53 / 105
中等部4年編
48
しおりを挟むルーカスは地べたでのたうち回っている男に向けてこれ以上無い程の怒りと殺気を飛ばす。
……このまま殺してしまおうか。
ルーカスは持っている剣を頭上まで持ち上げると、勢いよく振り下ろす。
「っ、ダメよ、ルー!!」
しかしそれはソフィアの制止の声で男の喉元ギリギリでピタリと止まった。
「……そうだね、姉さんの目を汚すところだった。外で殺してくるよ」
怯えたソフィアの姿に、ルーカスは冷徹な声で淡々とそう言うと、抵抗をする力もあまりない男を引きずり教室の外へと運んだ。
「ち、違うわ、ルー! 殺すのがいけないの!」
「ソフィの、言う通りよ。その侵入者達は生け捕りにしなくちゃ、調査が進まないでしょう」
ソフィアとティファニーの言葉が耳に入ると、ルーカスは男を冷ややかな目で見つめた。
「これに、生きている価値があるのかい? どうせ何も知らないよ」
「な、なあ、俺、知ってるぜ、誰の、、指示だったのかをな。顔も名前もはっきり覚えているぞ」
……。
「話しなさい」
ルーカスのその命令に、男はニヤリと口角を上げた。
「ちょっとルー、まさか本当に知ってるの?」
ティファニーが驚いたように尋ねる。それもそのはず、ルーカスは嘘を見抜ける。なのに男の戯言に耳を傾けたのだ。
「なあ、あんたに斬られたところが、痛くて、話しにくいんだ。もうちょっと、近付いてくれよ」
男は先程から痛みを堪えて言葉を紡いでいた。その為確かに男の言葉は聞き取りずらかった。
ルーカスは男の言うように傍に近付くとより聞き取りやすい様に男の顔に近付くようしゃがんだ。
それを見たキャサリンが驚き声を荒らげる。
「っ、お離れ下さい、ルーカス殿下!」
しかしキャサリンの忠告も虚しく、男は傍に寄ったルーカスの腕を掴むと、そのまま引っ張り体制を崩させた。
ルーカスの腕には少しの嫌悪感が走るが、ルーカスは何とかもう片方の腕で手を付き体を支えた。
「何のつもり……!」
「((ボソッ…アルフィー・シリル・ムハンマド。黒髪黒目の白髪混じりの爺さんだったぜ」
「なっ、」
男はルーカスに笑いながらそう告げた。その言葉と、反応のしない嘘を知らせる音の魔法に、ルーカスは目を見開いて驚いた。
すると男は、その隙だらけのルーカスの頭に手を回し、自身の方へと引き寄せた。
ゾワッ……!
ルーカスの全身に嫌悪感が走る。すると男は、ルーカスを引き寄せながら視線を傍らへと逸らしニヤリと笑みを浮かべた。
そうしてルーカスの唇と男の唇が触れそうになる程に近づいた瞬間、ルーカスは体が中に浮く感覚を持つ。
「なんの真似だ?」
するとルーカスの背後から、どす黒い地響きに似た声がする。
「リ、ヴ……?」
ルーカスはその男の声と、腹に回された腕の感覚に、それらの持ち主がリヴァイである事に気が付いた。
どうして、リヴがここに……。
ルーカスがそんな風に呆然としていると、リヴァイの殺気がいっとう濃くなるのを感じる。そして彼の魔力が体内でぐるぐると激しく蠢いていることも。
っ、リヴの魔力が……!
「リヴ、落ち着いて……!」
「……貴方はまた、相手を庇うのか?」
リヴァイの言葉にルーカスは以前彼を嫉妬させようとセドリックに協力してもらった時のことを思い出す。
ルーカスはリヴァイの方へ振り向くと、彼の頭に手を伸ばし優しく撫でる。
「魔力が暴れている。この者を庇っている訳ではない。だから少し落ち着いて」
そしてリヴァイと共に来ていたらしい騎士と魔法士達に向けて言う。
「この者達を拘束して城に連行しなさい」
「しょ、承知しました……!」
数人を残し騎士達が、ルーカス達の足元にいる男と、アレイルとギャレットが生け捕りにした男達を拘束して城へ戻った。
すると少し落ち着いた様子のリヴァイが現状を把握すると指示を出し始める。
「光の魔法を使えるものは怪我人の治療をしろ。他の者達はウィリアム様とリリアン様の元へお迎えに行け」
リヴァイの指示に倒れているフランクとマルセルに魔法士が光の魔法をかけ始めた。2人は腹を切られた様だが傷は浅く命に別状はなかった。
「……殿下、お怪我は?」
その問い掛けにルーカスは首を振る。
「……そうですか。私は学園長の元へ行って参ります。他の者達と共に城へお帰り下さい。陛下がお待ちです」
「分かった。……君が戻ったら、話はしてくれるのかい?」
「今は、貴方と2人になりたくございません……」
「そう。なら、気が向いたら来て」
ルーカスとリヴァイはぎこちない距離のある雰囲気で一言二言話をすると、そのまま互いに移動する。
「姉さん、城へ戻ろう。他の者達も、部屋を用意しているから今日は城で過ごして。家の者達にはこちらで書簡を送っておく」
「……畏まりました」
そして皆は重い足取りのまま、魔法士達の転移の魔法で皇城へと飛んだ。
34
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる