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高等部編
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しおりを挟む執務室へ入ると、アーサーとフレデリックが厳粛な顔つきで待っていた。
「急用があるそうだが……」
アーサーは厳しい瞳でカエルム達を視界に入れると、ルーカスの方へ視線を戻す。
「彼らの事は騎士から報告があったと思うのだけど」
「ああ、オークションの商品だったと聞いた。本来保護対象となるその生きた商品が、皇族であるルーカスに手を出したともな」
そう言いアーサーは先程よりも鋭い視線と殺気を纏いシエロを睨み付けた。カエルム達は歯向かうどころかアーサーの厳かで殺気立った雰囲気に気圧され立っているのがやっとの様子だ。
「その商品がなぜルーカスと共にいるんだ?」
「その事で話があってきたんだ。とても重要で、急ぐべき案件でしょう?」
ルーカスは優しく微笑むように口角を上げたが、その瞳には有無を言わせない圧が感じられる。
「……話してみろ」
「彼らの処刑は見合っていないと思ってね」
「……見合っていない?」
アーサーは訝しげな表情を浮かべ先を促した。
「そう、見合っていない」
ルーカスがふっと笑みを消すと、アーサーは酷く強い悪寒が背筋を走り心臓を早くさせる。そんな彼を他所にまたもや口角を上げると、今度は圧を一切かけずに物腰柔らかくルーカスは理由を述べた。
「まず、彼らはこんな体躯だけど、1番目は11歳、2番目は7歳、3番目は5歳の幼子達なんだ」
「それをどう証明する? 魔法で真実を判定出来るのは君一人だろう? 君が嘘をつかないと言う可能性はどこにある?」
そのアーサーの言葉に、ルーカスは驚いた様に僅かに瞳を見開いた。そのルーカスの様子にリヴァイ達はほんの少し焦ってしまう。
しかしルーカスは見開いた瞳を鋭くし、酷く怒った視線をアーサーに送った。
「……君も、君の側に仕える者達も、こんな稚拙な幼子の嘘すら見抜けない、腐った目は持っていない」
その恐怖すら感じる瞳に、アーサーとフレデリックは手足の力が抜けそうになるのを何とか持ち堪えた。
「すまない、失言だったな。私も側近達も腐った目は持っていない。ただ、どうやって納得させる気なのかと問いたかっただけだ」
「……僕の方こそごめんね。父に対して君はいけない」
ルーカスの言葉にアーサーは軽く頷いた。
「納得させる為に、キャシーの魔法を借りようと思うんだ。僕が魔法を発動した後、父様と痛覚を共鳴させて痛くならなければ、嘘をついていないということになる」
「分かった」
アーサーは二つ返事で了承した。恐らくルーカスが痛覚の共鳴を提案した事でカエルム達が嘘をついていないと確信したのだろう。
ルーカスとアーサーの痛覚を繋げるということは、魔法を発動するキャサリンとも繋がるということだ。
アーサーはキャサリンに痛覚を共鳴させることをルーカスが断固として禁じていたことを知っている。
案の定、3人が共鳴したあとカエルム達が自身の年齢を告げたが3人ともに痛みが来ることはなかった。
「年齢が事実なのは分かった。だが皇族に手を出した以上、厳重な処罰が下される」
「では次の理由。彼らは奴隷になって1年も経っていなかった。主人に対する反発心は一目瞭然で、他人に対する警戒は相当だった」
「確かに警戒した獣は何をしでかすか分からん」
そう言いアーサーはカエルム達の耳や尾に目をやった。
「そして彼らは平民で、血族だけで狩りをしながら獣人の国を転々としていたらしい。如何にも獣然とした暮らしぶりでしょう?」
先程のアーサーの、カエルム達をわざと嘲笑するような言葉にルーカスも乗っかり言葉を紡いだ。
するとカエルム達の拳が強く握られる。
「加えて獣人の国では武力によって王が決まる。王族に対する礼儀も最低限のものだと聞く」
「……つまり、あるかないかも分からん礼儀作法すら学べない平民の、戦いしか能の無い荒くれの獣には、人族の皇族に対する礼儀は守れなくて当然と、そう言いたいのか?」
その言葉にカエルムは酷く顔を顰める。それを機にせずルーカスはこくりと頷いた。
「ナサニエルには学園内だから許容される、という規定があるでしょう? あれは平等を謳う学園だから規定が出来たのではなく、未熟児達が減るのを防ぐ為に規定を作ったから学園が平等を謳っているんだよ」
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「家庭教師に教わったにも関わらず未熟であるとされ処罰を免れる貴族と、学ぶ機会すら与えられず未熟であることを非難され軽んじられる平民。どちらが人材的に伸び代があるのかなんて、明々白々、ではないかな?」
そう言いルーカスは酷くわざとらしい笑みを浮かべた。
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