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中等部4年編
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しおりを挟むルーカスはソフィアとのダンスを終えると、そのまま彼をダンスに誘いに来た生徒達と踊りに行った。
そしてようやく帰って来ると、ギャビンの元へ向かった。
「ギャビン、今、いいかい?」
「……何ですか?」
ルーカスはヒューゴ達と話していたギャビンを見つけると彼を呼ぶ。突然の呼び出しにギャビンは警戒しながらルーカスについて来た。
「君、僕達への報告はどうしたんだい?」
「そ、それは……」
「罰を受けると言っていたよね?」
ルーカスの言及に、ギャビンは言葉を詰まらせた。するとキャサリンが見透かしたように言う。
「何の進展もなかったのでしょう」
核心を突いたキャサリンの言葉に、ギャビンは顔を顰めた。
「ならばダズとダンスでも踊っておいでよ」
「はあ!? 無理ですよ! 俺女性パート踊れませんし!」
「許可もなく殿下の名を呼んだ分際でその態度は何だ?」
ギャビンの攻撃的な態度に、リヴァイは彼をきつく睨み付けそう発した。
「っ……。それは、俺が悪かったですけど! それとこれとは話が別です。だいたい、俺から誘うのも変じゃないですか……」
そう言って少し落ち込んだ様子のギャビンに、ルーカス達は納得する。
誰だって、大切な人に嫌われるのは怖いよね。
「……ギャビン、おいで」
ルーカスは何か考えた後、ギャビン達を連れてヒューゴ達の元へと戻った。
「お話はもう宜しいのですか?」
ルーカス達に気付いたケイリーがそう尋ねる。
「うん。皆、今日は楽しめたかい?」
「はい」
「とても充実した一日を過ごせました」
「ダンスはどうだい? 親睦を深めることは出来たかな?」
ルーカスは1年生達にそういくつかの質問をしていく。
「色々な方と踊りましたよ」
「他学年の方とも交流することが出来ました」
「友人とはどう?」
「あー、ケイリーやフィオナとは踊っておりませんね」
「そうなんだ。せっかくの機会なのに」
「何だか気恥ずかしくて……」
ルーカスが勿体ないと言うように言うと、ヒューゴが恥ずかしそうに頭を掻きながら笑って言った。
「成程。では君達に友人とさらに仲良くなれる為のアドバイスをしよう」
「アドバイス、ですか?」
「そう。男性パート、女性パート共に踊れる様にするんだ。そして恥ずかしがらずに自らダンスを誘いに行くと良い。そうすれば男女問わず、友人、知人、初対面、どんな相手でも仲良くなる切っ掛けが作れるからね」
ルーカスはそう言うとギャビんの方へ視線だけをやり目を細めた。その視線にギャビンは目を見開いて驚く。
「……確かに、皇子殿下はご友人の何方とも親しいご様子ですものね」
「そうね。私も男性パートを練習しようかな。楽しそうでしょ?」
「そうですね。ではフィオナは私と一緒に練習しませんか? 殿方に下手なダンスはお見せしたくございませんので」
「いいね。じゃあヒューゴとギャビンも2人で練習したら?」
フィオナの提案に、ギャビンは驚きヒューゴは少し考え込んだ。
「……そうだな。ギャビン、一緒に練習して来年は共に踊るか。テオ殿下とノア様よりも目立ってやろうな」
「お、おう」
ルーカスが演技を終了し、リヴァイとの婚約を公表して初めて共に出席するパーティの為、2人は1番の注目を集めている。
僕とリヴを越すと言うのは、どういう意図なんだろうね。ただの鼓舞か、それとも本気で越すきかな?
「僕も兄さんや姉さん達に僕の為に覚えてもらおうかな。パートを交代するのも楽しそうでしょう?」
「確かに!」
フィオナは面白い事が好きなのか、ルーカスの提案に全力で賛同する。
「でもよろしいのですか? そこは先ず、婚約者であられるノア様に覚えて頂くべきでは……?」
「サラの言う通りだけど、色んな人と踊れた方が楽しいでしょう?」
今言っておけば姉さん達もリヴの様に直ぐに習得すると思うからね。その分早く共に踊れる。楽しみだな。
ルーカスはケイリーの懸念にそう伝えると、楽しそうに笑った。その笑顔に、リヴァイは少し面白くなさそうだ。
「あの、テオ殿下、よろしいですか?」
「何?」
するとルーカス達の元へ、1人の女子生徒がやって来てルーカスを呼び出した。ルーカスがフィオナ達と話す時よりも少しだけ冷たい空気を纏って女子生徒に尋ねた。
「……私をもう一度ダンスに誘ってくださいませんか? 最後のダンスを、テオ殿下と踊りたいのです」
その言葉を聞くと、ルーカスは目を細めて彼女に鋭い視線を向けた。
ああ、もうそんな時間か。
「最後のダンスはリヴと踊るんだ。もし来年も踊りたいと思ってくれるのならば、早い時間に来ると良いよ。勿論、リヴと踊った後になるけれど」
ルーカスの冷たく突放す物言いに、空気が一気に凍った。その空気を女子生徒が顔を真っ赤にして溶かすと、彼女は慌てて謝罪をして逃げ出した。
「断られたからとルーカス殿下を睨み付けるなんて、本当に貴族らしいプライドね」
「自業自得だろうにな」
そんな逃げ出した彼女に、キャサリンとアレイルも厳しい物言いをした。
「……意外とはっきり断るんですね。もっと遠回しに断りそうなのに」
ギャビンが意外なものを見たようにそう言うと、ルーカスは酷く冷たい空気を纏ったまま話す。
「ただダンスを誘いに来ただけならば、皇族として礼儀作法に則った遠回しの言葉を告げるよ。けれど彼女は違った」
最後のダンスとは、演奏曲の奏でる音が止まる瞬間までダンスを踊ることを指す。それは最初のダンスと同じくパートナーと共に踊る事が一般的であった。パートナーと始まりパートナーと終わる。この人との関係が長続きするようにと言う、1種のジンクスの様なものだ。
しかし父や兄等の親族がエスコートを引き受ける事もよくある為、最初のダンスはエスコートの相手と踊り、最後のダンスを好きな人と踊る者も多かった。
その為最後のダンスを共に踊れた者と結ばれるというジンクスも広がり、最後のダンスを誰と踊るのかを重要視する者も少なくない。
ルーカスは一層冷たく凍える様な声で続きを口にした。その瞳には呆れと嫌悪、そして虫けらでも見るような鋭い冷たさを持っていた。
「まさか恋人の目の前で最後のダンスを誘うとはね。リヴに勝てると思われるなんて不愉快極まりない。勝てる要素なんてミリも持っていないくせに、随分と滑稽だよね」
「……。殿下」
「あ、……ごめんね。口が悪かったね」
また無意識に……。
「「い、いえ……」」
((怖っ……))
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