22 / 410
本編 幼少期
18
しおりを挟む「……んん、とう様?」
僕が目を覚ますとベビーベッドの近くの椅子で父様が眠っていた。
(昨日は確か、母様が亡くなったと聞いて急に心が沈んでしまった。そして僕の周りを氷が囲っていた。あれは魔法、かな?)
「んぁー、起きたかルーカス。体調はどうだ?」
「だいじょうぶだよ。昨日は、ごめんね……」
「謝らなくていい、急に言った私が悪かったんだ」
「ううん、かあ様が長くないのは知ってたのに、心のじゅんびが出来てなかったぼくが悪いよ。……もう、かあ様には会えないんだね」
「……ああ」
「でもね、かあ様はきっとぼく達のことをお空から見てくれていると思うんだ」
「……ああ、シャルはきっと見ていてくれる」
父様にはああ言ったけど寂しい。それに、やっぱり僕を産まなければ、母様が死ぬことは無かったんじゃないかな。
「……ルーカス、シャルの生家があるオスカー領に療養に行ってこないか? オスカー家は音の魔法の家系で心を癒す魔法を使える。ルーカスの前世のことも、伝えてある……どうだろうか?」
母様の生家という事は母様の父さんや母さんがいるはず。母様を殺した僕を受け入れてはくれないだろう。でも、父様は僕のためを思って言ってくれたんだ。それに、父様が前世のことを伝えているという事は信頼できる人なんだろう。
(……大丈夫、嫌われるのは慣れている、前世の生活に戻ったと思えば良い)
「……ぼく、行こうと思う」
「っ! ……ああ、お父上達とは連絡が着いている1週間後に迎えに来てくれるようだ」
アーサーはルーカスが笑顔の前に見せた、一瞬の虚ろな目を見逃すことは無かった。
(やはり、お父上達と会うのは不安なのだろう。しかし、会わなければ、私が言うだけでは、この子の不安は拭えないだろう。すまない、ルーカス)
それからの一週間は、モニカが療養に行く準備をした。オスカー家にはモニカも一緒に来てくれるそうだ。モニカにも僕の前世の事を伝えたみたい。心強いな。
「ルーカス、お父上が到着したようだ。挨拶に行こう。ルーカスは私のそばにいてよろしくと言うだけで良いからな。敬語は使ってはいけないよ」
「うん」
コンコンコン、ガチャリ
「久しぶりだ、リク。此度のシャーロットの件、治してやれずすまなく思う」
「いいえ、陛下。娘が体調を崩したのは、あの子が無理をしたからです。誰も悪くはありません」
「そう言ってくれて助かる。シャルの子を紹介しよう。ルーカス挨拶できるか?」
僕は父様の服をぎゅっと掴み、頷いた。
「るーかすだよ。……よろしくね」
「っ! お初にお目にかかります。私の名はグレイ・リク・オスカーでございます。どうぞよろしくお願い致します。 驚きました、陛下、殿下はシャーロットに似て美しいお方ですね。やはり、噂など単なる出任せにございます」
「ああ、まったくだ。噂好きな貴族達には反吐が出る」
「殿下のお話は、陛下からお聞き致しました。貴族の中には貴方様を悪く言う愚かな輩も沢山いるのは事実です。しかし、陛下のように殿下を心から愛している方もおられます。私もその内の一人です。差し出がましい事とは存じ上げておりますが、少しずつでも信頼出来る者を、気の許せる者を増やしていかれては頂けませんか?」
ルーカスにはグレイの言葉が嘘偽りのないものだと分かった。しかし、なぜ娘を殺した相手にそんなに優しくできるの?
「……きみの言うことは、たしかだと思うよ。でも、自分のむすめをころした相手にどうして優しくするの? どうして許すことが出来るの? ぼくには分からない」
「ルーカス、許すも何も、私達は君がシャルを殺したとは思っていない」
「陛下の言う通りです。許す必要などないのです」
ああ、分かっている。彼等は優しいから、心から僕のせいでは無いと思ってくれる。僕は彼等に八つ当たりをしたんだ。
「ちがう、ごめんね。ぼくが、自分をゆるせないだけだよ。だって、かあ様がなくなって、かあ様をころした化け物のぼくが生きている」
「なっ! ルーカス、そん「陛下……」
なにかを言おうとしたアーサーをグレイが止めた。
24
お気に入りに追加
727
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。


【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる