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高等部編
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しおりを挟む「……勇士とは、随分と馬鹿げた物言いですね」
「馬鹿な犯罪者を相手にするのは、同じく馬鹿な人間なのだから仕方がないよ」
「そうですね。ルーカス殿下、私とエイルはこのオークションについて通報する者がいるかどうか調べてまいります」
その言葉を聞き、ルーカスは少し驚いたような表情をする。
キャサリン達が自分の側から離れる事を先に言い出すとは思っていなかったからだ。
「分かった。お願い」
2人は頷くとオークション会場から出ていった。それを見送ると、リヴァイが迷いを込めた声で呼ぶ。
「……殿下」
「なに?」
その問いかけに、リヴァイは躊躇いの表情を浮かべながら口をはくはくと動かした。
それを見てルーカスは、ゆっくりで構わないと伝える様に、リヴァイの手に触れそっと握る。
「……この件は私達に任せ、殿下は皇城に戻られませんか?」
「え、何故……?」
ようやく出たリヴァイの言葉にルーカスは驚き問い返した。
「……私は、貴方の過去を知ってはおりますが、貴方が何を思い、どんな気持ちで生きておられたのかは、私の乏しい想像力では分かりかねてしまいます」
「どういう……」
「貴方は、不遜な扱いを受け、虐げられた人間を目にすると、私でも気づく程の、ほんの少しの怒りと悲しみの表情を浮かべられます……」
「悲、しみを……?」
ああ、それはそうだ。無償で愛をくれるはずの両親に、ぞんざいに扱われて悲しまない者がいるだろうか。
「リヴ、君の言いたいことは分かったよ。けれど気にする必要は無い。悲しみという言葉に腑に落ちても、僕の中にその感情は見当たらないから。僕は自分で思うよりも随分と冷たい生き物のようだ」
「いいえ……! 貴方はとても、暖かいお方です……」
「うん、ありがとう」
ルーカスが少し嬉しそうに笑みを浮かべてお礼を言った。
それと同時に、先程の司会者が舞台に顔を出し進行を始めだした。
「それでは会場にお残りの勇士達へ、本日の商品をお見せ致しましょう!」
司会者のその言葉に、舞台の端から大きな檻が運ばれてくる。その中には鎖に繋がれたまだ幼さの残る猫獣人が3人捕えられていた。
ルーカスの舞台に向ける視線がより一層冷ややかになる。
「獣らしく飢えた瞳に、人間とは到底思えない毛の生えた大きな耳に鋭い牙! この反抗的な姿を従順にするのは一体誰だ!? ではでは、値段は大銅貨1枚から!!」
それを聞いた途端、会場に居る者達は一斉に笑い出した。
オークションに参加出来る者は個人差はあれど皆裕福な者達だ。
彼らは触れる事すらない、貨幣という意味を持たない端金を付けられた獣人達を馬鹿にしたように笑い口を開いた。
「はははっ! 3匹もいて大銅貨1枚とは、うちで飼っているペットが余程良い扱いを受けているようだ!」
「うちのもそうみたいですわ! 可哀想だから大銅貨1枚と小銅貨1枚で買ってあげる」
参加者達は最低限の金額を上乗せして獣人達を小馬鹿にしていく。1番大きい猫獣人の子は檻の中でこの場にいる者達を威嚇するように喉を鳴らした。そして2番目に大きな子は1番小さい子を守るように抱きしめている。
「彼らは自分達が置かれた状況を理解しているようだね。リヴ、知っているかい? 意思を無視されお金で買われるのは、酷く屈辱的なんだ」
「っ! あるのですか……!!」
リヴァイは酷く怒りを表し声を上げて問うた。リヴァイの拳は強く握られ怒りに震えている。その手をルーカスは自身の手で優しく包み込んだ。
「僕の場合、命ではなく体だけどね。……ねえリヴ、後で、僕の話を聞いてくれるかい?」
父様達にでさえ、知られたくなかった、見せたくなかった、僕の心の内を……。
「聞かせて下さい。あなたの全てを」
「うん、ありがとう。……リヴ、僕の姿を見て暴れる者がいたら取り押さえなさい」
「承知致しました。お気をつけ下さい」
「うん」
ルーカスは黒く染めていた瞳と髪の色を自身の元の色に戻すと、体内にある翼を出し、大きく広げて舞台に向け飛んで行く。そして猫獣人3人と客達との間に割り込むように舞台に舞い降りると、3人の目線に合わせて立ち、彼らに向けて口を開いた。
「君達3人で、大金貨9枚というのはどうかな?」
そうやって優しい声で尋ねたルーカスに、彼ら3人は驚き目を見開いて固まってしまったのだった。
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