254 / 410
本編 学園中等部編
107
しおりを挟むルーカスとプレストン伯爵がお茶会の会場に着くと、キャンベルがルーカス達の元へやってきた。
「お久しぶりです、テオ殿下! いや~、学園でのご活躍は我々にも届いておりますよ」
キャンベル男爵が声高らかに、ルーカスを褒めるが、表情からはルーカスを馬鹿にしている事が手を取るようにわかる。
ルーカスはキャンベル男爵にジェームズ子爵夫妻達のいる机へ案内される。その間、他の者達がルーカスを罵倒する声がヒソヒソと聞こえる。
「((ヒソッ…なんであれが幹部達と一緒の机なんだよ」
「((ヒソッ…ほんとだよな。学園でのあいつの噂聞いたか?」
「((ヒソッ…聞いた聞いた。実は優しくて、皇帝達との関係も良好だってやつだろ?」
「((ヒソッ…ああ。なんでそんなやつが……ひっ!!」
ルーカスがそちらの方を見やると、そんな話をしていた者達と目が合った。彼らはルーカスと目が合ったことに気付き一目散にその場から逃げ出した。
ルーカスは机に案内されると、馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの態度で椅子に座る。
「キャンベル、あの者達の会話が聞こえていたな? まさかとは思うが、そなたらも私を疑っている訳では無いな?」
「いえいえ、そのような事は決して」
キャンベル男爵は涼しい顔でそう答える。しかし、ルーカスにはキャンベル男爵達が疑っている事が分かっている。するとジェームズ子爵が口を開く。
「我々も疑っている訳ではございません。しかし、殿下の行動は我々の意に反する事です。いじめや熱中症など、放っておけば良いでしょう」
「はあ、頭を使え。父上はルカ兄上を皇太子にする気が満々だった。だが、高等部に入った今もその気が無い。秘密裏に進めているのならばとっくに立太子しているはずだ」
ルーカスは呆れた様な声色で言う。
「だが、今は民がそなたらの流した根拠の無い噂を信じきっている」
「噂と言うと、神が皇帝にお怒りだというものですか?」
「ああ。だから安易に立太子出来ないのだろうな。その隙に私は民からの支持を得ることにした。わざわざ、あんな者達に優しくしてやるのは面倒だが、案外妙案だとは思わんか?」
「……それは確かに、民の支持率は殿下に集まっておりますが」
キャンベル男爵は少し面白くなさそうな表情でそう言った。
「それでは皇帝との関係が良好というのは?」
「さあな、民が勝手に言っているだけか、もしくは父上らがそんな噂を流したか」
「心当たりはないと?」
「ああ、全くないな。まあ、その噂のおかげで民は私を余り疑わなくなったが」
ルーカスの言葉に、ジェームズ子爵夫妻達は納得は出来ないが、興味が薄れたようで、それ以上言及してこなかった。
「そんなことよりも、いつになったら頭領と合わせるんだ? お茶会に参加してから6年になるぞ」
問い掛けを聞いて、皆が口を噤んだ。それに対しルーカスが空気を冷たくする。
「なんだ、合わせる気がないのか? それならば私がそなたらに協力する必要も無くなるな」
ルーカスが凄んで言うと皆の背筋が伸びる。
「……あの方は、用心深いのです。殿下が本当にあの方にとって、信頼出来うるのかを慎重に判断しています」
「今はそういうことにしておいてやる。だが、私はあまり気が長くない。それだけは覚えておけ」
パターソン伯爵が後ろめたそうにそう答えると、ルーカスは彼らを睨み付けてから言い、席を立った。
はあ、本当に合わせる気がないのなら、時間が無駄だよ。ただでさえ、学園に入ってからお茶会に来れる回数が減ったんだから。次回も会えないのならば、後ろを付けてみるのもありだね。
ルーカスはそう思いながら、会場を散歩して、結局今回も有益な情報を得られずお茶会が終了し、皇城まで帰って行った。
◇ ◇ ◇
お茶会後、パターソン伯爵からあの方に手紙が送られてきた。
内容は、ルーカスが会わせろと催促していた事だ。
そろそろ会わなければ、本当にルーカスが離れて言ってしまうかもしれないと書かれている。
そんな事は分かっている! だが、どうしようもないだろう!! それに私は絶対にあの化け物に一泡吹かせてやりたいのだ。簡単に会ってたまるか。
あの方は何とかしてルーカスのことを引き止めろと記し、パターソン伯爵に手紙を送り返した。
21
お気に入りに追加
727
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。


【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる