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本編 学園中等部編
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しおりを挟む少しすると、ソフィアが戻ってきた。しかし、後ろにはアーサーも一緒のようだ。
ヨハン達は慌てて立ち上がりアーサーにお辞儀やカーテシーをする。
「公式な場ではないから楽にしてくれ」
その言葉にヨハン達は少しだけ肩の力を抜いた。
「父様、どうして……?」
姉さんが、呼んだのだよね?
「ソフィが私の所に来てな。ルーカス、君は私達が君を嫌ったら、すぐに諦めてしまうのか?」
アーサーは悲しそうな表情で尋ねた。その事にルーカスはどう答えて良いのかが分からない。
「……ごめんなさい」
「怒っている訳では無い。それは君も分かっているだろう?」
アーサーはルーカスの前に膝を付いてしゃがみ込み、ルーカスの頭を撫でる。ルーカスは小さく頷いた。
「ルーカス、私達は君から愛されたいんだ。君が私達を好きでなくなれば、私達は悲しくて寝込んでしまうかもしれない。
君が私を好きでないという事実が、私の心にぽっかりと穴を開けてしまう。その穴を埋めようと、君から愛してもらおうと、私達は足掻いてしまうのだ」
心に穴が開く……。
「その穴は、悲しいや辛いという感情の事?」
「そうだ。その穴を、私やソフィはどうしても埋めたいんだ。けれど他のものでは埋められない。君でないといけないんだ。愛を向ける相手が、何故私ではないのかという、不満や嫉妬、羨望という感情だ。
いわば、私の心はパズルで、君は私にとっての1つのピースだ」
「僕にもその穴があった。けれど僕はそれを埋めようとしなかった。だって、いつの間にかその穴は無くなったから。僕のパズルのピースは、すべて同じ形なのかな……」
「ふっ、それは違う。君がまだ、パズルを知らないだけだ」
アーサーは真剣だった表情を柔らかくして微笑んだ。
「だが、パズルを知らなくて構わない。知っている事が良いとは限らないからな。それに、いつか知る事になるかもしれないんだ。今は必要ないと思うぞ」
「けれど、それでは、また姉さんを悲しませてしまう……」
「それは違うわ、ルー。私が悲しかったのは、貴方が人に嫌われる事を仕方ないで片付けてしまうことよ。貴方が自分を最優先させないことに怒っているの!」
ソフィアは悲しそうな、でも怒っているような表情をしている。ナタリーやヨハン達は、いつも穏やかで優しいソフィアしか見た事がなかった為、負の感情を表に出したソフィアにとても驚いた表情をしている。
「私は、お父様やルーみたいに大人じゃないから、感情で動いてしまうの。あなたはすごいわ。いつも演技をして嫌な事があっても、私達を心配させない様に隠してしまう。そうやって、いつも他人の事ばかり! でも、私は嫌よ! ルーにはもっと自分勝手に生きて欲しい……!」
「少し落ち着きなさい、ソフィ」
「っ、申し訳ございません。皆さんも取り乱してしまい、申し訳ございません」
アーサーの制止にソフィアははっとして心を落ち着かせた。
「悪いが今日は解散してくれるか? 2人と話がしたい。ルーカス、皆の見送りに行ってやれ。終わったら私の部屋に来なさい」
「分かった」
「皆さん、今日は本当にごめんなさい。また学園で」
「本日はご一緒させて頂きありがとうございました。失礼致します」
ナタリーが笑顔でそう言うと、皆もお辞儀をして部屋を出た。
「皆、今日はごめんね。また分からない所があれば聞きに来て。明後日からのテスト、頑張ろうね」
「「ありがとうございます」」
馬車を待つ間、ルーカスがいつも通りの調子でそう言うと、みんながお礼を言った。しかし、ヨハンが真剣な表情で口を開いた。
「テオ殿下、私は殿下とノア様のお2人は大変お似合いだと思います」
「え?」
「私もそう思います!」
ナタリーが賛同すると、シエンナとクロエも頷いた。
「陛下とテオ殿下のお話は、私には難しくあまり理解が出来ませんでした。しかし、ルナ皇女様の殿下に自分勝手に生きて欲しいというのは、凄く共感致しました。これは私の自分勝手です。殿下には、ノア様とお付き合いして欲しいです」
「私はノア様とお付き合いされる方は、ルーカス殿下しかありえないと思っております」
ヨハンとシエンナの言葉にルーカスは凄く驚いて言葉が出ない。
すると、門に馬車がやってきた。ナタリー達はすぐに馬車に乗り込む。
「テオ殿下、私は明日の放課後も勉強を教えて頂きたいのですがよろしいですか?」
「あ、うん。待っているよ」
ルーカスが返事をすると、ヨハンはお礼をしてから馬車に乗り込んだ。そして御者が馬を叩くと馬車はそのまま走り去ってしまった。
皆に励まされて、応援された……。
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