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高等部編
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しおりを挟む翌日の夜、就寝の準備を終えたルーカスとリヴァイは互いのベッドに座り向き合っていた。
……聞いて欲しいと言ったものの、何を話せば良いか分からない。
ルーカスは思考をめぐらせ何を告げるべきかを悩み黙ってしまう。しかしリヴァイは自分が何を聞きたいのかを理解している為真剣にルーカスの方を向き口を開いた。
「私は、貴方の心が知りたいです。貴方が覚えている、全てを知りたい」
「っ、全て……」
ルーカスは少し視線を落とした。翠であった頃の記憶は何も良い思い出がなく、絶対に聞いていて気分の良いものではないのだ。
それでも自分の事をなんでも知りたいと言ってくれるリヴァイに、漸く覚悟を決めて口を開いた。
「……翠の頃の記憶も、生まれた時からの全てを覚えている。けれど赤子の頃の感情は、ごちゃごちゃしていて今はよく分からない。感情を分類出来るのは、3、4歳位の頃からだよ」
ルーカスは記憶を辿りながらゆっくりと話していく。
「友人が出来たのは嬉しかった記憶がある。幼稚園にいる間は、先生も優しくて凄く楽しかった。皆で仲良く遊んで、喧嘩をして……」
「……家に帰ってからは、、?」
「……両親にはいないものとして扱われて、使用人達には殴られたり蹴られたりした」
出来事しか話さないルーカスに、リヴァイは頷き優しい瞳で見つめ感情はどうだったのかと先を促した。
「っ、、、。…………つら、かっ、た、、」
ルーカスは眉をひそめ堪えながらそう言った。するとリヴァイは、ルーカスのベッドに移動し横に座った。そしてルーカスの頭を優しく撫でる。
その優しくて大きな手に、ルーカスの瞳からは涙が溢れ出す。
「あ、れ、、? 可笑し、いな……ごめっ、、」
自身の瞳から溢れ出す雫に、ルーカスは戸惑い慌てて止めようとする。しかしその様子を見たリヴァイは、ルーカスを優しく包み込むように抱きしめた。
「大丈夫です。辛い時に涙が出るのは当然です。辛くとも、怖くとも、涙が出なかった今までが、とてもおかしなことなのです」
リヴァイのその優しく暖かい言葉に、ルーカスの瞳からは沢山の涙が溢れ出す。するとルーカスは、咎が外れたように感情が零れ始めた。
「っ、痛かった。殴られるのも、蹴られるのも、ちゃんと、痛かった……。無理矢理触れられるのも、気持ち悪くて、凄く怖い。無視されるのは嫌だし、裏切られるのもとても辛い。誰かに縋るのが、心の内をさらけ出すのが、酷く、怖いんだ……」
「…………はい。辛いことを思い出させてしまい、申し訳ありません」
「……誰に聞かれても、もう、話さない。君、だけだ。君だけが知っていれば良い。誰にも、話さないで……」
「勿論です。誰にも教えてやりません。貴方もどうか、お忘れ下さい。私だけ、知っていれば良い……」
リヴァイの胸の中で泣くルーカスは、頭を擦り付けるように何度も何度も頷いた。
暫くしてルーカスが泣き止むと、リヴァイはルーカスの瞼に氷の魔法で冷気を当てた。
「少し腫れています」
「……こんなに泣いたのは、初めてかもしれない」
「貴方が辛くて泣くのはこれ切りだ、と、言いたいですが……」
これから誰よりも長く生きていく2人にとって、それは無理な話だろう。
「うん。……家族や友人達との別れの場面では、沢山泣きたいな。これでもかと言うほど泣いて、きちんと前に進みたい」
「はい。殿下が泣いて悲しんで下さるのならば、皆が安堵し、心地好く眠りにつけるはずですから」
「そうだよね……」
ルーカスはぎゅっとリヴァイの服を掴むと、少しの間抱き着いたまま動かなかった。
その後暫くすると、ルーカスは漸く口を開いた。
「ねえ、リヴ、沢山泣いて興奮したら、目が冴えてしまった……」
そのルーカスの言葉にリヴァイは押し黙る。
「リヴ、僕のこと、最後まで抱いてよ。僕はもう、君に全てをさらけ出した。ずっと前から、覚悟は出来ているよ」
「しかしまだ、、…………分かりました。貴方が覚悟を決め、お許し下さるのならば、私に断る術はございません」
ルーカスの言葉に最初は渋りを見せたリヴァイだが、真剣な表情のルーカスに、リヴァイ自身も覚悟を決めたようだ。
「シアン、浴室に行きましょう……」
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