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本編 幼少期
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しおりを挟む次の日の昼。ルーカスは広間に行き、オスカー家の者に挨拶をする。
「皆、久しぶりだね。お披露目会の時は余り会話出来なくてごめんね」
「いいえ。殿下の計画の邪魔をしたくは御座いませんので。しかし、屋敷にいる間は、沢山会話をして頂けると嬉しいです」
ルーカスはオスカー家の人達にも計画を話していた。その為、お披露目会の時は、会話を交わすことなく、終わってしまった。
「うん。沢山お話しようね」
「リアムとエルシーは、殿下とお話出来ないと残念がっておりましたわ。あの子達が帰ってきたらお話してあげてください」
「ふふ、早く5の月になって欲しいね」
リアムとエルシーは、14歳と12歳で今は帝都の学園に通っている為、今は貴族寮で過ごしている。
オスカー家もエスポワに別荘を持っているが、侯爵家は帝都の門近くに屋敷を持たなければならない。屋敷が学園と離れた位置にある為、休日は宿を取って止まっている。
その為、長期休暇の5の月にならないと、帰って来る事が出来ない。
「殿下、明日から少しずつ音の魔法をお教えしていきますので、昼食後は時間を空けておいて頂けますか?」
「分かった。では、朝は屋敷の庭で鍛錬してもいいかい?」
「勿論です。お好きな所に行き、お好きな事をされて構いません。この屋敷に、貴方様をお止めする者は誰もおりませんから」
「ありがとう」
ルーカスは昼食を食べ終えると、部屋へローブを取りに行き、庭園を散歩した。
以前来た時は冬の花が植えられていたが、今は夏の花が植えられている。
ここの庭園も綺麗だな。城の庭園には何を植えようかな。
ルーカスは庭園を散歩した後、部屋に戻り一日を終えた。
次の日の朝。ルーカスは庭に出て、剣術の鍛錬をしている。
エド兄さんなら、力技だけではなく、頭も使って攻撃してくるから油断は出来ないよね。今度の手合わせは絶対僕が勝つからね。
鍛錬を終え、部屋に戻りシャワーを浴びた後昼食を取り終え、音楽部屋に向かった。音楽部屋に入ると、グレイが机と椅子を用意し、待っていた。
「お待ちしておりました、殿下。本日からよろしくお願いします」
「よろしくね、おじいちゃん」
「ではまず、殿下が音の魔法をどれほどお使い出来るのか教えて頂けますか?」
今、ルーカスが出来ることは、音を増幅、減衰させること。空気の振動を操ること。そして嘘を知らせることだ。
「っ!? 嘘を知らせる魔法を使えるのですか!? お体に異常はございませんか?」
「うん。大丈夫だよ。嘘をつかれた時に頭痛がする位で、それ程痛くもなかったからね」
「……そうでしたか。それはようございました」
オスカーでは音の魔法が使える者には、必ず完全ではない嘘を知らせる魔法を使わせる。それはどれほどの痛みかを知り、誤って使用し命を落とす事の無い様にするためだ。
その為、不完全なものではあるが、グレイはこの魔法の痛みを知っている。その痛みをルーカスがそれ程痛くないと思ったのは前世での暴行により、痛みに慣れてしまったからではないかと、少し悲しく思った。
「基本は全てお使い出来ておられるので、本日から曲による音の魔法をお教えしていきます。本日は穏心音をお教え致します」
「うん」
穏心音は、心を落ち着かせる曲だ。曲調も穏やかで心を鎮めるのにあったものだ。
以前ルーカスがオスカーへ来た時に、和安音と共にグレイが弾いてくれた。
「では、穏心音を弾きますのでお聞き下さい」
そう言うと、グレイはピアノを弾いていく。少し高めの音だが、落ち着いた音色が部屋に響いて心が温まる。
「今のが穏心音です。まずは殿下の古琴で練習致しましょう」
「分かった」
ルーカスは亜空間から琴を出し、音を奏でていく。
「っ! 流石ですね、殿下。練習していけば、1ヶ月ほどで完璧な効果を得られる様になると思います。では、何度か練習した後、笛子でも吹いてみましょう」
「うん」
ルーカスは穏心音を練習し、次の日は和安音を、また次の日は別の曲を習った。
そんな風に過ごして数日。練習を終え部屋に戻るとモニカがやってきた。
「殿下、ジェームズ子爵から書簡が届きました」
「ありがとう。一緒に読んでくれるかい?」
「殿下はお1人で文字を読めたと思うのですが、私の気の所為でございましょうか?」
モニカが笑いながら言う。
ルーカスは書簡とペーパーナイフを受け取ると、封筒を開けた。
『第3皇子殿下
行く春を惜しみつつ新緑に目をうばわれる時節でございます。
お披露目会では私共と挨拶を交わして頂きまして誠の感謝を申し上げます。
この度、3の月26の日に我が屋敷にてお茶会を開くこととなりました。第3皇子殿下にも是非ともお越し頂きたく、手紙と共に招待状をお送りさせて頂きました。
良いお返事をお待ちしております。
ジェームズ子爵家当主』
「父様達を陥れようとしている者達が、誠の感謝なんて世辞にも程があるよね」
真顔でそう言ったルーカスは、参加するとだけ記し、返事を送った。
(殿下は貴族らしくないと思っていたけれど、誰よりも貴族らしいかもしれないわ)
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