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中等部4年編

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 ルーカスは側近達を連れてオリエンテーションの会場へと向かった。
 会場には疎らに人が集まり始め、ルーカスは友人のヨハン、フランク、マルセル、ギャレットを見つけ彼らの元へ向かう。


「おはよう皆。ヘクターとアーウィンはまだかい?」


「ああ、すぐ来るんじゃねぇか?」


「あ、居ましたよ。ヘクター、アーウィン!」


 ルーカスが尋ねると、丁度ギャレットが彼らを見つけたようで手を振り呼び掛けた。


「みんな早いな」


「おはようございます、テオ殿下。ノア様方もおはようございます」


 ヘクターとアーウィンはルーカス達の元へ来るとみんなへ軽く挨拶をする。


「テオ殿下、今日は前髪を上げてるんですね! お綺麗です!」


「ノア様は髪を下ろされているのですね。それにお二人の衣装は色を交換されているんですか?」


 2人はルーカスとリヴァイの姿を見てそれぞれを褒めると、アーウィンは尋ねた。


「よく気付いたね。これはエド兄さんの立太子式の日に着た物だよ」


「ああ、ルーカスとノア様がキスしたって言うパーティーか?」


「御二方はラブラブですね」


 フランクとギャレットが揶揄う様に笑って言うと、そこにキャサリンが付け足した。


「髪もお互いに整え合っているのだから本当にラブラブよねぇ?」


「キャシー……」


「あまり揶揄わないで?」


 2人が困った様子になると、皆は楽しそうに笑った。


「てか、その髪ノア様が結ってんのか? 器用ですね」


「にしても、長ぇ髪だよな。切んねえの?」


 フランクのその問い掛けに、ルーカスは少し寂しげな表情になる。


「……母様に褒めてもらった髪だから」


「あ……わりぃ」


「それに、お金に困った時に売れるでしょう?」


 そうやって表情をすぐ様明るく変えたルーカスに、皆も暗くならないようにいつも通りを努めた。


「ナサニエルの皇子がか?」


「何があるか分からないでしょう?」


「万が一にも、我々がお側にいる限り、ルーカス殿下の御髪を手放す状況になど陥らせることはございません」


「おや、それは頼もしいね」


 側近達が酷く真剣な表情でルーカスにそう宣言すると、ルーカスは側近達の方を振り向いて少し笑ってそう言った。

 するとルーカスが振り向いた反動で、彼の長い髪がヘクターの視界にさらりと映り込む。


「あれ? テオ殿下、髪に何か着いてますよ?」


「ん、どこかな?」


「この辺りです。……あれ、赤い何かが見えたと思ったんですが。ああ、首の方に行ったみたいです。取りますね」


「そうかい? ありがとう」


 そう言ってヘクターがルーカスの首に手を伸ばす。そして付いている物を取ろうと彼の長い髪を持ち上げ掻き分けた。
 しかしその付いている赤い何かに触れる直前、ヘクターはぴたりと固まってしまう。


「ヘクター? どうしたんだい?」


 ルーカスが不思議に思い振り返り声を掛けると、他の皆も不思議そうに彼の方へと視線を向けた。するとそこには、顔を真っ赤にして驚きのあまり口をパクパクさせた状態のヘクターが居る。


(これってもしかして……!!)


「どうし……っ!?」


 ルーカスがもう一度声をかけようとした時、突然リヴァイに引き寄せられ、彼の腕の中に仕舞い込まれた。
 そして当のリヴァイはルーカスの首元を隠す様に髪を整え、そして驚きながらもヘクターの方を睨んでいる。


 その3人の様子に、アレイル、キャサリン、ヨハン、マルセルの4人は大方の見当を付けた様だ。


「お前まさかっ! 通りでルーカス殿下が頑なに髪を下ろされてんだな?」


「あれだけ今日は、全て結い上げてかっこいいって言ってもらうんだと仰ってたのに……」


 アレイルとキャサリンがそう言いながらリヴァイをジトりと睨むと、混乱していたルーカスもヘクターが何を見て顔を赤くしているのかを理解した。


 すると次第にルーカスの頬も少し染まる。そしてリヴァイの事を見上げると、恥ずかしい様な怒っているような、そんな表情で見つめ腕の中から出ていった。


「リヴの馬鹿! やはり隠しても見られてしまった!」


 そう言うとルーカスは皆のいる所から離れていこうとする。


「どちらに!?」


「ウィル兄さんのとこ!」


 慌ててリヴァイが尋ねると、ルーカスは先程よりも顔を赤くして答えた。


「おひとりでは……!」


「そうですルーカス殿下……!」


「誰も付いてこないで!!」


 ルーカスが強く言い放つと、皆は諦めウィリアムの所に着くまでその場でルーカスを見守ったのだった。




「あー、テオも駄々こねる事があるんですね……」


 この気まずい雰囲気をどうにかしようと、マルセルがそう口を開いた。


「大抵はリヴ関連ね」


「そうだな」


「……それで? ウィリアム殿下の所に行かれたけど良いの? 貴方怒られるわよ?」


 リヴァイは後ろめたそうにした後、それでも口を開いた。


「跡を付けた時点で覚悟している」


「あら、今日はちゃんと喋ってくれるのね? では聞くけど、昨日の剣術の授業の時は何も付いてなかったけど?」


「それは、今朝付けたからだ……」


「貴方、ルーカス殿下が今日の髪型を決めてたことも知ってたはずよね?」


 そう言って怒りの含まれた怖い笑みを浮かべるキャサリンによって、いつも通りリヴァイへの説教が始まったのだった。




 そんなふたりを他所に、アレイルは未だ放心状態のヘクターに向かって声を掛けた。


「ネイト様、大丈夫ですか?」


「ハッ! は、はい。大丈夫です」


「驚かれたでしょう? リヴの嫉妬に巻き込んでしまいすみません」


 そう言って申し訳なさそうに謝るアレイルにヘクターは慌てた。


「い、いえ! 寧ろ今の件で俺のテオ殿下への気持ちが、恋情ではなくただの憧れであることを確信出来て安心しました!」


「安心ですか?」


「あんな鋭い眼光を向けられても尚、ノア様をライバル視する事は出来ないと思いますので……。虚しい恋をせずに済んだと」


 そう言って苦笑いするヘクターにアレイルも苦笑いをする。


「それにしても、テオ殿下は凄いですね。あんなにくっきりと噛み跡が残る程噛まれたら、俺なら喚き散らしてると思うので。……ケイ様?」


「……噛み跡、ですか? 鬱血痕でなく?」


「はい。鬱血痕もありましたが、見えませんでしたか? てっきりそれを見てケイ様とスージン様も気付いたのだと……」


「すみません、少しリヴの所へ行ってまいりますね?」


「え、あ、、はい……!」


((ケイ様もスージン様も怒ると怖いんだな……))


 アレイルはヘクターの話を聞き、リヴァイに対する怒りを表情に表しながらも、努めて笑顔を絶やさない。その表情に、ヘクターやフランク達は高位貴族は怒る時も上品なのだなと思ったのだった。




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