転生皇子の新生活 高等部編

𝐍 𝐢 𝐚🐾

文字の大きさ
上 下
83 / 105
高等部編

23

しおりを挟む


 執務室へ入ると、アーサーとフレデリックが厳粛な顔つきで待っていた。


「急用があるそうだが……」


 アーサーは厳しい瞳でカエルム達を視界に入れると、ルーカスの方へ視線を戻す。


「彼らの事は騎士から報告があったと思うのだけど」


「ああ、オークションの商品だったと聞いた。本来保護対象となるその生きた商品が、皇族であるルーカスに手を出したともな」


 そう言いアーサーは先程よりも鋭い視線と殺気を纏いシエロを睨み付けた。カエルム達は歯向かうどころかアーサーの厳かで殺気立った雰囲気に気圧され立っているのがやっとの様子だ。


「その商品がなぜルーカスと共にいるんだ?」


「その事で話があってきたんだ。とても重要で、急ぐべき案件でしょう?」


 ルーカスは優しく微笑むように口角を上げたが、その瞳には有無を言わせない圧が感じられる。


「……話してみろ」


「彼らの処刑は見合っていないと思ってね」


「……見合っていない?」


 アーサーは訝しげな表情を浮かべ先を促した。


「そう、見合っていない」


 ルーカスがふっと笑みを消すと、アーサーは酷く強い悪寒が背筋を走り心臓を早くさせる。そんな彼を他所にまたもや口角を上げると、今度は圧を一切かけずに物腰柔らかくルーカスは理由を述べた。


「まず、彼らはこんな体躯だけど、1番目は11歳、2番目は7歳、3番目は5歳の幼子達なんだ」


「それをどう証明する? 魔法で真実を判定出来るのは君一人だろう? 君が嘘をつかないと言う可能性はどこにある?」


 そのアーサーの言葉に、ルーカスは驚いた様に僅かに瞳を見開いた。そのルーカスの様子にリヴァイ達はほんの少し焦ってしまう。

 しかしルーカスは見開いた瞳を鋭くし、酷く怒った視線をアーサーに送った。


「……君も、君の側に仕える者達も、こんな稚拙な幼子の嘘すら見抜けない、腐った目は持っていない」


 その恐怖すら感じる瞳に、アーサーとフレデリックは手足の力が抜けそうになるのを何とか持ち堪えた。


「すまない、失言だったな。私も側近達も腐った目は持っていない。ただ、どうやって納得させる気なのかと問いたかっただけだ」


「……僕の方こそごめんね。父に対して君はいけない」


 ルーカスの言葉にアーサーは軽く頷いた。


「納得させる為に、キャシーの魔法を借りようと思うんだ。僕が魔法を発動した後、父様と痛覚を共鳴させて痛くならなければ、嘘をついていないということになる」


「分かった」


 アーサーは二つ返事で了承した。恐らくルーカスが痛覚の共鳴を提案した事でカエルム達が嘘をついていないと確信したのだろう。

 ルーカスとアーサーの痛覚を繋げるということは、魔法を発動するキャサリンとも繋がるということだ。
 アーサーはキャサリンに痛覚を共鳴させることをルーカスが断固として禁じていたことを知っている。


 案の定、3人が共鳴したあとカエルム達が自身の年齢を告げたが3人ともに痛みが来ることはなかった。


「年齢が事実なのは分かった。だが皇族に手を出した以上、厳重な処罰が下される」


「では次の理由。彼らは奴隷になって1年も経っていなかった。主人に対する反発心は一目瞭然で、他人に対する警戒は相当だった」


「確かに警戒した獣は何をしでかすか分からん」


 そう言いアーサーはカエルム達の耳や尾に目をやった。


「そして彼らは平民で、血族だけで狩りをしながら獣人の国を転々としていたらしい。如何にも獣然とした暮らしぶりでしょう?」


 先程のアーサーの、カエルム達をわざと嘲笑するような言葉にルーカスも乗っかり言葉を紡いだ。
 するとカエルム達の拳が強く握られる。


「加えて獣人の国では武力によって王が決まる。王族に対する礼儀も最低限のものだと聞く」


「……つまり、あるかないかも分からん礼儀作法すら学べない平民の、戦いしか能の無い荒くれの獣には、人族の皇族に対する礼儀は守れなくて当然と、そう言いたいのか?」


 その言葉にカエルムは酷く顔を顰める。それを機にせずルーカスはこくりと頷いた。


「ナサニエルには学園内だから許容される、という規定があるでしょう? あれは平等を謳う学園だから規定が出来たのではなく、未熟児達が減るのを防ぐ為に規定を作ったから学園が平等を謳っているんだよ」


 今ではどちらが先かを考える者はほとんど居ない程に周知された規定だが、ルーカスのこの交渉においては酷く重要な問題だ。


「家庭教師に教わったにも関わらず未熟であるとされ処罰を免れる貴族と、学ぶ機会すら与えられず未熟であることを非難され軽んじられる平民。どちらが人材的に伸び代があるのかなんて、明々白々、ではないかな?」


 そう言いルーカスは酷くわざとらしい笑みを浮かべた。





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

王道学園なのに、王道じゃない!!

主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。 レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ‪‪.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第2の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

処理中です...