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本編 幼少期
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しおりを挟む「何をしているのか聞いているんだ。質問に答えろ」
ルーカスから発せられた声は怒りと軽蔑に満ちた低く冷たい声だった。
ルーカスの殺気によってエブリンやエブリンの侍女達は縮み上がっていて答えられる者はいなかった。
ルーカスとアレクサンダーはそんな事は気にもとめず、リリアンの方に近付き、リリアンの前で膝をついた。
「ルーカス殿下、お腹や腕の骨が何本か折れている可能性がございます」
「ああ、そうだね」
ルーカスは、来ていたローブを脱いでリリアンに被せて、手に氷の魔法で冷気を出しリリアンの頬に触れ冷やした。そして素の口調で話しながら、先程よりも強い殺気を放った。
「……素の口調ですが、よろしいのですか?」
「どうせリリーに手を出したんだ。なら、生きている必要なんてないんだし。死人に口なしって言うからね」
「……そうですね。陛下がもうすぐいらっしゃると思いますので、先に皇女様をお連れしてお部屋に行かれますか?」
アレクサンダーはルーカスの怒り具合に、このままレア達を殺してしまうのではないかと思った。
「いや、父様にも現状をそのまま見せた方が早いだろうから、リリーには悪いけど、このまま待つよ。取り敢えず、彼女達を拘束しようか」
「畏まりました」
アレクサンダーはルーカスの返答に少しほっとした。
「リリーに手を出さなければ無期限の謹慎ですんだのにね」
「そうですね」
「く、来るな! 化け物め! 私達に何をしたのよ!」
エブリンは殺気で動けなくなったのを、ルーカスが何かをしたと思っているようだ。ルーカスの殺気により動けなくなったのだからあながち間違ってはいないが。
「ん? 知りたいなら教えてあげるよ。それはね、ただの殺気だよ」
「なっ!! お前如きの殺気で私達が動けなくなるわけないでしょ! どんな邪術を使ったのよ!」
「レア様、ご自身の立場をご理解下さい。ルーカス殿下は皇族のお方。そして貴方は公爵家出身の妃です。ましてや今は皇女様に対する不敬罪並びに傷害罪の罪で陛下からの処刑宣告を待つ身。
殿下への口の利き方にはご注意ください」
アレクサンダーは、怒りを押し込み、感情的になること無く、淡々と仕事をこなす。
流石だなぁ。
「なんですって! レオ様がその化け物の言うことなんて信用するはずがないでしょ!」
「口を慎め、レア」
エブリンが声を荒らげてそう言ったが、リリアンの部屋にやってきたアーサーに叱責された。
「! レオ様!」
「ルーカス、アレクサンダー、説明しろ」
「アレクサンダーの授業を受けていたら、レアがリリーの部屋にやってきたと、テナが青い顔をしながら報告してきたんだ。だから、アレクサンダーを連れて急いでリリーの部屋に来たんだよ」
「なっ!? レオ様にまでそんな口の利き方をして、本当に礼儀がなってないわね!!」
エブリンはルーカスがアーサーに対し、敬語を使わないのを見て激怒する。
「何を勘違いしている。ルーカスは皇族でお前は公爵家出身の者。礼儀を尽くすのはお前の方だ。それに、家族に敬語を使わない事の何が悪い」
エブリンはアーサーがルーカスの味方をするとは露ほども思っておらず、言葉を失った。
「部屋に来た時に、レア様が皇女様に手を振りかざしていたのを、瞬時に殿下が結界を張られました。しかし、私達が来る前に、皇女様は何度か殴られており、頬の腫れと腹部と腕の骨が折れている可能性がございます」
アレクサンダーの報告を受け、アーサーは怒りに満ちた声で言う。
「アレクサンダー、この者らを処刑する。騎士棟の牢に閉じ込めておけ」
「承知致しました」
「なっ! お待ち下さい! 私達はレア様に命令されただけです! どうか命だけはお助け下さい!!」
1人の侍女がそう言うと、他の侍女達もアーサーに許しを乞うた。
それを聞いてルーカスは先程よりも濃い殺気が出てしまう。
「リリーが苦しんでいるのを見て、君達は笑っていたのによく言うよね?」
ゾクゾクッ!!
侍女達もエブリンも恐怖により、気を失ってしまう。
「ルーカス、殺気を抑えてくれ……。私達も少し苦しい」
「っ! ごめん、父様、アレクサンダー……」
「いや、大丈夫だ。ルーカス、ここを片付けたらすぐに行くから、リリーを連れて行ってやれ」
「うん、分かった」
ルーカスは返事をすると、気を失っているリリアンを横抱きにそっと抱えた。
「殿下、人を抱えられたのですね……」
「私も驚いたな」
「わぁ、それ凄く失礼だよ! 流石の僕だって4歳の子位抱えられるよ。これでも毎日鍛錬は欠かして無いんだからね」
アレクサンダーとアーサーが心底驚いたと言う様に言うと、ルーカスは少し拗ねたように言い返した。
「殿下の場合、筋力が付いたと言うよりも、力の使い方を理解しているのではないでしょうか?」
「どういう事だ?」
「1番力が加わるには体をどう動かせば良いのかが、分かっておられるのではないかと思います」
「だから少しの力でも、リリーを抱えられたということか」
「はい」
「成程。そういう事だったんだ。筋力が付いたと喜んでいたのに」
ルーカスは少し残念がってそう言うと、アレクサンダーが慰めてくれた。そんなやり取りを終えて、ルーカスはリリアンを抱えて自室へと向かった。
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