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本編 幼少期
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しおりを挟む10歳の時に参加したパーティーの日から、翠に対する虐待は暴力だけでなく性的なものも含まれるようになった。男の尻に入れるのは汚いと言われ、最後までされることは無かったが、父親達の性処理の道具として扱われた。
翠は暴力の痛みには直ぐに慣れた。しかし、どうしても性的な虐待への嫌悪感と恐怖は慣れることが出来なかった。
そしてそれに慣れる事無く、今まで完全では無かった性的な行為を死の直前に体験してしまったのだった。
知らぬ男に犯され、感じた嫌悪感と恐怖そして今まで感じたことの無い種類の痛みはルーカスにとってトラウマになる程のものだった。
しかし、ルーカスは家族や友人に愛された。その為トラウマは自身ですら気付くことない程、奥深くになりを潜めていたのだろう。
だが今回、見知らぬ男達に体を触れられ、久しぶりに感じたあの嫌悪感に体も動かせず、声さえ出なくなる程の恐怖を感じ、トラウマを引き起こさせてしまったのだろう。
その為かルーカスは気を失ったあと、前世であった性的虐待の記憶を夢として見続けていた。
──……ズキズキッ!
ルーカスは目を覚ました。その瞬間に眠っている間の記憶と気を失う前の記憶が全て流れ込んできた。
3日も眠っていたんだ。父様達も来てくれていたみたい。でも、どうしてだろう。彼らに会いたくないな…… 。
カチャカチャ
静かな部屋にルーカスの腕に着いた魔力封じの腕輪が擦れる音が響いた。
またシュオールを起こしたんだ。腕輪が2つも着いている。
「【アジャスト】」
パキパキッ! グサッ!!
「ゴフッ!! ゴホゴホッ!」
ルーカスが魔力封じを解除すると、氷柱がルーカスの心臓を貫いた。
『シュオールは感情が怒りや嫌悪の場合はその対象を消すためにその者を殺そうと攻撃する』
ああ、そうか。穢らわしい。そんなの父様達に会いたいわけが無いよね。自分の力ですら殺せないんだ…… 。
カチッ
ルーカスは魔力封じを腕につけ直した。
ガッシャン!
「ル、ルーカス殿下! 血が出て…! 直ぐに手当を……!」
モニカはルーカスの体を拭く為にお湯を持ってきたが、ルーカスが起きた事と体に氷柱が刺さり血が大量に出ているのを見て、混乱を起こした。
「……かはっ! ゴホゴホッ!」
ルーカスはモニカを宥めようと声を出そうとしたが、3日間眠っていた為、声が出ず咳き込んでしまった。それを見て急いでモニカがルーカスに水を差し出した。
水を飲み終えるとルーカスは口を開く。
「あり…がとう、モニカ。傷は、大丈夫、だから」
「しかし……!」
「ほら、止まった」
モニカがルーカスの体に視線を落とすと、血が止まっていた。
「それでも手当は受けなければ……!」
「でも、今、は誰にも…会いたく、ない。父様、達にも」
「っ、そう、ですね。では、私が手当をしても宜しいですか?」
「うん。あり、がとう」
モニカは素早くルーカスの手当を行った。
「ねぇ、後でいち、ご食べたい…」
「分かりました。後でお持ち致しますのでもう少しお休みになられてください」
「う、ん」
返事をすると、ルーカスはもう一度眠った。
◇ ◇ ◇
モニカはルーカスが1度目を覚ましたことをアーサーに伝えに行った。
「目を覚ましたのかっ!」
「はい。しかし、今は誰にも会いたくないと仰られて」
「そうか…… 。様子はどうだった?」
「起きた時に、魔力封じをお外しになられたのだと思います。その、氷柱が…」
モニカは先程のルーカスの姿を思い出し、顔が真っ青になった。
「無理をするな」
「いえ、報告しなければならない事ですので」
そう言うと1度深呼吸をして再び話し始めた。
「私が部屋に入った時、氷柱が殿下の心臓を貫いて、おりました。すぐに血が止まり、応急処置はしたのですが。私が少し近付くと殿下は体を強ばらせ、手が触れると嘔吐いてしまわれました」
「人が怖いのか……」
「殿下は気付いておられないようでしたが、体が震え、目も虚ろになっておられました。まるで……」
「まるでどうした?」
「まるで、感情のないお人形のようでした」
モニカのその言葉を聞き、アーサーは神殿で見せたルーカスの表情を思い出した。
「神殿……」
「陛下?」
『もし下界で嫌な事があれば、神界に遊びに来い』
「はっ! ルーカスは今部屋にいるのか!?」
アーサーは急いでルーカスの部屋に向かった。
「殿下なら先程眠られました!」
モニカはアーサーに着いて行きながら答えた。ルーカスの部屋に着くと、2人は寝室を確認する。
「「っ!!!」」
ルーカスのベットには誰もいなかった。ベットにも温かさはなく、ルーカスがいなくなってから時間が経っている事が分かる。
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