転生皇子の新生活 高等部編

𝐍 𝐢 𝐚🐾

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中等部4年編

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「ルーカス殿下! 私は残ります!!」


「君には姉さんを守る役目を渡す」


「私は、貴方の側近です……!」


 ルーカスの命令にキャサリンが納得出来ないと反論した。しかしルーカスは冷静な態度で言う。


「そうだよ。だから君には、僕の命令を聞く義務がある」


 そのルーカスの言葉に、キャサリンは悔しそうに拳を握った。


「……私が、女だからですか? 社交界で談笑をするか、子を成すしか能のない、役立たずな女だからですか!!」


「おい、キャシー……」


 キャサリンは酷く悲しく悔しそうな表情でルーカスに訴えた。するとアレイルが辛そうな表情をしてキャサリンを窘める。
 しかしそんな光景に、ルーカスは酷く冷たい雰囲気を纏って言う。


「ああ、その通り、君が女性だから僕は暴漢から君を引き離すための命令をする」


 そう言いながら、ルーカスはキャサリンを壁に押し付け唇同士が触れそうな程に彼女に顔を近付けた。そしてキャサリンの首筋を指でなぞる。


「ちょっと、ルー!?」


「な、にを……」


「君の魔法も、精神的な強さも、僕は認めている。けどね、僕は男で君は女だ。いくら僕に力がなくても、簡単に君を押さえ付けて犯す事が出来る。それが屈強な男だったなら尚のこと、君達のようにか弱い女性は目が合った瞬間に終わりだよ」


「それは……」


「体をまさぐられ、無理矢理犯される。苦しい、痛い、やめてと、どれだけ泣き叫んでも誰も来やしない。何度も何度も、相手が満足するまで終わらず、最後に心臓を一突き、ナイフで刺されて漸く死ねると安堵するんだ」


 そのルーカスの絶望に満ちた瞳に、キャサリンだけでなくこの話を聞いた全員が血の気が引く感覚がして顔を青くする。


「けれど君は強い。助けが来るまで、必ず生きていてくれると信じている。だから君に役目を与えた。僕の姉さんを守りなさい。自分自身を守りなさい。性別とは、目に見えるものだけを区分するだけのものではない」


「…………かしこ、まりました、ルーカス殿下」


 キャサリンはルーカスの言葉に、少しの納得を得て、渋々といった感じで命令に従った。


「……ルー、私は何をしたらいいのかしら。皇女として、何を、するべきなのかしら」


 すると今度はソフィアが不安そうにそう尋ねた。


「皇族の義務は民を守ること。皇女として、避難するこの子達を守り抜くのが、君の役目だ。安心して、君達が案じているような事にはならないから」


「……分かったわ。キャサリン、少しの間だけ、私の指示に従って下さい。それでは皆さん、行きましょう」


 ソフィアがルーカスの言葉を信じ、皆に命令すると、空き教室の方へと向かった。
 しかしルーカスがヨハンのことを呼び止めた。


「ヨハン、君の魔法は強い。万が一暴漢が教室へ入ってきた時は、躊躇せずに灰にしなさい」


 ヨハンの生家シルヴェスターは灰の魔法を得意とする家門。そしてその直系であるヨハンもまた、強力な灰の魔法を持っている。

 しかしヨハンは灰の魔法が嫌いだった。この魔法は発動すると触れた物を簡単に灰にし壊してしまう。その為この魔法を怖がる者が一定数いる。

 セバスが先代皇帝の側近となり、皇族の礼儀作法を指導するようになってからは、シルヴェスター家を恐れ根も葉もない噂が流れる事も少なくなった。それでもやはり、ヨハンの力を恐れ、ヨハンに心もとない言葉を浴びせる者がいたのだ。


「っ! ……はい。必ず、皆さんを守ります」


 だがヨハンは、嫌いな自身の魔法を使ってでも、ソフィア達を守る事をルーカスに約束した。その覚悟を決めたヨハンの表情に、ルーカスはほんの少し安堵する。


「うん。君も怪我はしないで」


 そしてヨハンもソフィア達のあとを追い、空き教室へと入っていった。




「ああ、暴漢が学園に侵入してきたみたいだ」


 気配を殺しながら、まっすぐ此方へ向かってきている。これは何かあるね。


「コロン、もしもまた予言の魔法が発動した時は、些細な事でも報告しなさい。今からは、僕に魔法がかかっても罪には問わない」


「あ、、は、はい……」


「友人と共に壁際で待機しておくように。ギャレットは2人を守りなさい。エイル、フランク、マルセル、君達は僕と共に姉さん達のいる教室を守る。剣はこれを使いなさい」


 そう言い亜空間から2本の剣を取りだしフランクとマルセルに渡す。そして自身の剣も取り出すと帯剣する。


「……畏まりました」


 ルーカスが冷静に命令を下す。その様子にフランク達は戸惑いながらも、真剣に聞き指示に従った。


「……ルーカス殿下、もしも危険だと判断した場合、私は貴方を皇城へ飛ばします。ご命令に背くつもりですが、どうか、ご容赦ください」


「……分かった。君の判断が、正確な事を願っているよ」


「っ……! そこの見極めは、得意ですのでご安心ください」


 アレイルの言葉にルーカスは、アレイルの判断が世間一般的なものと同義であるようにと忠告した。本当にそれは皇族が役目を放棄してまで逃げるべき場合だったのかどうかが、アレイルの判断に委ねられるということだ。

 しかしアレイルはその圧力にも怯むことなく真剣にそう答えた。その為ルーカスはそれ以上何も言わない。

 すると突然、フランクがルーカスに問いかけてきた。


「ルーカス、さっきのスージン様との会話は、お前の前世の内容か?」


「ちょっと、フランク……!!」


 その問いかけにギャレットが窘めるように叫んだ。アレイルとマルセルも直球で尋ねたフランクに驚いている。
 だがルーカス本人だけは、極めて冷静であった。


「……さあ、どうだろうね。よく、覚えていないよ」


 そしてそうやってはぐらかす様に告げた。けれどルーカスの表情は覚悟のある強い表情だった。





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