転生皇子の新生活 高等部編

𝐍 𝐢 𝐚🐾

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高等部編

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 映像保存の魔道具を購入した後、ルーカス達は宝石店へやって来た。


 お店に来たは良いけど、毎年1の月に母上がデザイナーを呼んで、僕達のアクセサリーを総入れ替えさせるから今のところ困っていないんだよね……。


「テオ殿下、本日は何をお探しでしょうか?」


 ルーカスの向かいに座る年配の男性の店主がそう尋ねると、ルーカスは少し悩んだ。


 ……あ、そうだ。


「アンクレットのデザイン案を見せてくれるかな」


「((ボソッ…ア、アンクレット……。デザイン案ですね。ありがとうございます」


 そうにっこりと笑みを浮かべて言うと、店主は店の者にデザイン案を持ってこさせた。


「現在考案しているデザイン案はこちらになります」


 ……これは、、


 渡されたデザイン案の用紙を目にした瞬間、ルーカスは少しの張り詰めた雰囲気を纏うと用紙を机の上に放った。


「これ、何?」


 その机に置かれたデザイン案が視界に入ると、リヴァイ達も驚きの表情を浮かべる。

 ルーカスの冷たい表情に気づいた年配の店主は、顔を真っ青にして頭を下げた。


「も、申し訳ございません……! しかし現在はこの案しかなく……ご希望を下さればすぐに描きますのでどうか……!」


 その怯えのような慌てように、ルーカスだけでなく、リヴァイ達も違和感を感じ戸惑った。


 こんな嗜好の悪い図案を堂々と見せてくるわりに、随分と臆病だね。


 ルーカスに見せたアンクレットのデザイン案は、どれも拘束具のように動きを妨げる、頑丈で主張の激しい分厚いリングを基盤とした物だった。それを品のない装飾で飾り立て、誰が見てもやんごとなき者が身に付ける物には到底見えない。


「このお店、奴隷商と繋がりでもあるのかい?」


 そのルーカスの言葉に、店主は先程よりも更に顔色を悪くし椅子から下りると床に頭を擦り付け謝罪をした。


「誠に申し訳ございません……! 私の思い違いで、テオ殿下の御目にこの様なものを……!!」


 その思いもよらぬ言動に、ルーカスは驚いて彼を見据える。


「……どんな思い違いがあればこんな物を用意させるんだい? 第一、初めから存在した図案でしょう?」


「全てお話致します! ですがどうか、店の者達には、どうか、ご慈悲を……!」


「処分は話を聞いてからにする」


 ルーカスがそう言うと、店主はこれまであった事を全て話した。


 数十年前、1人の貴族が鍛治職人を連れてこの店に来店し、アンクレットのデザインを注文をした。
 本来、宝石店などには宝石彫刻師などの職人が雇われている。しかし貴族はお気に入りの職人を連れて来てデザインだけを注文する事も少なくない。

 だがその貴族が連れてきたのは、細かな作業を得意とする宝石彫刻師ではなく、剣を打つことを生業とする鍛治職人だった。


 店主はそれを疑問に思いながらも、貴族の要望を伺う。すると店主の疑問はすぐに解消した。何故ならその貴族が注文したものは、煌びやかなアクセサリーではなく、奴隷を拘束する為の足枷だったからだ。


 店主は直ぐに依頼を受けられないと貴族に言った。自分の店はアクセサリーを扱っていて、何よりもナサニエルでは奴隷の所持や人身売買が禁じられているのだ。
 ナサニエルの建国は先祖のエルフを人間が拐かしたことが原因だ。この様な奴隷の足枷を思い出させるアクセサリーの図案など到底出せるはずもない。


 しかしそれを聞いた貴族は自身の持つ権力と武力を振りかざし、店主を従わせようとした。店主は自分に降り掛かった恐怖に対し、怖じける事無く拒否を続けた。

 だがそれが気に食わない貴族は、今度は店で働く従業員達に手を挙げた。従業員の中には、店主の親族やまだ幼い者も働いている。

 その光景を目にした店主は、貴族に言ってしまった。依頼を受けると。それが厄災の始まりとも知らずに。




 貴族は、それから何度も店に依頼を持ってきた。そして何度目かの以来の際に、別の貴族を連れて来店した。その貴族は更に気性が荒く、店主は機嫌を取る為に無理難題も引き受けた。

 その貴族が他の貴族を紹介し、また他の貴族が紹介される。そんな悪循環が続いたが、数年が経つとその紹介はばったりと止む。
 店主はその事に安堵した。しかしそれも束の間、今度は1人でやってきた初来店の貴族がアンクレットのデザイン案を見せろという。

 店主は一瞬どきりとしたが、店に並べられる普通のアンクレットと同様のデザイン案をその貴族に見せた。
 しかしそれを渡した瞬間、貴族はデザイン案をズタズタに破りさると、店主に向けて怒号を浴びせる。


 どうやらこの貴族が言うアンクレットは足枷の方だったらしい。激昂した貴族は店主の胸ぐらを掴み、殴りかかった。そしてそれを止めようとした従業員もまた、酷い仕打ちに合う。


 それから何度も、こんな事態が続いた。店主は紹介もない客を相手にどちらのアンクレットを望んでいるのかを見極めなければならなくなったのだった。


 その話を聞いて、ルーカスは疑問に思った。


「普通のアンクレットを買いに来る客は他にもいるのでしょう? 何故僕には拘束具の方を持ってきたんだい?」


「それは、その……」


 店主はルーカスの問に口ごもりながら、リヴァイの方へちらりと視線をやった。


「黒髪……なのです」


「ん?」


「初めて来た方も黒髪で、紹介をされた方の殆どが、黒髪だったのです……」







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