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高等部編
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しおりを挟む翌日の夕方、ルーカスは側近達を連れ城下町の中心街を歩いていた。
「ルーカス殿下、何を買いに行かれるのですか?」
「これ程の大金を今日だけで使い切るのは無理だと思いますが……」
アレイルとキャサリンは不安げな声色でルーカスにそう言った。
ルーカスの財嚢には今、大金貨30枚(大金貨1枚は平民の感覚で換算すると約1億円)が入っている。
ルーカスが自室で出かける準備をしていると、セバスが部屋にやってきた。
「ルーカス殿下、陛下から今日中に大金貨80枚を使うようにとのお達しです」
そう言いセバスはルーカスに大金貨80枚の入った袋を差し出した。それを受け取るとルーカスは少しの渋い表情を浮かべる。
「一日でこんなに使えないよ」
「私達一介の貴族であればそうでしょうが……、皇族であるルーカス殿下は常に最高級の品を扱うものです」
セバスは使い切るようにという圧をルーカスに向ける。
「ルーカス殿下は皇族らしくもっと贅沢をなさいませ。毎年1年分の予算の半数近くも残されては経済が回りません」
「その一年分の予算が多すぎるんだよ。大金貨1440枚なんていらないよ。大金貨なんて200枚もあれば、数千年生きるナサニエルの貴族でも一生涯遊んで暮らせる」
「それは平民の暮らしをすればでしょう。経済を回す為にお金を使う事も皇族のお仕事でございます。折角皇帝の子が5人もおられるのですから、経済を回していただなければ」
セバスはそうやって苦言を呈した。それを耳にしながら、ルーカスは困った表情をして袋から大金貨を30枚取り出した。そして残りの50枚が入った袋をセバスに向けて突き出した。
「取り敢えず、これを均等に分けてナサニエルにある孤児院全てに寄付して来て。残りは使いきれなかったらエスポワの神殿に渡して来るよ」
「……畏まりました。今日は寄付という形で構いませんが、今後はどうかお支払いという形でお使い下さい」
「はあ、分かった。今度知人以外の貴族も招待してお茶会でも開くよ」
「是非そうなさってください」
そう言ってセバスはにっこり笑い去っていった。
「ひとまず魔道具屋に行って映像保存の魔道具を買いに行こう」
「映像保存の魔道具……。何か調査を行っているのですか?」
ルーカスの言葉にアレイルは真剣な表情をしてそう尋ねる。
「私達もお手伝い致します」
すると今度は、ルーカスが不思議そうな顔をし言う。
「ん? 調査はしていないよ? 昨年の事件はエド兄さんが調査しているからね」
「……では、なぜ映像保存の魔道具をお買いに?」
「アルフィーに渡してレイアの成長記録を残してもらおうと思ったんだ」
何事もないようにルーカスがそう言うと、アレイルとキャサリンは目を見開き固まった。
「あ、あの様な高価なものを、、成長記録の為に……。い、いえ、レイア様の成長を残せる事は素晴らしいことですが……!」
「((コソッ…ちょっと、なんで止めなかったのよ! リヴは知っていたんでしょう!?」
驚く様子のないリヴァイにキャサリンは詰め寄った。
「高価と言っても7枚程度だ」
「大金貨がな! あーくそっ、お前がムハンマドなこと忘れてた……」
そのやり取りを見ていたルーカスが困った表情をして尋ねる。
「駄目だったかな?」
「い、いえ、ナル様との会話を聞く限り、お金を使わなければならないようですし、殿下がよろしいのであれば口出しは致しません」
「そうです。ただ、私達にとっては日常的に出せる金額ではありませんので少し驚いてしまったのです。申し訳ございません」
アレイルとキャサリンは侯爵家の直系でとても裕福な家の生まれだ。それでも、常識的な彼らが大金貨7枚の商品を、気軽に何度も買える程の余裕がある訳ではない。
多くの貴族が主に使用する品は小金貨でのみで購入出来る品で、大金貨を使用する品は皇室が主催のパーティーで着る衣装や主催者への贈り物くらいだろう。
勿論ムハンマドも公爵家である為、皇族ほどの財力は持っていないが、それでも宰相家の彼らは大金貨を超える品を購入する機会は多々あった。
その為リヴァイの反応がルーカスに近くても頷ける。
「確かに高価なものをいくつか買わなければ使い切れませんし、ルーカス殿下は衣食住への関心が薄いので散財する機会は大切になさるべきですね」
「そうね。ルーカス殿下は高級品に対する欲がないので、今日は頑張って濫費致しましょう」
「……無駄遣いを促されるとは思ってもみなかったよ。まあ、後で宝石店にでも寄ろうかな」
そう言ってルーカス達は魔道具屋に向けて足を進めたのだった。
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