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本編 幼少期
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しおりを挟む2回目の授業が終わった。
「殿下、こちら先日お話致しました、異国についての本です。東洋の物は入手が困難でしたのでこちら、隣国について書かれている本をお贈りさせて頂きます」
「そうか。ありがたく受け取らせてもらう」
(今、わざと強調して言ったね)
「では、本日はここまでです」
「待て。話したい事がある」
「なんでしょうか」
立ち上がろうとしたアルフィーは再びソファに座る。
「私には、前世の記憶がある。頭の中にはその知識もある。算術は今世でも通用するだろう。だが、この世界の事は一切知らない。だから徹底的に頭に詰め込みたい」
「貴方様に、この世界の地理、歴史、言語、貴族社会の事を私の持ちうる全ての知識をお教えさせて頂きます。他にも気になる事があれば、何でもご相談ください」
「ああ、助かる。父上には、私に前世の記憶がある。ということをそなたに話したと伝えておいてくれ。
父上もその方が授業の指示を出しやすいだろう」
「承知致しました。……本当に覚え子だったのですね」
「ああ。何度も探りを入れてきていたが、確信が持てなかったのだろう? どうせ近い内にバレるだろうから、話してしまおうと思ったんだ。適当な探りもめんどくさかったからな」
「お気づきでしたか」
「ふっ、そなたは私があんな簡単な探りに気付かぬ阿呆だと思っていたのか?」
ルーカスが嫌味っぽく言う。
「いいえ。気づいて乗ってきてくださると思っていたのですが。そうでは無かったようです」
「そなたがどの様な者か、観察したくてな」
「話して頂けたという事は、悪い印象ではないということですね。それならば、私の茶番に乗って下さってもよろしいではございませんか」
「そんなことをする人間に見えたか?」
「……ふふふ、見えませんね」
そう言うと、アルフィーは立ち上がり部屋を出ていった。
あれから5ヶ月が過ぎ、9の月に入った。アルフィーはこの国の貴族の名前と派閥を全て教えた後、貴族の成り立ちを教えていた。
帝国内には、皇帝を支持する皇帝派と、皇帝の統治に反対する反対派、どちらにも属さない中立派がある。
全公爵家は皇帝派に属する。
オスカー、ルイーズの2つの侯爵家は皇帝派。
マカイラ、スージン、レスターの3つの侯爵家は中立派。
反対派は元々、政治を客観的に評価する貴族家のことをそう呼んでいた。
しかし現在は、謀反を起こした者達のことも、反対派と呼ぶようになった。
フォレスター伯爵家、ジェンキンス子爵家、ラミネス男爵家、コックス男爵家、ペレス男爵家は反対派。
この五家は、昔からある家門で文官として、監査する役割を持つという意味の反対派に分類する。
「反対派は謀反を起こした者達の事もそう呼ぶと言ったな」
「はい」
「なぜ過去形なんだ?」
「謀反を起こした者は、皆、死刑もしくは終身刑となります。その対象は、首謀者、共謀者、傍観者です。その者達の身内の者は、無関係の者でも罰が与えられます」
貴族位剥奪、若しくは賠償金の支払い。殆どの貴族が、平民に降格する。
一時は、その生き残った者達を逆賊と呼んでいた。
しかし、そのまま貴族として生きていく者もいる。自分よりも身分の高い貴族や降格したとはいえその身内を逆賊とは呼べない。だから、反対派と呼ぶようになった。
「逆賊として反対派と呼ぶものもいれば、賛辞として反対派と呼ぶものもおります」
「その反乱は、正しかったのでは無いかと思った者もいるということだな」
「はい。何が本当に正しいのかは誰にも分からないことですので」
「そうだな」
ルーカスは少し考えた後、アルフィーに質問した。
「残った貴族達はどんな状況なんだ?」
「身内がした事を本心から悔やみ忠誠を誓う者、そう装い本心では皇帝を憎む者、隠さずに前面に出す者、謀反を繰り返す者もおりました」
この国では、言論の自由度が高い。その為、皇族や貴族に発言したとしても処罰を与えられない。
「非難を前面に出している者は、どれ位いるんだ?」
「殆どおりません。と言うよりも、憎んでいるのかいないのか分かっておりません」
「厄介だな」
「はい。現在確認できているのがヘイズ、パターソン両伯爵家、プライス子爵家、キャンベル男爵家が反対派です。
この4つの家門は、15年前に謀反を起こした貴族の身内が多く集まっております」
「15年前?」
ルーカスは険しい顔をする。
「はい。殿下がお思いになられたことと深く関係しております。しかし、この件は歴史の授業の時にお学び致しましょう」
「ああ」
「では本日はここまでです。ありがとうございました」
アルフィーは、挨拶をすると部屋を出て行った。
15年前、どんな事があったんだろう。
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