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本編 幼少期
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しおりを挟むルーカスは最後の1小節を弾き終わると弦に触れ、余韻を止める。
「凄く感動致しました! 心が洗われたような気分です!」
「殿下の清らかなお心が、曲に乗って流れてきたようです」
「ふふ、ありがとう」
みんなが次々に称賛を上げていく。
称賛の嵐が終わると、グレイが尋ねてくる。
「殿下。この曲は前世での曲ですか? 聞いた事の無い旋律でした」
「うん、そうだよ。この曲を聴くと、嫌な思い出も気持ちも、音と共に僕から流れ出てくれるような気がした。この曲が1番好きだったんだ。この曲は僕の良い思い出なんだよ」
「そうなのですね」
皆は、前世の事を知っているため余計に、ルーカスの言葉が重たく感じた。だが、明るい表情で話すルーカスを見て彼らの気持ちは、暗くならなかった。
「そろそろ部屋に戻るね。急に来てごめんね、父様」
「いつ来ても構わない。楽器はここに置いておくといい。後で運ばせよう」
「ありがとう、父様。次からは先触れを出してから来るね」
「ああ」
「おじいちゃん、笛と琴ありがとう。皆も演奏聞いてくれてありがとね」
「いいえ、こちらこそ、素敵な演奏をありがとうございました」
ルーカスは、グレイに微笑むと黒いローブのフードを深く被り、セバスとモニカと共に執務室を後にした。
「では、私もそろそろお暇させて頂きます。お時間を作って頂き、ありがとうございました」
「ああ」
そう言うと、グレイも部屋を出た。
部屋には5人だけが残り、ルーカスの事を話し始めた。
「はぁ、まさかルーカスがあんなことを考えていたとは」
「ああ。殿下の変な噂が流れ出したと思ったら、そういう事だったのか」
アーサーとフレデリックがそう言うと、アルフィーが少し怪訝な表情をして話し出す。
「陛下。殿下の側近はお決めになられていますか?」
「いや、この間ソフィの護衛を決めたばかりだ。ルーカスはまだ5歳にもなっていない。なぜだ?」
アーサーはアルフィーの急な質問を不思議に思った。
「私の孫を殿下の側近にしてはどうでしょうか。
殿下の噂が、ほんの数ヶ月でここまで広がっております。殿下の予想通り、殿下を利用しようとする愚か者がいるはずです。
噂の広まる速度からして、少なくとも3家以上はいると考えられます。
殿下にも、公爵家の関わりがあった方がよろしいかと。
クラークはルカ殿下の、アイザックはリオ殿下の側近になっております。今代のカーソンは、信用出来ません」
今代のカーソンは信用出来ないか。それは私も同感だ。
「君の孫であるミアがソフィの側近になったのは知っているだろう? という事は、君の孫はノアしか残っていない」
「はい」
「私も父上に同感だ。リヴァイは、倫理観もあり聡明だ。そして、剣術にも長けている。必ず殿下の役に立つだろう」
「しかしノアは、無口であり無表情で感情が読めない。感情があるのか疑わしいくらいだぞ。フレディの息子ということもあり、正直言って取っ付き難い」
「確かに何を考えてるのか分からないよね。フレディの息子と言うだけで、凄く関わりたくないね」
「ノア様に失礼だぞ。もう少し言葉を選べ」
アーサーと、それに賛同したディムロットをアレクサンダーが窘める。
「無口で感情が読めないのはエドワード殿下も同じだろう」
「まぁそれもそうだが。何より、公爵家の者を側近にすれば、ルーカスの計画が台無しになるだろう。あの子が行う事を許したのだ。それを私の手では壊してやりたくない」
皆は、確かに不仲のはずのアーサーが、リヴァイを側近に付ければ、噂の信憑性が失われるのではと感じた。
だが、直ぐにアルフィーが話し出す。
「殿下の計画では、陛下方は殿下を嫌っていることを隠している、ということにされております。なんの問題もございません。
そして、殿下は思っているよりも、さらに聡明です。陛下の事もリヴの事も簡単に使いこなせるでしょう」
「確かにあの子は聡明だ。聡明すぎるんだ。私はあの子が何を隠しているのか、無理をしていないかを気付いてやれない。側にいて助けてやることも出来ない」
「だからだ。アースが出来ないのであれば、リヴァイを使え。私を使え。1人で抱え込むな」
「本当に、親子揃って1人で背負おうとするんだから。私も使えよ」
「私の事もだ。辛くなったらちゃんと頼ってくれ」
アーサーは、良い友人を思ったんだなと思った。そして、息子達全員がこの様に自分を叱ってくれる相手を見つけて欲しいと思う。
「分かった。ノアをルーカスの側近にさせる。フレデリック、伝えておいてくれ」
「承知致しました」
「シリルも良い提案をしてくれた」
「痛み入ります」
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