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中等部4年編
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しおりを挟むルーカス達の戦闘が始まる少し前、空き教室へ避難してきたソフィア達は部屋の内側に固まった。
「ソフィ、結界はお願いするけど、貴方は真ん中に居てちょうだい」
「しかし……」
「ソフィア様、ティファの言う様に、真ん中にいてください。皇族の方を守るのは我々側近達の役目です……」
ティファニーの言葉に遠慮するソフィアに、伝えずらそうにしながらキャサリンがそう告げた。
「……分かりました。キャサリン、ルーが貴方を避難させたのは、心配だからで、貴方の力を信じていないからではないのです。それだけは分かってあげてください。今回は、相手が悪いのです」
「ソフィア様……」
「まあ、皇子なのに自分は前に出て側近に避難命令を出すのはどうかと思いますが! それとティファ! 貴方も真ん中にいるのですよ? 次期皇后としての自覚も持ってください!」
ソフィアは眉を寄せてルーカスとティファニーに怒った。
「え、ええ、分かったわ。ちゃんと安全な場所に居るわ」
ティファニーのその返答に、ソフィアは安堵し、真剣な表情で指示を出し始めた。
「クロエとナタリーは私達の傍に、グレース、キャサリン、ヘクター、アーウィンの4人はその周りを四方に散って警戒して下さい」
「畏まりました」
「そしてヨハン。貴方は扉の方向を向いて、4人より1歩前へ出た所へ立ってください。貴方よりも外側へ結界を張りますが、貴方の魔法は一切邪魔しませんので安心して発動してくださいね」
「は、はい……。必ず、、お守り致します……」
ヨハンは少し緊張し、不安そうに返事をした。
「大丈夫ですよ。確実性が有るのがあなたの魔法というだけで、私達も魔法を使えますからね」
ヨハンはこくりと頷く。それを見てソフィアは皆を囲むようにして結界を張った。
「それでは、キャサリン。リヴァイを連れ戻してください」
「っ、、よろしいのですか? ルーカス殿下は……」
「貴方たちは、ルーの命令に背く覚悟を持たなければなりません。命令に背いてでも、あの子を守らねばならないのです」
ソフィアは今までに無いほど厳格な表情でキャサリンに叱責した。
「急ぎの様だから自分の傍を離れても良い。忙しいだろうから、心配をかけたくないから、報告をしなくて良い。そんな命令に従ってどうするのです!」
「っ……」
「主人の命令を何でも聞くのが側近ですか? いいえ、何としてでも主人を守り抜くのが、貴女方側近の役目でしょう! 命令を聞き入れるだけならば、そんなことは使用人にさせておきなさい」
キャサリンは胸に手を当て、ソフィアに向けて深々と頭を下げた。
「キャサリン、貴女方のルーへの崇拝は、あの子の姉としては大変誇らしいものです。しかし皇女としては、貴女方がただ崇拝するだけの民で居てもらっては困るのです。あの子の命令に背いてでも守りぬく覚悟を持ちなさい。今その覚悟を持っているのは、アレイルだけでしょう」
(ソフィア様のお言葉は尤もよ。最悪の場合でさえルーカス殿下が避難することを拒んでも、エイルならば引っ張ってでも逃がさせる。でも私とリヴなら? きっと私達がお傍で守る事を条件に妥協するわ。そう、それじゃ、駄目なのよ)
ソフィアの言葉を聞くと、少しの間キャサリンは押し黙った。そして暫くすると、覚悟を決めたように顔を上げた。
その表情を見たソフィアは柔らかい笑みを浮かべる。
「リヴァイに連絡してくださるのですか?」
「はい、今すぐに」
「では、リヴァイにはお父様へ報告した後にこちらに来るよう伝えて下さい」
「承知致しました」
そうしてキャサリンは直ぐに共鳴の魔法をリヴァイに繋ぐと、状況の報告とアーサーへの報告を頼んだ。
「報告を終えたら直ぐに来るそうです」
「これで一安心ですね」
そう言いソフィア達が安堵したのも束の間。グレースが慌ててソフィアを護るように側へ寄った。
「グレース……?」
「外で、強い魔法が発動されました……」
「……ルー達の魔法じゃないの?」
「分かりません……っ、また……」
グレースが警戒しながら外の気配に集中する。他の皆も身構えながらソフィアを守ろうと外を警戒する。
「っ! 誰かがこちらに……!」
グレースがそう叫んだ瞬間、教室の扉が大きな音を立て勢いよく開かれた。
その扉に立っているのは、先程の少し古びた格好をした侵入者の1人だった。
「へぇ、確かにこりゃ、上玉がゴロゴロしてんじゃねぇか。へへっ、選び放題だ」
男はそう言って不気味な品定めする様な瞳でソフィア達を見て笑みを浮かべた。
その表情を目の当たりにすると、皆が顔を真っ青にさせて怯えた表情で固まってしまう。
「可愛い奴らだな。俺が怖くて声も出ねぇか? ははっ」
「っ、何故、ここが分かったのですか……?」
男が不気味に笑っていると、ヨハンが怯えながらも男に尋ねた。すると男はニタリと笑って答える。
「俺の仲間が教えてくれたんだよ。ここに上玉の気配があるってなぁ。あんたらのお仲間も酷い怪我をおってるか、既に死んでるかもな?」
「っ!!」
その言葉に皆は驚き瞳が泳ぐ。するとヨハンはどうにかこの状況を抜け出そうと男に向けて手をかかげ魔力を動かす。
「おっ、なんだ? お前が俺を倒すってか? ははっ、出来んのかよ? 貴族の坊ちゃんに、人殺しがなぁ!?」
(人、殺し……。そうだ、私が灰の魔法を発動したら、この人は、死ぬ……。けど、灰の魔法では、、それしか、できない……)
ヨハンは顔色を悪くして辛そうな表情をする。それを見て男はさらに嘲るように笑い言う。
「ははは、だよなぁ? 出来ねぇよなぁ? お綺麗なお貴族様には人殺しなんてゲスなことはよぉ? じゃあ、お前からなぶり殺してやるよ。そんで次はそこの男共を殴って犯してやらぁ。そんで最後に女共だ。へへっ、女共は可哀想だから優しくしてやるよぉ」
そう言いながら男はヨハンの方へと近付いてくる。しかしヨハンは人を殺す事に恐怖を抱き、他の皆も男の視姦する様な瞳に体に力が入らず、1歩も動けない。
「んじゃ、殺してやるよぉ……!! あっ?? なんだこれ」
男がヨハンの前まで来ようと歩いてきた。しかし、男はソフィアが張った結界に阻まれこれ以上ヨハンに近付けない。すると男の背後に暗い人影が蠢いた。
「君達が恐れていた、皇族の結界だよ」
「なっ、ぐあぁっっ!!! いてぇ!!!」
男はその声に驚き後ろに振り向こうとするが、その前に斬られてしまい、その場に倒れ込み喚き散らした。
「ル、ー……!!」
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