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中等部4年編
16
しおりを挟むルーカスが軽やかにステップを踏む度に、彼の純白の翼がゆらゆらと揺れる。
「本当に美しいわよね」
「化け物だなんて誰が言い出したんだ?」
「この世のものとは思えないわ!」
「怖いけど、殿下と並んでも見劣りしないノア様も流石よね」
「もう少し穏やかな顔ならねぇ」
ルーカスとリヴァイのダンスに、見惚れた者達が続々と言葉を紡いだ。
「ふふ、皆君に見惚れているみたいだね」
「私ではなく、貴方の美しいお姿に見惚れているのです。なので、可愛らしいお顔で微笑まないでください」
「ふふふ、仕方ないでしょう? 君と堂々と踊れてとても嬉しいんだ。自然と口角が上がってしまうほどに」
ルーカスの言葉に、リヴァイも嬉しくなり少し口角を上げる。
「それとも全く嬉しさを感じないでむっとしていて欲しいのかい?」
「……どちらも嫌です」
ルーカスが揶揄う様に尋ねると、リヴァイ拗ねて答えた。
「おや、今日のリヴは我儘な子になってしまったのかい?」
「あ……、申し訳ございません」
「くく、いつもとても良い子でいるリヴには、我儘を言う権利を与えよう。先程は聞けなかったから、今から君の我儘を沢山聞かせて」
そう言うとルーカスは口角を下げていつもの無表情に戻る。だが口を開くと、リヴァイに向けてダンスの感想を言い、リヴァイを褒める言葉を何度も紡いだのだった。
ルーカスとリヴァイは踊り終えると、少し端に寄って二人で話し始めた。
「僕はこの後コロンと踊ってくるね。君も僕達が終わったら彼を誘いに行くでしょう?」
「……はい。約束ですので」
リヴァイはあまり気の進まない様子でそう答えた。するとルーカスは少し真剣な表情で言う。
「君もそろそろ、他の者達とも踊った方が良い」
「それは……」
「気乗りしないかい?」
「……はい」
リヴァイも18歳になり通例通りデビュタントを行い社交界に入った。しかし、デビュタントからの1年半、公爵令息として幾度もパーティーに参加はしているものの、エドワードの立太子の際に、ルーカスと踊った以外、1度もダンスを踊ることが無かった。それは家族も例外ではない。
「リヴはダンスが嫌いかい?」
下手なわけでもないし、寧ろ上手な方だから。
「嫌いではありません」
「そう。ではどうして?」
「…………」
リヴァイはルーカスのその問い掛けに黙ってしまった。
それを見てルーカスは答えたくないのだろうと考え話題を変えようとする。しかしそれはリヴァイの予想外の言葉で遮られた。
「……貴方がいいのです」
「……え?」
「私の初めてのダンスは、デビュタントをした、貴方と踊りたかった……」
いつもは耳しか赤くならないリヴァイが、頬や首までを真っ赤に染め上げ酷く恥ずかしそうに顔を覆いながらそう言った。
そんな彼の様子に、ルーカスの心臓はぎゅっと締め付けられ気分が向上する。そしてあまりの嬉しさに無表情になるのを忘れ、妖しく色気のある笑みを浮かべこれでもかと言うほどに口角をあげている。
「ああ、本当に君は、どうしてこんなにも愛らしいんだい? 今すぐにでも食べてしまいたいくらいに愛おしい」
リヴァイはまだ恥ずかしいようで、ルーカスの顔を見れないでいる。
「リヴ、絶対に社交パーティで他の者と踊ってはいけないよ。ああ、告白に舞い上がってエド兄さんの立太子の時に踊ってしまった事が悔やまれる。僕はデビュタントをしていないから、あれはカウントしないでくれるかい?」
酷く機嫌の良いルーカスが、口数多く饒舌にそう言った。
「数えません」
「良かった。僕のデビュタントの時は君がエスコートをしてね。そして1番初めにダンスに誘って。君の初めてを貰うんだ。僕の始めてもあげたくなった」
そう言って心底嬉しそうに話すルーカスにリヴァイも嬉しそうに頷いた。
「まさか君の踊らない理由が僕だったとはね。けれど、それならばオリエンテーションは条件に含まれないよね」
「……はい」
「ならばやはり君も踊っておいで。親しい者達とだけで構わないから。ティファニーとも、踊ってあげなさい」
ルーカスは優しく笑んでそう言った。
ティファニーは、リヴァイがルーカスと踊るまで他の誰とも踊る気がないことに気付いていたのだろう。ティファニーからリヴァイにダンスを誘って欲しいと言うことは1度もなかった。
せっかくの晴れ舞台であるデビュタントの時ですら、母や姉とさえ踊らなかったリヴァイに、もどかしさを感じることもあったはず。
「せっかく共に参加出来るパーティなんだ。待たせてばかりの僕が言うのもどうだろうけど、オリエンテーションで踊らなければ、ティファニーをあと4年近く待たせる事になる」
その頃にはリヴァイもティファニーもお互いに執務を担うことになるだろう。そうなれば同じパーティに参加する機会も少なくなってしまう。
「僕のために初めてを取っておいてくれるのはとても嬉しいよ。けれどリヴが、大切に思う家族と共に楽しそうに踊っている姿を見るのも、僕はとても嬉しいはずだから」
「殿下……」
(オリエンテーションは数に入れない。モルと踊るのだから、姉上と踊ったとしてもなんの問題もない)
リヴァイは少し考える素振りを見せたあと、ルーカスに真剣な表情で言う。
「殿下、モルと踊る前に、姉上とダンスを踊ってまいります。お側を離れることをお許し下さい」
「うん。行っておいで」
リヴァイの願いに、ルーカスは嬉しそうに頷き了承した。
「何かございましたら、駆けつけますのですぐにお呼びください」
そう言うと、リヴァイはルーカスの元を離れて一直線にティファニーの元へ向かう。リヴァイがダンスに誘うと、ティファニーは心の底から嬉しそうに笑顔を浮かべて手を取った。
そして2人は移動し中央付近に行くと、優雅にダンスを踊り始めた。その2人の美しいダンスに、皆が惚れ惚れとしながら見入っている。
ふふふ、2人とも楽しそうだ。そろそろ僕もコロンを誘いに行こうかな。
リヴァイとティファニーのダンスを微笑ましそうに眺めた後、ルーカスは約束通りコロンの元へと向かいダンスを誘いに行ったのだった。
「コロン、僕とダンスを踊ってくれるかい?」
「皇子様! ……本当に来て下さったのですね。とても嬉しいです」
友人といたらしいコロンは、ルーカスに気付くと可愛らしい笑みを浮かべて嬉しそうにそう言った。
「約束したでしょう? リヴもティファニーと踊り終えたら誘いに来ると思うから、先に僕と踊ってくれるかな」
「勿論です! 本当に皇子様とノア様と踊れるなんて夢みたいです!」
「ふふふ、君のようにとても素直に表現してくれる子は新鮮だね」
ルーカスが楽しそうに声を出して笑うと、コロンと友人が少し驚いた表情をする。
「皇子様、何か良い事でもありましたか??」
「そう見えるかい? そうだね。恋人がとても可愛らしいことを言ってくれたから、とても気分が良いんだよ」
「ノア様がですか? とても気になります!!」
ルーカスの嬉しそうな言葉に、コロンは興味津々といった様子で尋ねた。そして友人の方も隠そうとは頑張っているが、興味を拭えていない瞳でルーカスを見た。
するとルーカスは、人差し指を自身の口元に当てると艶めかしい笑みを浮かべて呟いた。
「秘密」
その表情にコロンと友人は頬を少し赤らめて見惚れた。
「((コソッ…コロン! テオ殿下とノア様のお話を聞けたら、絶対に私にも提供をして下さいね! 絶対ですよ! ご本人から聞けるなんて本当に羨ましいですよ!」
「((コソッ…ふふふ、羨ましいでしょ~」
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