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本編 学園中等部編
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しおりを挟むルーカスの言葉に、リヴァイは理解はした。しかし、納得は出来ないようだ。
「それでも、私が殿下の邪魔をしてしまった事に変わりありません……」
分かっているよ。君が僕の為にそう言ってくれていることを。けれど、リヴは、何も悪くないのに……。
「僕は、君の事を邪魔に思ったことなんて1度もない。それは、これから先も変わる事のない事実だよ」
「しかし……! 今回の件で、殿下が動きづらくなったことも事実です。私がコールマン嬢を近付けさせなければ、殿下の前で倒れる事もありませんでした」
リヴァイは、こんな事が起きる前にアンジェリーナを遠ざけておけば良かったと後悔している。
それを知ったルーカスは、リヴァイに思い切り抱き着いた。
「っ!!」
「そんな事言わないでよ。言ったよね、リヴは何も悪くない。だから、自分を責めないで……」
リヴァイはルーカスに抱きつかれた事に凄く驚いた。しかし、ルーカスが悲しそうな声でそう言うと、後悔や責任感で支配されていた頭が少し冷める。
「ねえ、リヴ。僕ね、母様が亡くなった時、それを自分のせいだと思った。僕を産まなければ、優しい母様が亡くなることなんて無かったのに。そんな風に思った」
ルーカスの話に、リヴァイは心底驚いた。シャーロットが亡くなった時は、リヴァイもまだ6歳で、当時の事なんて余り覚えていない。
特にリヴァイは何事にも無関心で、シャーロットが亡くなったと聞いた時も、そうなのか位にしか思っていなかっただろう。
しかし、当時は1歳にも満たない赤子であったが、ルーカスは前世の記憶があり、1度起きた事を忘れる事がない。その時の記憶を、感情を鮮明に覚えているだろう事にリヴァイは気付くととても辛い表情をする。
「その事を父様に言ったんだ。そうしたら、父様は凄く悲しそうな、辛そうな表情で僕の言うことを否定した。どうしてか分かるかい?」
「……第1側妃様は、妊娠時から体調が芳しくなく、その後産後の冬の寒さによって体調を崩され、お亡くなりになったと聞いております。ですので、お亡くなりになったのは、殿下のせいではないので、陛下は、とても悲しくなられたのだと思います……」
リヴァイは、ルーカスの言いたい事が分かった。
「今回の事と、状況は全然違うかもしれない。けれど、僕は、あの時の父様の気持ちが分かる気がする。けれど、君の気持ちも凄く分かるから、とても複雑な気持ちだよ。
ふふ、君は本当に僕の事が大好きだよね」
ルーカスはリヴァイの体に埋めていた顔を上げ、リヴァイの方を向く。そして困った様な、嬉しそうな表情で笑って言った。
「っ、……はい。とても、大切に思っております」
リヴァイは好きだとは言えなかった。ルーカスの言った大好きは愛情の方で、自分の好きは恋情だ。この状況で、好きという言葉を口に出してはいけないと思ったのだろう。
リヴァイがそんな事を思っているとは露ほども知らないルーカスは、笑ってお礼を言い、リヴァイから離れる。
「リヴ、今すぐ気にするのをやめるのは無理だと思うけど、出来れば余り気にし過ぎないで欲しい。
僕は賢いから少し問題が起きた所で、難なく交わせるんだからね!」
ルーカスは冗談を言って、落ち込んでいるリヴァイを元気付けようどした。
「確かにそうですね。殿下は頭の回転が早く、機転も利きますので」
「冗談のつもりなんだけど……」
リヴァイが真面目に捉えた為、ルーカスは困惑した。
「いえ、実際殿下は難なく交わすことが出来ると思います。私の心配なんて殿下には必要ありませんでしたね」
「……もう、僕の心配はしてくれないのかい?」
それは凄く寂しいよ。不謹慎かもしれないけれど、リヴに心配して貰えるのは嬉しかったから……。
ルーカスはリヴァイの服の裾を引っ張って、寂しそうにリヴァイを見上げてそう言った。
「え……。あ、いえ、そういう訳では! 殿下は頭も良く、お強いので私が心配し過ぎなくても、と言う意味です。
私は殿下を心配しないと言うのは絶対に出来ませんので」
リヴァイは、ルーカスの裾を掴み上目遣いで見上げてくる仕草に、可愛すぎて困惑した。その後、ハッとして慌てて否定した為、ルーカスは少し疑る。
「本当に?」
「本当です……!」
「……そう、良かった!」
ルーカスは嬉しそうに満面の笑みでそう言った。その可愛さにリヴァイは完璧にやられたのだった。
「そろそろ戻ろうか。エイルとネオの試合が終わってしまう」
「そ、そうですね」
「ん? どうかしたのかい?」
「いえ、何でもございません」
言葉をつかえさせたリヴァイに不思議に思い、ルーカスが尋ねると、リヴァイはすぐに平常心を取り戻し何ともないように振舞った。
しかし、リヴァイの心臓はルーカスの愛らしさにより激しく動悸しているのだった。
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