転生皇子の新生活

𝐍 𝐢 𝐚🐾

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本編 幼少期

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 ルーカスは部屋に戻ると、モニカを呼んだ。


 コンコンコン


「入っていいよ」


 ガチャリ

「ルーカス殿下……! お帰りなさいませ」


「うん。ただいま」


「直ぐに陛下にご報告致しますね」


「その前に、少しこちらに来てくれるかい?」


 モニカはルーカスを怖がらせないようにと扉からこちらには近付いて来ていなかった。


「宜しいのですか?」


「モニカは大丈夫な気がするから」


「分かりました。少しずつ近付いていきますね」


 そう言うとモニカは、ルーカスの方へと少しずつ近付いてくる。
 モニカがルーカスの目の前に来たがルーカスの体が震えることは無かった。


「近付くのは問題なさそうだね」


『穢らわしいのは貴方では無く男達』


「モニカ、僕の肩に触れてくれないかい?」


「分かりました。いきます」


 モニカはそうっとルーカスの肩に触れた。

 びくっ!


「すみません、殿下!」


「いや、大丈夫だよ」


 モニカに触れられるとルーカスの体が強ばってしまった。


「まだ触れるのは早かったかな。モニカ、父様に報告に行ってくれるかい?」


「かしこまりました」




 少しすると、直ぐにアーサーがルーカスの部屋へやってきた。


「ルーカス、私だ。開けてもいいか?」


 アーサーははやる気持ちを抑え、落ち着いた声でルーカスに尋ねる。


「良いよ」


 ガチャリ


 アーサーは扉を開き、事件の時よりも明らかに顔色の良いルーカスを見ると、安心した様にほっと息を吐いた。そして、扉の近くから声をかけた。


「おかえり、ルーカス」


「ただいま。父様もモニカも急にいなくなって驚いたよね。ごめんね」


「置き手紙がなければ騎士を総動員して探していただろう」


 アーサーが冗談半分で言って笑うと、ルーカスも釣られて笑った。


「父様、今より少しだけ近付いてきて欲しい」


「分かった。怖ければ言うんだぞ」


 多分だけど、女性よりも男性への恐怖心や嫌悪感の方が強い。


 そう言うとアーサーは今のルーカスとの距離の半分の所まで近付いた。
 すると、ルーカスの体が少しだけ震え出した。それを見てアーサーは1歩後ろへ下がるとルーカスの震えも収まった。


「ありがとう。今はこの距離だね」


「……そうだな」


 アーサーは痛ましそうに返答した。
 2人の間には約3メートル程の距離がある。この距離がルーカスが今近付かれても耐えられる距離だ。


「父様、モニカ、この震えは君達が怖いから起きているのでは無いんだよ。気持ち的には恐怖心なんて一切無い。体が勝手に反応してしまうだけなんだ。だから、余り気を張り過ぎなくて大丈夫だよ」


「ありがとう。だが、私は早くルーカスを抱き締められるように、気を張り続けるぞ」


 アーサーがそう言うとモニカも賛同する様に頷いた。


「そう、ありがとう。僕も早く抱きしめて貰えるように頑張るよ」


「ああ、そうだな。共に頑張ろう」


 アーサーはそう言うと真剣そうな顔をして口を開いた。


「ルーカス、この間エドワード達が側近達とお茶会を開いた。その時に、ゼンが興味深い事に気が付いた」


 アーサーは、この間のお茶会でメーリンが、ルーカスが男達に触れられた時、一瞬で恐怖に呑まれてしまったのは、トラウマがあったからではないかと言ったことをルーカスに話した。


「エドワード達はルーカスが心に余裕が出来た時に相談してくれるのを待つつもりだった。だが悪い、話してくれ。辛い事を思い出させてしまうと思うが……」


『穢らわしいのは貴方では無く男達。だから私達が触れたくないと思うのは、その男達の方なの。レオ達も同じ考えのはずよ』


「……。モニカ、少し席を外しなさい。父様、僕は何を伝えて何を伝えないべきか分からないから、後で母上と姉さん、モニカに話してくれるかな」


「ああ、わかった。ありがとう」


「畏まりました。外で待機しております」


 そう言うとモニカは部屋を出た。
 それを確認すると、ルーカスは話し出す。10歳の時に参加したパーティの日から始まった性的虐待について。

 父親達から性処理の道具として扱われた事。知らない人から、よく体を触られていた事。同級生達からその事で罵られたり、体を触れられたりして虐められた事。そして、死ぬ直前に父が雇っていた殺し屋に犯された事。ルーカスはその酷い内容を全てアーサーへ話した。


「こういう話は、女性に話すには向いていないでしょう?」


「……ああ。私から婉曲的に話しておこう」


 アーサーは翠にそんな事をした者達への怒りを抑え、ルーカスに言った。


「ねえ、父様は僕と触れ合っても平気?」


 アーサーは、前世の話の中にあった、母親から穢らわしいとそれまで以上に邪険に扱われる様になったというのを思い出した。


「当たり前だ。私はルーカスと触れ合う事が楽しく嬉しいのだからな」


「僕の事、穢らわしいって思わないの?」


「ルーカスは穢らわしくなどない。むしろルーカスは清く美しい。穢らわしいのは君に無理矢理触れたあの者達だ」



「良かった。ありがとう」


 フロースの言った通りだ。父様も、フロースと同じ事を思っていた。







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