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中等部4年編
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しおりを挟むオリエンテーションの準備が始まり、放課後には遅い時間まで、各々のクラスで道具作りや演技の練習が進んでいく。
ルーカス達生徒会役員は、先に書類仕事を済ませた後、クラスの準備に参加し、最終下校時間になると、見回りを開始する。そして異常がなければ戸締りをし寮へと戻る。
オリエンテーション直前の集中準備期間までは授業も通常通り行われている。
今日もルーカス達は授業を受け終え生徒会室へと向かう。その道中、廊下でさぎょうをおこなっていたコロンがルーカスを見つけると近づいてきた。
「コロン、準備は進んでいるかい?」
「は、はい! 順調です!!」
ん? どうしたんだろう?
ルーカスが生徒会室に行くにはコロン達のクラスである中等部1年Sクラスの教室前を通るのが近道の為、ここを通ると良くコロンと出会っていた。
そしていつもならば、ルーカスを見つけると嬉しそうに近づいてくるコロンだが、今日はどこか緊張しているようなぎこちない様子だ。
「おーい、ヒューゴ。そろそろ生徒会行くぞー」
ルーカスがコロンの様子に不思議そうにしていると、1年生のSクラスの教室からギャビンの声が聞こえてくる。
「えー、もう行っちゃうのー?」
「もう少し一緒に作業したいわ」
「俺ももっと大好きな皆と一緒に居たいけど、遅れると厳しい先輩方にどやされちゃうんだ。だからまた後でね」
ギャビンは優しい口調で甘ったるいセリフをはいた。すると女子生徒達はギャビンを庇うように可哀想だと言う。
「でしょ? いつもねちねち虐めてくるおっかない先輩が……っ!」
「そんな酷い先輩がいるなんて、どうして早く僕に相談してくれなかったんだい? ギャビン」
「テ、テオ殿下……え、えと、これは言葉の綾というかなんというか……。俺、急いでるんで、これで……!」
「ちょ、待てよ、ギャビン!」
ギャビンはルーカスに気付くと言葉を詰まらせた。そしてルーカスがその話に乗っかると、はぐらかす様に言ってギャビンはその場を後にした。
「申し訳ございません、テオ殿下。生徒会の先輩方の評判を害す様なことを。ギャビンにはきっちりと言って聞かせますので」
ヒューゴはルーカスに向けて頭を下げて謝罪をした。
「構わないよ。僕が彼を揶揄って遊んでいるのは事実だし」
その言葉にヒューゴはなんとも言えない表情をする。
「それに兄さん達の評判もこんな事で落ちる程弱いものではないからね。ギャビンに置いていかれたし、一緒に生徒会室まで行こうか」
「はい」
「ではコロン、またね」
「あ、はい……」
やはり何かあったのかな?
ルーカスはコロンに挨拶をすると、ヒューゴとリヴァイ達を連れ生徒会室へ向かう。
「ねえ、ダズ。彼、教室で何かあったのかい? 元気がないみたいだけど」
「え、ああ、コロンですか? いえ、特には何も。先程までは寧ろ、友達と楽しそうに話していましたし」
「確かにあの子、何時もより元気がなかったですね」
「なんだか緊張した感じでしたね」
「緊張……」
アレイルのその言葉に、ヒューゴは何か心当たりのある様子になる。
「なにか心当たりが?」
「あー、えっと、私が言ったら意味がなくなりますので、詳しくは言えませんが、良ければまたコロンに会いに来てやって下さい。あいつ、凄い意気込んでいたので」
「ん? 分かった。生徒会室に行く前にコロンの所へ寄るよ」
「ありがとうございます」
そんなふうに話していると、ルーカス達は生徒会室へ到着した。するとルーカスの顔を見たギャビンは後ろめたそうな顔をする。
「ギャビン・フォル・ハーレー。何か僕に言うことはないかい?」
「……軽はずみな発言をし、申し訳ございません」
「うん、気を付けて」
「……それだけ、ですか?」
ルーカスが一言そう言うと、ギャビンは拍子抜けした様に聞き返した。
「ん? 君は気を付けなければならない理由を既に理解しているからね。それとも、ねちねちと再確認した方が良かったかい?」
「い、いや、遠慮しときます……」
「そう? では仕事をしようか」
そう言ってルーカス達はそれぞれの仕事に取り掛かっていく。
翌日の放課後、ルーカスはヒューゴに言った通りコロンに会いに教室へ行く。
「コロンはいるかな?」
「テオ殿下……! モル君なら今材料を取りに……」
ルーカスが扉付近に居た女子生徒に尋ねると、彼女はルーカスに話しかけられた事に驚きながら教えてくれた。
「殿下、モルが戻ってきた様です」
「本当だ。ありがとう」
「い、いえ……!」
ルーカスがお礼を言うと、女子生徒は少し頬を赤くして答えた。
「コロン、少しいいかな?」
「あ、皇子様……! は、はい!」
ルーカスはコロンを連れて教室から離れた場所で尋ねる。
「何かあったのかい? ダズが、君が凄く意気込んでいたと。また君に会いに来て欲しいともね」
「え、あっその……そう、なのですが、、勇気が出ず、緊張してしまって……」
「落ち着いて、ゆっくりで構わないよ」
酷く緊張し言葉を詰まらせているコロンにルーカスが言うと、コロンは深呼吸をして少し落ち着く。
「あ、あの! 僕、オリエンテーションで皇子様と、少しで良いので、一緒に、、回りたいのです……。本当に少しで良いので、だめ、でしょうか……?」
「その誘い、喜んで受けよう」
「ほ、本当ですか!?」
「君は可愛い後輩で友人なのだから、誘いに乗るのは当然でしょう? だから、そんなに固くならないで」
「あ、ありがとうございます……!」
ルーカスが快く誘いに承諾すると、コロンは安堵したように嬉しそうに笑いお礼を言った。
「君の店番のない時間に一緒に回ろうか。友人と回る約束があるのならば、良ければその子も誘うといい」
「は、はい!! 凄く嬉しいです!」
「ふふ、では僕は生徒会に行ってくるよ。またね」
「頑張って下さい!」
その後最終下校時間となり、見回りを終了すると、ルーカスは寮の部屋へと戻る。
するとリヴァイが真剣な表情でルーカスの前に立った。
「殿下」
「なに?」
「何故、モルの誘いを受け入れたのですか?」
リヴァイのその真剣な問い掛けに、ルーカスも真剣な表情になる。
「どういう意味かな?」
「……惚けないでください」
「ここが、学園内だからだよ」
「学園内だからこそ、モルの誘いを断るべきだったのではございませんか?」
リヴァイのその言葉に、ルーカスは確信する。
「君の思っている通り、卒業したら、僕は彼と関わる事はしない。それこそ何度か会うパーティーで一言二言言葉を交わす程度だろう。彼は、皇子の友人であるには、素直すぎるから」
「でしたら何故……」
「彼が、それを理解しているからだよ。卒業すれば会話どころか、顔を合わせることすら出来ない。だから馴れ馴れしいと思われても、学園にいる内に積極的に僕に関わりに来た」
「殿下はそれを、」
「嬉しく思ったよ。あんな風に僕を慕ってくれる子は、コロンとリリーくらいだからね」
「……殿下、出過ぎたことを申しました。ですが、私の意見は変わりません」
リヴァイはルーカスを真剣な瞳で見つめる。その瞳が示すのは、第一にルーカスの安全を願う思いが込められている。
「うん。これは、僕のエゴだから」
「……承知しました」
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