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本編 学園中等部編
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しおりを挟むお昼休憩が終わって、ルーカス達は控え室に戻ってくると、アンジェリーナが倒れて、ルーカス達がその介抱をしたことが広まっていた。
皆、ルーカスが介抱した事を意外そうに話している。世間のイメージではルーカスは、大袈裟に言えば非人道的な人間の部類だ。
そのルーカスが虐められている生徒を助けたり、倒れた生徒の介抱をしたりした事に、実は優しいのでは? という噂が一瞬にして流れている。
その噂は控え室に戻ってきた瞬間に、ルーカス達の耳にも入った。控え室にいる生徒達は、ちらちらとルーカスの方を見て小声で話している。
その噂の内容にヨハンは少し嬉しそうだった。ルーカスが演技をしている理由をヨハンはまだ知らない。何か重大な理由があるのだろうとは分かってはいるが、友人の評価が上がる事が素直に嬉しいのだろう。
それはアレイルも同じのようだ。主人の評価が上がることは側近として嬉しい。
しかし、リヴァイは違った。自分に付き纏ってくる者のせいで、自分のせいで、ルーカスの計画の邪魔をしたと感じている。それにルーカスは気付いて悲しさや怒りの感情が湧き上がった。
「エイル、ネオと少しここで待っていろ」
「わかりました。どこかに行かれるのですか?」
「少し出る。リヴ、私に着いて来い」
「っ、承知致しました」
ルーカスは怒りの感情を醸し出してリヴァイに言った。ルーカスは今演技をしているが、この怒りの感情は素の方のものだ。その事に気付いたリヴァイが少し驚いて返事をすると、2人は控え室を出て行った。
控え室にいる生徒達は、ルーカスの不穏な雰囲気にひそひそと話している。
「((ヒソッ…おい、めっちゃ怒ってたよな?」
「((ヒソッ…ノア様、何かやらかしたのか?」
「((ヒソッ…殿下の八つ当たりかもじゃん。あそこ仲悪いし」
「((ヒソッ…ノア様、可哀想」
「ノア様は大丈夫でしょうか? 少し落ち込んでおられたように思います」
「落ち込んでたか。リヴはある意味殿下の信者だからな」
「信者、ですか?」
ルーカスは控え室を出ると、人がいない会場の裏に出てきて、結界を張る。しかし、ルーカスはそのまま無言で何も言わない。
どう伝えたら良いんだろう。っ、リヴ、僕が怒っていると分かって身構えている……。
少しの時間、ルーカスとリヴァイの間に沈黙が続く。その沈黙を先に破ったのはリヴァイだった。
「……殿下、先程は誠に申し訳ございません」
リヴァイは申し訳なさそうな表情で頭を下げて謝った。
リヴァイは生真面目なのだ。自分はルーカスの側近で、その主に従うのがリヴァイの仕事だと。ルーカスの邪魔をしてはいけない。迷惑をかけてはいけない。自分とルーカスは対等ではない。
そういう考えが彼の心の奥底に根付いている。
しかしルーカスはそんなふうに思っていない。リヴァイは側近ではあるが、友人でもある。彼に頼る分、自分も頼ってもらいたい。対等でありたい。ルーカスはそういう考え方なのだ。
……どうして、君が謝るの?
「……何が申し訳ないのかな? 君は、何か悪い事をしたかい? してないよね。君は、何も悪くない。なのにどうして、どうして君が謝るんだい?」
ルーカスは泣き出してしまいそうな、辛そうな表情でそう言った。
「っ! ……私は、貴方の邪魔をしたくありません。世間からの殿下の人格への評判が良くなれば、その分、反対派からの信用が薄れてしまいます。そうなれば、殿下が今まで築き上げてきた物や時間が……」
「無駄になんてならないよ。疑われたって、どうにでもできる。最終的に僕が皇帝の座に付けるのであれば何でもいいと思っている。
反対派の者達は、僕が父様達に嫌われている事を疑わない。自分達がそうだから。人間が化け物を、好く可能性なんて微塵も考えていないんだよ」
ルーカスは淡々と話していく。その内容に、リヴァイは怒りを隠せない。しかし、それを気にせずルーカスは続けた。
「けれど、だからこそ僕は動きやすいんだよ。反対派の者達は疑り深いけれど、彼らの計画に僕を利用しない手はないと思っているはずだから」
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