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本編 学園中等部編
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しおりを挟むルーカスは皆の見送りを終えると、アーサーの自室に来た。
コンコンコン
「ルーカスだよ」
「入れ」
ガチャリ
ルーカスが中に入ると、少し落ち込んだソフィアとアーサーがいる。
「ルー、お見送りありがとう」
「ううん」
「ルーカス、こちらにおいで」
アーサーがルーカスを呼ぶと、ルーカスは2人の方へ行きソファに座った。
「ルーカス、ソフィから事の発端を聞いた。君は皇子だからと政略結婚を選ぶつもりだと。だが、ノアの事を慕っているのだろう?」
アーサーとソフィアはルーカスが来る前に、何があったのかを話していた。
「君は嫉妬心や欲が少ないのかもしれないな」
「僕はリヴと過ごせるのが楽しくて好きだよ。だから一緒にいたいと思う。これは欲では無いのかな?」
「いいや、それもれっきとした欲だな」
アーサーは優しく微笑んで言う。
「ルーカスの欲が、一緒にいたいというものならば、恋人になったり、結婚したりしなくても友人のままで良い。だが、君はノアを恋い慕っているのだろう? 何故そう思ったのだ?」
どうして、恋だと思ったのか……。
ルーカスは少し考える。そして口を開いた。
「姉さんが、リヴには好きな人がいると言っていて、気になってリヴに誰なのか尋ねたんだ。名前は教えてくれなかったけれど、その人の話をする時に凄く愛おしいと瞳に現れていた。その瞳に、僕は心臓が大きく弾んだ。その人が少し羨ましいと思った」
ルーカスの表情に特に変化はなく、いつも通りの表情で思い出すように話した。
「それで気付いたのか?」
「ううん。その時は、どうしてか分からなかった。けれどこの間、ヘーゼルに体を触られた時、僕は無意識に、どうせ痛い事をされるのなら、リヴとしたいと思ったんだ。そしたら、リヴが好きな人の話をする時の瞳が浮かんだ。その時にどうして胸が弾んだのか、羨ましいと思ったのかを理解した」
「そうか。きっかけがあの屑というのは解せないが、それで恋だと気付けたのか。ルーカス、君が思ったノアとしたいというのも君の欲だ。
そしてその欲を満たすために私達は相手に好いてもらおうとする。しかし、君はそうでは無い。君はその欲を隠し、相手を他人を尊重する。自分の気持ちを優先させない。ソフィはそれが辛いのだ」
アーサーがそう言うと、ソフィアは拳をぎゅっと握って俯いた。
「相手や他人を尊重するのは良い事だ。美徳だ。だが、それで君の気持ちを殺してしまうのならば、私は他人など捨ておけと思う。ルーカスはソフィが君の為に自分を押し殺す事をどう思う?」
「……それは嫌だ。僕なんか放って自分の事をして欲しいと思う」
「それが、今ソフィが君に思っている気持ちだ」
姉さんも同じ気持ち……。
「ルーは、今までずっとそうやって生きてきたから、すぐに変えるなんて出来ないと思うわ。それでも、私は貴方に自分を優先して欲しいの。リヴァイの事だけでなく、日常生活の事も」
姉さんの言いたいことは分かる。僕も姉さんの立場なら、姉さんに自分を優先させて欲しいと思うから。けれど……。
「分かった。けれど、自分を優先するというのは、何をすれば良いのかな?」
ルーカスの言葉に、アーサーとソフィアは嬉しそうにしたが、そこからだったか、と思ったのだった。
「君の好きなようにすればいいんだ」
「好きなように?」
ルーカスは少し首を傾げて聞き返した。
「そうだ。君のしたい事をするんだ」
「読書をしたいのなら読書をする。お出かけしたいならお出かけする。リヴァイに告白する!」
ソフィアが満面の笑みでそう言った。
「リヴへの告白以外はいつもしているよ?」
「あら、貴方は私達を誘ってお出かけしてくれないでしょう? 私達と行くのはいやかしら?」
「行きたいよ。けれど、姉さん達にだってしないといけない事があるし、演技のこともあるから」
ルーカスはすぐに否定してそういった。
「それだ、ルーカス。それを考えないで1度誘ってみれば良い。どうしても無理ならば、ソフィ達もきちんと断る。だから、したいならしたいと伝えて欲しいのだ」
「……うん、分かった。そうしてみる」
「ああ」
「ルー、さっきは怒ってごめんなさい」
「ううん。僕の事を思って言ってくれたんだよね。ありがとう、姉さん」
ルーカスがそう言うと、ソフィアは勢い良くルーカスに抱き着いてお礼を言った。そしてルーカスもソフィアを抱き返した。
「ルーカス、ソフィアと話したいことがあるから先に部屋に戻りなさい」
「うん。父様もありがとう」
そう言うと、ルーカスは部屋を後にした。
「お父様、先程は急に押しかけてしまい申し訳ございません」
「ああ。君が急に執務室へ来た時は、すごく驚いたよ。ソフィ、あまり自分を責めるな」
「っ、しかし私は、ルーに自分の意見を押し付けてしまいました……」
ソフィアはすごく申し訳なさそうにそう言った。
「そうだな。だが、君の気持ちも分かる。ルーカスは他人を優先しすぎた。あの子には幸せになって欲しいのだ」
「はい」
「そういえば、ノアも自覚したのだそうだな?」
アーサーは悔しそうにそう言った。
「ふふふ、はい。リヴァイが自覚したと知って、私達はお茶会で彼とその話をしました。そしたら彼は、自分がルーに向けている感情に心底嫌悪していたのです」
ソフィアはあの時のお茶会の事を詳しくアーサーに話していく。
「あの時、ティファがリヴァイに怒った理由が分かりました」
「まったく、だからノアは憎めぬのだ。誰よりもルーカスを大切にするやつだからな」
「はい。ウィルお兄様も認めておられました」
「ノアにはルーカスを誰よりも幸せにしてもらわなくてはならんな」
「そうですね」
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