177 / 410
本編 学園中等部編
30 sideアンジェリーナ
しおりを挟む私の名前はアンジェリーナ・エリー・コールマンよ。この世界は、私を中心に回っているの。だって、私は天使だもの。
アンジェリーナはコールマン伯爵家に第2子として生まれた。上には年の離れた兄がおり、後継者としての教育も終盤に差し掛かっている時にアンジェリーナは生まれた。
アンジェリーナの両親は、彼女の兄であるエイダンには、それは厳しかった。後継者としての教育に力を入れて、余りエイダンと家族らしい会話をしてこなかったのだ。それでも何年も共に過した血の繋がった息子だ。両親は彼の事を愛しているし、エイダンもまた、両親を愛している。それは互いに分かっていた。エイダンが後継者として育つと、両親も身の負担が降りたのか、徐々に優しく接するようになってくる。だがやはり少しの溝ができてしまっていた。
それに気付いた時、両親は後悔した。もっと早く、気付いていればと。その為、両親は数年後に生まれたアンジェリーナには、それはもう優しく甘やかして接した。エイダンもまた、自分と両親のようになって欲しくないと思い、アンジェリーナを甘やかした。それが行き過ぎたものだと気付かずに。
アンジェリーナは生まれた時から欲しいと言えばなんでも手に入った。玩具に衣服、アクセサリー。
それでも、両親は厳格だった。その両親に育てられたエイダンもまた、厳格な人間に育った。
アンジェリーナにも悪いものは悪いのだとしっかり叱る。その為アンジェリーナも小さい頃は少し我儘でも、優しい性格をしていた。それが変わったのはアンジェリーナが5歳になり、仮名をもらいに行った時からだ。
アンジェリーナには、聖の魔法の素質があった。聖の魔法を持つ者は珍しく、家族だけでなく、領地の者達にも賞賛された。アンジェリーナはそれに有頂天になった。自分は特別なんだと、皆が自分を賞賛し愛しているのだと。
そして5歳になるアンジェリーナは神殿へ仮名を貰いに行く。アンジェリーナが貰ったエリーという名は、輝く光という意味がある。ナサニエルでは光とは国神のルミナスを表す。その光という意味を持つ名をルミナスから与えられ、アンジェリーナの有頂天に拍車をかけたのだった。
エリーは輝く光という意味があるって、辞書で見たもの! 私は神にも愛されているんだわ!
そしてアンジェリーナのお披露目会で、彼女は皆に自慢をした。
「私の仮名ね、エリーって言うのよ! エリーは輝く光って意味があるの!」
「エリー様はとても愛らしい方ですから、ルミナス様もその名前を与えて下さったのですね」
お披露目会に来ていた他の貴族も、愛らしい容姿をした素直なアンジェリーナに、好感を持っているため、アンジェリーナの事を沢山褒めた。
その日から、アンジェリーナの我儘はエスカレートした。人の物を欲しがったり、手に入らないと泣き喚いたり。それを両親やエイダンが叱ると、アンジェリーナはそれを素直に聞いた。いや、聞いた振りをする。
アンジェリーナは頭が良かった。我儘放題をすれば、家族が自分の言うことを聞いてくれなくなると分かっている。だから、家族の前ではいい子の振りをする。
そして、使用人や自分を怒る事の出来ない相手に、無理難題を押し付けた。
そんな生活をして、10歳になった頃、アンジェリーナは家族に本性が知られること無く、学園の寮に入った。そして学園の入学式の日、アンジェリーナは道に迷ってしまい、遅刻しそうになっていた。
どうしよう、迷っちゃった。先生はきっと待ってくださるわ。けれど、皆を待たせるのは、皆に愛される天使として良くないわ。
「おい、初等部の者か? こんな所で何をしてるんだ」
アンジェリーナが迷っていると、教員と1人の生徒がこちらに歩いてきた。教員がアンジェリーナに声をかけた。
「あ、あの、私、迷ってしまったみたいで」
「迷子か。ここは中等部の教室がある棟だ。ノア、お前生徒会だろ。送って行ってやれ」
どうやら、アンジェリーナは間違って中等部の棟に来ていたらしい。教員と一緒にいたのは、当時、中等部4年のリヴァイだった。
「講堂に行かなくてはいけません」
リヴァイはそう言うと、教員の方を向き、自分で行けと言う顔をした。
「相変わらず冷たいな。私は今から入学式のリハーサルがあるんだ。頼む、行ってくれ」
「はあ、分かりました。付いて来い」
そう言うと、リヴァイは初等部の棟の方へ歩いていく。アンジェリーナも慌てて付いて行く。
凄くかっこいい人! ノアって呼ばれていたから、公爵家のリヴァイ・ノア・ムハンマド様ね。確か、化け物の第3皇子の側近をしているって、皆が言っていたわ。
「あの、ノア様! ありがとうございます。私、アンジェリーナ・エリー・コールマンって言います! アンジェリーナと呼んでください!」
「ああ」
リヴァイは、前を向いたまま、返事をしてそのまま歩いていく。
ああって、それだけ? 皆だったら、嬉しそうに名前を呼んでくれるのに。あっ、きっとこんな可愛い私と話す事に照れているんだわ! 今まで化け物と一緒にいたんだから当たり前よね。私から話しかけてあげなくちゃ!
21
お気に入りに追加
723
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる