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中等部4年編
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しおりを挟むルーカスは地べたでのたうち回っている男に向けてこれ以上無い程の怒りと殺気を飛ばす。
……このまま殺してしまおうか。
ルーカスは持っている剣を頭上まで持ち上げると、勢いよく振り下ろす。
「っ、ダメよ、ルー!!」
しかしそれはソフィアの制止の声で男の喉元ギリギリでピタリと止まった。
「……そうだね、姉さんの目を汚すところだった。外で殺してくるよ」
怯えたソフィアの姿に、ルーカスは冷徹な声で淡々とそう言うと、抵抗をする力もあまりない男を引きずり教室の外へと運んだ。
「ち、違うわ、ルー! 殺すのがいけないの!」
「ソフィの、言う通りよ。その侵入者達は生け捕りにしなくちゃ、調査が進まないでしょう」
ソフィアとティファニーの言葉が耳に入ると、ルーカスは男を冷ややかな目で見つめた。
「これに、生きている価値があるのかい? どうせ何も知らないよ」
「な、なあ、俺、知ってるぜ、誰の、、指示だったのかをな。顔も名前もはっきり覚えているぞ」
……。
「話しなさい」
ルーカスのその命令に、男はニヤリと口角を上げた。
「ちょっとルー、まさか本当に知ってるの?」
ティファニーが驚いたように尋ねる。それもそのはず、ルーカスは嘘を見抜ける。なのに男の戯言に耳を傾けたのだ。
「なあ、あんたに斬られたところが、痛くて、話しにくいんだ。もうちょっと、近付いてくれよ」
男は先程から痛みを堪えて言葉を紡いでいた。その為確かに男の言葉は聞き取りずらかった。
ルーカスは男の言うように傍に近付くとより聞き取りやすい様に男の顔に近付くようしゃがんだ。
それを見たキャサリンが驚き声を荒らげる。
「っ、お離れ下さい、ルーカス殿下!」
しかしキャサリンの忠告も虚しく、男は傍に寄ったルーカスの腕を掴むと、そのまま引っ張り体制を崩させた。
ルーカスの腕には少しの嫌悪感が走るが、ルーカスは何とかもう片方の腕で手を付き体を支えた。
「何のつもり……!」
「((ボソッ…アルフィー・シリル・ムハンマド。黒髪黒目の白髪混じりの爺さんだったぜ」
「なっ、」
男はルーカスに笑いながらそう告げた。その言葉と、反応のしない嘘を知らせる音の魔法に、ルーカスは目を見開いて驚いた。
すると男は、その隙だらけのルーカスの頭に手を回し、自身の方へと引き寄せた。
ゾワッ……!
ルーカスの全身に嫌悪感が走る。すると男は、ルーカスを引き寄せながら視線を傍らへと逸らしニヤリと笑みを浮かべた。
そうしてルーカスの唇と男の唇が触れそうになる程に近づいた瞬間、ルーカスは体が中に浮く感覚を持つ。
「なんの真似だ?」
するとルーカスの背後から、どす黒い地響きに似た声がする。
「リ、ヴ……?」
ルーカスはその男の声と、腹に回された腕の感覚に、それらの持ち主がリヴァイである事に気が付いた。
どうして、リヴがここに……。
ルーカスがそんな風に呆然としていると、リヴァイの殺気がいっとう濃くなるのを感じる。そして彼の魔力が体内でぐるぐると激しく蠢いていることも。
っ、リヴの魔力が……!
「リヴ、落ち着いて……!」
「……貴方はまた、相手を庇うのか?」
リヴァイの言葉にルーカスは以前彼を嫉妬させようとセドリックに協力してもらった時のことを思い出す。
ルーカスはリヴァイの方へ振り向くと、彼の頭に手を伸ばし優しく撫でる。
「魔力が暴れている。この者を庇っている訳ではない。だから少し落ち着いて」
そしてリヴァイと共に来ていたらしい騎士と魔法士達に向けて言う。
「この者達を拘束して城に連行しなさい」
「しょ、承知しました……!」
数人を残し騎士達が、ルーカス達の足元にいる男と、アレイルとギャレットが生け捕りにした男達を拘束して城へ戻った。
すると少し落ち着いた様子のリヴァイが現状を把握すると指示を出し始める。
「光の魔法を使えるものは怪我人の治療をしろ。他の者達はウィリアム様とリリアン様の元へお迎えに行け」
リヴァイの指示に倒れているフランクとマルセルに魔法士が光の魔法をかけ始めた。2人は腹を切られた様だが傷は浅く命に別状はなかった。
「……殿下、お怪我は?」
その問い掛けにルーカスは首を振る。
「……そうですか。私は学園長の元へ行って参ります。他の者達と共に城へお帰り下さい。陛下がお待ちです」
「分かった。……君が戻ったら、話はしてくれるのかい?」
「今は、貴方と2人になりたくございません……」
「そう。なら、気が向いたら来て」
ルーカスとリヴァイはぎこちない距離のある雰囲気で一言二言話をすると、そのまま互いに移動する。
「姉さん、城へ戻ろう。他の者達も、部屋を用意しているから今日は城で過ごして。家の者達にはこちらで書簡を送っておく」
「……畏まりました」
そして皆は重い足取りのまま、魔法士達の転移の魔法で皇城へと飛んだ。
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