに弓を使って的を狙うゲームだ。
中等部4年のSクラスの教室に行くと、ウィリアムだけでなく、オーランド、ノーマン、グレースもいて店番をしているようだ。
「ルーク、来てくれたんだ」
「リオ兄上」
ルーカス達に気付いたウィリアムが彼らの元へやってきた。すると、後ろからオーランドとノーマンもやってくる。
「人数が多いな。全員参加するか?」
「ルーカス殿下、私達3人は見学しておきますね」
キャサリンがそう言うと、アリッサとカメリアも頷いた。それに対してルーカスが不思議そうに言った。
「参加しないのか?」
「私達は対して上手に弓が引けるわけでもございませんので、皆の邪魔になってしまいますから」
キャサリンの言葉は、貴族の一般常識で考えれば普通の事だ。女が武術を身に付けるなど生意気だ、武術を身に付けたら調子に乗るだけだ、などと言った声が貴族社会では一般的なのだ。
しかしルーカスには、キャサリン達が何故他人への迷惑をそこまで考える必要があるのか心底分からない。
「別に共にやればいいだろ。どうせ遊びなんだ。そんなどうでも良い他人の事を考える暇があるのなら、私と遊べ」
その言葉に、この教室にいた皆が目を見開いた。そしてキャサリンが嬉しそうに笑って言う。
「ふふ、それもそうですね。側近が主よりも他人に気を配るなど、それこそ相応しくございませんでした。
アリッサ、カメリア、貴方達も一緒に遊んでくれるかしら?」
「ええ」
「勿論よ」
「では、9つ弓を用意致しますね」
アリッサ達の返答を聞き、ノーマンがすぐに弓の準備をする。
「テオ殿下って、本当にお優しいわよね」
「うん。他の殿方は女は男を立てて、尽くすものだと言うもの。悔しいけれど、私達もそれを当たり前に思っていたわ」
ノーマン達が弓を持ってきてくれると、皆はそれぞれ8m先の的の前立った。矢は1人3本で的には外側から点数が着けられており、中心に行くにつれて得点が上がる。
「ご自身のお好きなタイミングで射て下さい」
ノーマンがそう言うと、フレーゲル達は矢を射始める。ルーカスも的を狙って弓を引いた。このゲームは射る速さよりも的中率の為、ルーカスは弓道の所作で的を狙う。皆はその姿勢に目を奪われた。
一糸乱れぬ美しい姿勢に、滑らかで洗礼された所作に、そして極めつけに的を狙う凛とした視線と表情に。
ルーカスが矢を放つと的のど真ん中に命中した。
「やべ……鳥肌立った」
「私もだ……」
そして続けて2射とも、的の中心に突き刺さる。
「ルークの弓の的中率は本当に凄いね」
「ありがとうございます。近い距離でしたので、私の筋力でも射る事が出来ただけです」
ルーカスはそう言って、差し出されたウィリアムの手に弓を置いた。するとウィリアムが少し声を潜めてルーカスに言う。
「部屋に戻ったら、セドを迎えに行かせるから、私の部屋に来てくれるかな? 話したい事があるんだ。帰りもセドに送って貰うから」
話……? 急ぎのものかな?
「分かりました。お待ちしております」
ルーカスはウィリアムと約束をした後、オリエンテーション終了の時間の為、リヴァイ達に教室に送って貰う。そして皆もそれぞれ自分の教室に戻った。
教室にみんなが揃うと、イライアス先生が話をする。
「準備と店番、おつかれさん。明日は観劇を楽しんでこい。ルナとテオはコンテスト負けんなよー。んじゃ解散ー」
イライアス先生の緩い話を聞き終わり、皆が解散する。
「テオ、ちょっとこっち来い」
ルーカスがリヴァイ達を待っていると、イライアス先生に呼ばれる。
「昼間のあいつらだが、ふた月自宅謹慎となった。で、あいつらの家族がお前に謝罪したいと言ってるらしい。だが正直受けなくても良いぞ」
イライアス先生は渋った表情で言った。
「あの者達は、子爵家の子息だったな?」
「そうだ」
イライアス先生が渋る理由は簡単だ。その子爵夫妻達は、子爵位の家でありながら、有り得ないほど高飛車で傲慢なのだ。謝罪と言っても、反省したからではなく、自分達の面子を守る為のものなのだろう。
はあ、断ってもめんどくさそうだけどね……。
「受けるかどうかは考えておく。煩わせて悪かったな」
「いや、俺も監督者として事前に気付くべきだった悪かった」
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「あの後ノアは大丈夫だったか?」
イライアス先生が尋ねると、ルーカスは少しだけ心臓がはねた。
「殺伐とした雰囲気だったが、今は落ち着いている」
「それは良かった。じゃあまぁ、明日のコンテスト頑張れよー」
そう言ってイライアス先生は教室を出て行った。その後すぐにリヴァイ達がやってきて、ルーカスも自室へと戻って行ったのだった。
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