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本編 幼少期
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しおりを挟むその後も、1刻近く練習を続けたが、コリントの接触にあまり慣れることが出来なかった。
「ルーカス殿下、本日はここまでに致しましょう」
「ああ。テナ、1つだけいいか?」
「何で御座いましょうか」
「リリーは元気にしているか?」
コリンは驚いた顔をする。
「はい。よく食べ、よく眠り、よく学び、とても元気にお過ごしになられております」
「そうか」
リリーはどのような子なのだろうか。ああ、早く会いに行きたい……。
コリンはルーカスの表情が少し柔らかくなったことに気付いた。
「私からもお1つよろしいでしょうか」
「何だ」
「無礼を承知で申し上げます。殿下は何故、リリアン様にお会いして下さらないのですか? 殿下は本当に噂されているような方なのでしょうか。殿下には翼や角も見当たりません」
「コリン!」
コリンの言葉にモニカが注意をする。しかし、ルーカスはモニカを制止した。
「殿下」
「構わない。だがテナ、無礼と分かっているのなら、発言せぬ方が身のためだ」
「っ! 肝に銘じておきます。ご無礼をお許し下さい」
皇城の侍女が、皇族であるルーカスの行動に、ものを申し、悪い噂を本人に真偽を尋ねる。それは、専属ではない侍女が踏み入って良いものでは無かった。
「顔を上げろ」
「ありがとうございます」
「テナ、そなたは私の母がシャーロットである事は知っているな? そしてレアが母を嫌っていた事も」
「っ、存じ上げております!」
(無礼を働いてしまった私の質問に答えてくださるとは)
「ならば私が嫌われている事も知っているはずだ。そんな者が自分の子、それも嫌っている娘と懇意にしていたら、レアは面白くないだろう」
(はっ、そんなことになれば、殿下だけでなく、リリアン様にまでレア様のお怒りが来る。殿下はそれを危惧しておられた)
「私の理解が及ばず大変な失礼を申しました事、誠に申し訳ございません」
コリンはもう一度深く頭を下げた。
「それは先程許した」
「いいえ、これは私が犯した無礼の内容に対してでございます」
「そうか。ならばそれも許そう。私こそ姉上達から、リリーが会いたがってくれていると教えて貰ったのだが、会いに行けなくて悪いな」
「そのような事はございません!」
「人と会う事に慣れたら必ず会いに行くと約束しよう。それまでもリリーに何かあれば、兄上達や私を呼びに来い」
「承知致しました。是非、お待ちしております」
その後、ルーカスはモニカを連れて自室へと戻った。
「コリンが申し訳ございませんでした」
「彼女からの謝罪は受けとった。気にする必要は無いよ」
「ありがとうございます」
モニカはまだ少し浮かない顔をしている。
「彼女はリリーの事を大切にしてくれているよ。だから少し気持ちが前に出てしまったのだろうね。皇族を軽んじている訳でも、僕を軽視している訳でもない。分かっているよ」
「はい。彼女は少し突っ走ってしまう事があるのですが、決して悪い子では無いのです」
「うん。リリーが産まれる前は見なかったから、リリーが生まれてから来た子かな?」
「はい。その頃はまだ見習いでした」
「なら、これからリリーと共に成長していき、落ち着いた侍女に慣れると思うよ。頭の回転は早いし、言われた事を直ぐに実行出来ている。あとは経験だけだよ」
モニカは、あの少しの時間でここまで人を正確に測れているルーカスに感心した。
その日からルーカスは、リリーがティファニー達と過ごしたり、授業を受けたりしている間にコリンと練習をしている。
「4mか。少しは縮まったな」
「はい。この調子で少しずつ慣らしていきましょう!」
それからルーカスがコリンとの接触に克服したのは1ヶ月半後の8の月上旬頃だった。7の月にはエドワード達は学園へ戻っていた。
この1ヶ月半は並行して、今まで授業の時に話した事のある魔法士や騎士の人達とも少しずつ練習していた。
女性は2週間程で完全に克服し、男性は1ヶ月半程で触れる事は無理だったが、目の前に来ても震え無くなった。
それをルーカスはアーサーに報告しに来ていた。
「そうか、やはり以前に親交があった者とは、早く克服出来るようだな」
「うん。けれど、目の前に来ることに慣れてから、3ヶ月経っているけれど、一向に慣れている気配がしないよ」
「やはりか。だが、パーシヴァルは少し震える位なのだろう? 授業を受けた中で、他の騎士達よりもパーシヴァルとは親しかったのか?」
「そう言えば、そうだね。確かに他の人達よりもよく話をしていたよ」
パーシヴァルはルーカスの素も、アーサーがルーカスを大切にしていることも知っている、そして何より、ルーカスの技量に興味を持った為、パーシヴァルもルーカスとよく話すようになっていた。
「取り敢えず、進展がないのなら次に行ってみるか?」
「そうだね。次は今まで会ったことがない男性だね」
「ならば魔法士団副団長のアスールに会ってみようか。その日は私も同行しよう。日程はまた連絡する」
「分かった、ありがとう」
ルーカスはお礼を言ってアーサーの執務室を後にした。
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