転生皇子の新生活

𝐍 𝐢 𝐚🐾

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本編 幼少期

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 男や開いたままの扉の向こうにいる者達はそれに気付く様子は一切ない。

 しかし、男が個室に入ってきた時からずっと、青ざめた顔をしている、1人の若い男の店員がいた。

 唯一この若い男は、アーサーの表情に僅かな怒りがある事に気付いた。すると若い男は、焦って個室の中に入り、アーサーに跪き言う。


「勝手な入室と発言をお許し下さい!」


 アーサーは、少し青ざめた顔をしている若い男が自分達の怒りを感じ取っていることに気付き、「許す」と答えた。


「オーナーの勝手な入室に加え、殿下への不当な発言、大変失礼致しました。本日のお代は、必要ございません。そして、如何様の罰もお受け致します。数々の御無礼、大変申し訳ございません」


 太った男は、この言葉を聞き、顔を真っ赤にして怒り若い男を思い切り蹴り飛ばした。


「何を勝手なことを言っているんだ!!! 化け物に不当な発言をしただと!! 貴様なんて首にしてやる!!」


 太った男が若い男を蹴り続けるのを見て、アーサー達が止めようとした時、ルーカスから少しの殺気が溢れる。
 ルーカスは殺気を抑えて感情のない声で話し出す。


「見苦しいな」


「っ!! なんだと!?」


 太った男は、ルーカスの言葉を聞き、蹴るのをやめて、ルーカスの方に振り向いた。


「聞こえなかったのか? もう一度言ってやる見苦しいと言ったんだ」


「貴様!!」


「先程、私にこの店の料理は相応しくないと言ったな。その通りだ」


「はっ! なんだ分かっているじゃないか!」


 男はルーカスの言葉を聞いて満足そうに言う。ルーカスは気にせずに続ける。


「礼儀の知らない平民風情の店が皇族に相応しいわけが無いだろ」


 そう言い終えると、ルーカスは立ち上がり、若い男の側に行き、言う。


「この者は貰っていくぞ。要らぬのだろう? 付いて来い」


「っ!! 勝手に連れていけ!! 二度と来るな!」


 ルーカスは個室を出て行く。その後を追い、アーサーがお金を置いて、若い男を連れてレストランを出た。馬車に若い男も乗せて、少し走らせ広い所で馬車を停めた。


「皆様、先程は申し訳ございません」


「いや、気にする事はない。名はなんだ?」


「申し遅れました。私の名はカミイル・トム・クライドと申します」


「クライド男爵の三男だよね。どうしてあの店で働いていたの?」


 カミイルは、ルーカスの話し方と雰囲気に驚いて、声が出ない。


「ルー、演技はいいの?」


「うん、父様達の僅かな怒りの表情にも気付いていて、僕にも同情する様な人だし、馬車の中でまでは疲れてしまうからね。

 ねえ君、城で侍従として働かない?」


「えっ!?」


「それは良いな。最近少し人手不足だったからな」


「お待ち下さい! お申し出は大変嬉しいのですが、私には、皇城で働ける程の技量は御座いません。皆様にご迷惑をお掛けしたくないのです」


「だからあんな礼儀のない平民の店で働いていたのかい? でも君が運んで来たお皿は一切音もなく、綺麗に並べられていたよ」


「そうね。所作も綺麗だったし、城の者と遜色なかったわ」


「僕が君を連れて来てしまったから、君は1から働き口を探さないといけない。だから城で働かないかな?」


「殿下は悪くありません! ですが、皆様にそう言って頂けるのであれば、是非働かせて下さい」


「ありがとう」


 カミイルが皇城の侍従として、働くことが決まった。その後は、買い物をして、城に戻った。




 城に着くと、ルーカスとソフィアはエドワードとウィリアムに名前を教えに行った。


「私の名前はソフィア・ラ・ルナ・アイザック・ナサニエルです。よろしくお願いします」


「僕の名前はルーカス・アルシアン・ラ・テオ・オスカー・ナサニエルだよ。よろしくね」


「2人共凄く素敵な名前だよ」


「ああ。2人によく合っている」


「ありがとう」


「ありがとうございます」


 ルーカス達は笑顔でお礼を言って、4人で少し話した後夕食を食べて、眠った。




 夕食後に、アーサーはみんなを集めて今日合ったことを話した。


「一日だけで凄いことが合ったんだな」


「まさかルミナス様が下界にお越しになさるとは」


「しかし、ルーカス殿下にお詫びとして名を2つお渡しになられたのですよね?」


「そうだよね。確かに虐待というのは見過ごせないが、それだけで名を2つも授けるのかな?」


「ああ。ルーカスは私達の知らない事をまだ隠しているんだろうな。だが、聞き出す必要は無いだろう」


「そうですね。ところで父様。そのレストランのオーナーはまだ、生きているのですか。死んで償った方が世のためだと思いますよ」


「確かにそうだな。私も同感だ」


 ウィリアムが言うとエドワードが賛同する。


((エドワード殿下まで……))


(流石は私の息子達。本当に物騒だな)


 後日、レストランのオーナーらは、皇族に対する不敬罪により、正当に裁かれこの世を去った。








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