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高等部編

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 翌日の昼、ルーカスは昼食を済ませると中央棟へと訪れていた。

 普段はアーサーの執務室以外には殆ど近づくことの無いルーカスの姿に、城内勤務の者達は道の中央を空けながらもチラチラと視線を向けていた。


 ルーカスが反対派の者達の部屋に着くと、すぐにペレス男爵がルーカスに気付き近付いてくる。


「御足労頂き感謝いたします。部屋を用意しておりますのでこちらへどうぞ」


 ペレス男爵がルーカスを連れて部屋に入ると、ルーカスは部屋の中に音を遮る結界を張る。
 そしてペレス男爵がルーカスにお茶を入れると、2人は向き合ってソファに座った。


「皇子殿下、ケイリー達から聞かれたと思いますが改めまして、今年の夏の長期休暇を、是非とも我が家の別荘でお過ごしいただけませんでしょうか」


「理由を聞いても?」


「はい。実は……」


 最近、皇城の中でムハンマド家の直系に対する批判的な声が広まっていた。学園への侵入者や、奴隷売買の件にも、ムハンマドの象徴とも言える黒髪が関係していた。


 その為反対派の元に宰相家の調査を求め幾人かの貴族がやって来たらしい。
 そしてその調査を担当する事になったのがペレス男爵とラミネス男爵のようだ。


「ですので調査の間、皇子殿下にはノア様とムハンマド公子を連れ、北部へ居て頂きたいのです」


「確かに、僕が遠出に行くならば、貴族の依頼で調査があれど側近のリヴはついて行くしか選択肢は無い。そこを疑う者はいないだろう。けれど、レイアを連れて行けば話は変わる。それに、仮にも反対派であるならば、君は調査を真剣に行うべきではないのかい?」


 ルーカスは鋭い眼光をペレス男爵に向けて言う。


「今のムハンマドの直系達は、どれだけ叩かれた所で、塵ひとつも出てきやしないよ。調べるならば一切の疑念も残さず調べ尽くしなさい。まあ、分家の者達までそうとは限らないけどね」


 そのルーカスの言葉に、ペレス男爵は驚き感心した表情となった。そしてルーカスに対し頭を下げる。


「試すようなことをし、誠に申し訳ございません。実は、この件は反対派と皇帝派、そして陛下とご相談し、決めたことなのです」


 その言葉に今度はルーカスの方が少し目を見開いた。


「昨今怪しい動きをしておるのはムハンマドの直系ではなく、いくつかの分家の者達なのです」


 ムハンマドの直径達に対する訴えをしたのは、どれもムハンマドや他の家門の分家達のみだった。その反対に、分家達へ不審を持った直系が分家を調べる事例も多く起きていた。


「つまり、直系を陥れ権力を持ちたい分家が増えている、と」


「ええ、分家の訴えの中には、皇子殿下とノア様のお話もよく上がってきておりまして」


「僕達の?」


 宰相家の後継者であるリヴァイが、子を授かれない者を娶ろうとしている。

 子を孕めないことを気にしたルーカスが、不当な反対派に罪をなすり付けムハンマドの人間を殺し赤子を奪った。

 大事な後継者をまだ結婚すらしていない2人が相談もなしに勝手に決定した。

 などと言う声も広まっているそうだ。


「それはまた、意味の分からない訴えだね? 1つ目はまあ、まだ分かる。後継者を育てる事も直系の義務だから。ただ他は、」


「支離滅裂な訴えでしょう。不当な反対派の件は、皇帝陛下も我々反対派も、徹底的に調査し尽くしました。相談に関しましては、分家に相談する貴族が何処にいるのか、と、思ってしまいましょう」


 ペレス男爵は酷く呆れた様子でそう言う。


「ですから、ご相談の結果、ムハンマドへの調査の件は、最も強く訴えを出しているムハンマドの分家の者を連れ、軽く、調査することで収まりました。その隙に、幼い公子に対しまた、手を出されても困りますので、避難して頂こうということに」


 レイアが階段から落とされた事件は、反対派だけでなく皇城中に広まってた。


「しかし、皇子殿下に対して鎌をかけたのは、反対派の独断で御座います。その件に対してはどんな罰も受けましょう」


「父様が不要と言うならば調査に対して口を出す気はないよ。罰に関しては、そうだね、避暑には姉さんとリリーも連れて行く事で許すよ」


「承知致しました。使用人達に十分におもてなしするよう伝えておきます」


「特に、警備は皇城にも負けないくらい頑丈にね?」


 ルーカスの言葉に、ペレス男爵は可笑しそうに声を上げて笑った後、真剣な表情で誓う。


「億が一もないように、しかとお守り致します」


 こうしてルーカス達の北部行きが決まったのだった。




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 再開が遅くなりすみません💦
 来週からまた定期投稿を再開しますので、ぜひ読んでいただけると幸いですm(_ _)m
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