142 / 410
本編 幼少期
131
しおりを挟む「そうだね、本名で呼び合うのはどうかな」
「承知致しました、ウィリアム殿下」
「殿下は固くないかな、シエンナ」
「叔父から礼儀は尽くすものだと教わりましたので」
そういえば、初めて会った時にアレクサンダーがそんな風に言っていたね。
「アレクサンダーか。なら仕方ないね。ヴァイオレットとフローレンスはウィリアムと呼び捨てで呼んでくれるかな」
「……ウィリアム様と、呼ばせて下さい」
「わ、私も、ウィリアム様とお呼びしたいです……」
2人は、さすがに初対面で年上の、それも皇子を呼び捨てには出来ないと、申し訳なさそうな表情をした。
「そうですよ、ウィルお兄様。初対面なのですから、呼び捨てにはしづらいですよ。でも、私の事はソフィと呼んでくださいね」
ソフィアは笑顔でヴァイオレットとフローレンスに言う。2人はこくこくと頷き返事をした。
「ソフィはちゃっかりしているな」
「それなら私の事もウィルと呼んで欲しいよ」
「ウィル殿下、妹達が困っているので張り合わないでください」
「そうよ。皇子に向かって愛称なんて呼べないわ」
「ティファニーは、全員を愛称で呼んでるだろ」
「まあ、そうだったかしら」
ティファニーが便乗するとアドルフがツッコミを入れて皆で笑いあっている。
「私の事もエドワードでもエドでも好きに呼んで構わない」
「ちなみに私はエディって呼んでるぞ~。ウィリアムの事はウィリーで、ルーカスの事はルーちゃんだ」
ルーちゃんと言う言葉に、シエンナ達3人は驚いた表情をした。
「そうだな、ルーカスの事はルーちゃんと呼んでやればいい」
追い打ちで、エドワードがそう言うと、3人は少し怪訝そうな目をした。
貴族間で仲の良くない男性に対して、ちゃん付けで呼ぶ事は、凄く失礼な事だった。お茶会が始まって、ルーカスが会話に入ってきていない。加えて、最初の兄弟への挨拶や、アーサーから側近に対して近付くなと言われたという事から、3人は、ルーカス達との間に溝があると思っている。
そんな相手に対して、ちゃん付けをさせるなど、虐めているのも同然の事だ。そして、ルーちゃんと呼べという事は、自分達にも虐めに加担しろと言っているも同じ。
シエンナ達は、ルーカスを伺うように見た。
「兄上が仰るなら、構いません。好きに呼んでくれ」
この言い方では、エドワードがルーカスに強要しているように感じるだろう。
「ありがとうございます」
3人はルーカスに対しお礼を言ったが、ルーちゃんと呼ぶことは無かった。その事に、エドワード達は少しだけ不機嫌そうな表情をしたが、すぐに話題を変えていく。
その後も、シエンナ達がルーカスと会話をしても、ルーカスの事を呼ぶことは無かった。
他の呼び方をすれば、エドワード達の反感を買い、ルーちゃんと呼べば、虐めに加担することになる。
ルーカスを呼ばないと言うことは、虐めにも加担せず、エドワード達からの反感もかわない最善の策だろう。
それからも、お茶会は進んでいき、予定の半分程の時間が経った。すると、ウィリアムがエドワードに話しかける。
「兄様、そろそろ良いのではないでしょうか」
「ああ、そうだな。彼女達は合格だ。ルーカス、君はどう思う」
エドワードがルーカスに問いかけると、ルーカスが纏っていた空気が柔らかくなった。すると、シエンナ達は凄く不思議そうな表情をした。
「僕も合格だと思うよ、兄さん」
「「「……???」」」
ルーカスが素の話し方をすると、シエンナ達は何が起きたのか理解が追いついていないようだ。
「……え、あの、テオ、殿下?」
「うん、ごめんね。居心地悪かったよね。君達が僕に対して、どう接するかを見たかったんだって」
「私達の圧力に保身に走るか、他の呼び方をして私達の反感を買うかをな。だが、両者共を尊重して、のらりくらりとその場を凌いだのは、貴族としての流石だ」
「僕は保身に走っても構わないと思うけどね。だって、自分を守れないと他人なんて守れないでしょう?」
「それでも私達は、ルーカスを傷付ける者は近づけさせたくないんだ」
「私も兄様に賛成だよ」
未だに、シエンナ達は情況を噛み砕けていないようだ。だが、少しずつ理解していくと、口を開いた。
「という事は、エドワード殿下方は、テオ殿下と仲がよろしいと言うこと、でしょうか?」
「ああ。そういう事だ」
「良かったぁ! 私てっきり、お兄様がルーカス様を虐める屑になってしまったのかと思ってしまいましたわ」
「おい! ヴァイオレット、口が悪いぞ!」
「お兄様も、演技だったのですよね?」
「当たり前です。それともフローレンスは私がそんな醜い事をする人間に見えますか?」
「い、いいえ! そんな事はございません!」
ヴァイオレットとフローレンスは心底安堵したように全身の力を抜いた。
25
お気に入りに追加
723
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる