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第9章 荒ぶる神々の荒野
75: 亜馬森 神事ガルッカ戦 (1)
しおりを挟むスカイプで見る悦豊の顔は、やつれきっていた。
ゑ梨花は、悦豊をこの件に巻き込んだことについて、改めて後悔していた。
悦豊からの報告は終盤に差し掛かっている。
「寂寥ファミリーは、自分たちの戦闘要員を、この亜馬森で調達してる。まあ亜馬森の人間達は、周囲から戦闘部族と呼ばれているし、何より彼らは、お隣の苗族の蠱毒術師達との関わりが深くてな。貧血を起こしそうな話だが、蠱毒術を昔から自分たちの医療代わりに使ってる。つまり女魃蛭との相性が昔からあるって事だ。」
『ホラー映画を観て貧血を起こしそうな、』と悦豊は表現したつもりだろうが、今にも貧血を起こしそうな顔色なのは、彼自身だった。
「この話は、俺の世話を見てくれてる女の兄貴の話だ。ちなみに奴の名前は李智深。一応、寂寥ファミリーへの誘いを断る程度の判断力はあるようだが、はっきり言って、こいつも逝かれてる。こいつが俺に危害を加えないのは、妹が俺にぞっこんだから、それだけの理由だ。」
資料の中には、李智深の顔写真もある。
首から胸元に見える服は囚人服だった。
彼は脱獄犯でもあるらしい。
「添付したのは、つまらなくてグロいだけの話だが、少なくとも、この国のある一部の男達が持っているメンタリティだけは、よく理解出来る話だ。寂寥ファミリーなんてのは、多分、この闇を思い切り吸い込んで、巨大化したものなんじゃないかと俺は思ってる。」
寥虎、寂竜、二人の顔写真もあったが、こちらの方は随分古い写真だ。
双子のどちらも両目がまだある。
彼らが完全な化け物になってしまった頃からの写真は、一切出回っていないと言う。
「そうそう、話を読めば判るが、ここに登場する黄金髑髏なんてお笑いだよ。骨と皮になるまで痩せこけた丸禿の黄疸患者だよ、ただしコイツは、蠱毒術で生き延びてる。悪魔的に強くな、、こいつの身体の中に、どんな虫が住んでいるかは想像も付かないが、その虫のやっていることは、女魃蛭のそれに似たようなもんなんだろう。黄金髑髏と李智深との関係は判らないが、おそらく相当な腐れ縁だろうな。そんなのは想像するだけでおぞましいが、、。、、じゃあな、今日はここまでだ。あんたが日本で何をやっているか知らないが、どうせヤバイことに噛んでんだろう。気をつけろよ。」
ゑ梨花は、「貴方こそ」と言って通信を切った。
そう言えば、今、6係が闘っている美馬は、若い頃この海馬美園国を彷徨い、その人生観を大きく変えたと聞いている。
ゑ梨花は、その事を頭の片隅に留めながら、これを読もうと悦豊の添付して来た文書を開いた。
亜馬森の収穫祭で一番盛況な神事は、公式ガルッカ(現代に於けるラクロス球技とガルッカボールに酷似)だ。
今年も、司祭歴1~3年の者達が、それぞれの地域でチームを組み、神事としての大ガルッカ戦が始まる。
このガルッカには、神事だけではなく裏の顔と言うべき表情があって、実を言うと村の大人達はその顔に興奮し入れ込んでいる。
この神事は、普段、賭博の対象になっている戦闘行為に重きを置いた草ガルッカの公式版だから無理もない。
ちなみに勘違いされやすいが、公式ガルッカよりも草ガルッカの方が遙かに歴史が長い。
そんな過去を知っている部族の老人達も、今では公式ガルッカの方を有り難がっている。
神事見物で外部からの人の流入がある為、裏で行われる賭の額が信じられない程、大きくなるからだ。
それに神事には、寂寥ファミリーが戦士のスカウトも兼ねて首都から見学にやって来る。
私・黄金髑髏は、この試合で、別の祭礼域にいる燕青という少年に恥ずかしい思いをさせてやると心に決めていた。
他の競技者達は、寂寥ファミリーの目が気になるようだが、私は既に身体に虫を飼っているから、いくら実力があってもスカウトされる見込みはない。
だから私の目的は、燕青ただ一人だ。
理由などない。
敢えて言えば、私が醜く黄色い髑髏の頭部を持ち、燕青が女性さえも羨むような美貌を持っているからだ。
燕青は背が低く、顔は女顔、色白、しかし意外にもスポーツ万能である。
性格は温厚なのだが、案外しっかりしている部分もある。
しかも誰にでも優しい。
健康で蠱毒術師のお世話にもなっていない。
つまり私のような容貌・性格の人間にとっては、奴とは光と影との関係であり、同時に奴は私の加虐心を埋める格好の餌食なのである。
これが教会の行事だという事も、私には影響がない。
第一、この国の土着の神と西洋の神を混合したものに、どんな御利益があるというのだ。
このガルッカにしても、その昔は、村同士の戦いで負けた方の戦士の首を撥ね、それをボール代わりにして戦勝の祭りの一部として遊んだものが、今に伝わったに過ぎない。
あの小奇麗な教会に祀ってある痩せっぽちな神とやらには、何の関係もないのだ。
つまり我々の国の神は、既に他国の神に犯され、陵辱されてしまった存在なのだ。
ガルッカはチーム制の試合だが、私はどうしても彼と直接当たりたかった。
だから、私は余計な人間達を先に、アリーナから排除していく事にした。
普段、流血がつきものの草ガルッカで戦いをしている私にとって、軽い装飾的なプロテクターを付けて通用する神事ガルッカはママゴトに等しい。
しかも自分の病を治める為に、私は常々、虫の力を借りているのだ。
普段の十分の一程度の力で、敵チームの人間達を蹴散らす事が出来る。
思い通り、最後には「可愛い顔した平和ボケの燕青対黄金髑髏」の対決という理想的な形に持ち込めた。
燕青が私の放つボールを、バトンで受け止めリレーを続ける事に失敗すれば、それで勝敗は決まる。
そして燕青は、この試合以降、人生が変わる事になる。
燕青も、神事ガルッカのプレイヤーにしてはかなり強い。
動きがしなやかで素早いのだ。
だが燕青は今、私・黄金髑髏と対の勝負をする羽目になった。
私は全く疲れていない。
対して、燕青は線が細く素早いが、体力がない。
その燕青が息を切らせながら、色っぽい顔で私に「黄金髑髏様、さすがにスゴいですね。けれど僕は絶対に貴方には負けませんからね」と言い切った。
私は次のパロサントバトンの一撃に、私のドス黒い思いの全てを込める事にした。
バトンの先についた網(ポケット)の中で、ヨロイモグラゴキブリの屍骸で出来たボールを揺すり、遠心力を利用して保持しながら、投擲するタイミングを計る。
秘訣はヨロイモグラゴキブリの表面にある細かなギザギザを上手く回転に変えることだ。
ギャラリーの注目度は、今が最も高い。
黄金に輝く醜い髑髏の顔を持った私と、聖衣でもある薄いなめし革で出来たノースリーブをなまめかしく着た、汗まみれの女顔の燕青の対決は、嫌でも注目の的だ。
私は、「なぁ、汗だくだな、お前・・」と奴に声をかけてやった。
燕青は「え・・う・うん・・」と歯切れの悪い答えをし、私は「暑いんだろうな?なぁ?」と相手を思いやるように言った。
汗まみれの燕青は「え・・?」と戸惑う。
私のこんな反応は予想していなかったのだろう。
私は続けた。
「私には自信があるんだ。今からお前はぶっ飛ぶぞ。それもハダカの姿で。」
燕青は「えっ・・え・なに・・はだかって?」と慌ててる。
亜馬森では、公衆の面前で、多くの皮膚を晒すことは、男の最大の恥辱とされている。
特に心臓がある胸部を衆目に晒すことは、こういった神事競技において、最大の恥とされていた。
しかも、これは年に一度の神事大ガルッカ戦なのだ。
そして私・黄金髑髏は、それをやってのけようとしていた。
今までの最高の一撃を・・燕青の人生を変えるにふさわしい一撃を。
全力の一撃を燕青に向けて放った。
分厚いプロテクターをしていても、ただではすまない私の一撃だ。
群衆が見ている中、全てが完璧にうまくいった。
パロサントバトンから放たれたヨロイモグラゴキブリボールは、それを受けようとした燕青のバトンをかいくぐり、カワイイ顔した燕青の胸に炸裂した。
何かが、つぶれる様な音が聞こえた。
手ごたえは十分だ。
ギャラリーは息を飲んでいる。
被弾した燕青の様子を見て、口を覆っている奴らや、ぽかーんとしている奴らが大勢いた。
燕青は、ヨロイモグラゴキブリボールに押し込まれるようにして、後ろの壁に叩き付けられていた。
まだ意識は失っていないようだ。
聖衣の薄い革布が、燕青の身体の上にひらひらと落ちている。
予想通り、革のノースリーブは完全に破れて燕青は裸になっている。
ヨロイモグラゴキブリの表皮は、鑢のようにざらざらしていて、ソレが高速回転してノースリーブに接触したのだから当たり前だ。
私の投げたヨロイモグラゴキブリボールは、燕青の胸の中心に両乳首を巻き込む形で楕円形の凹みを残していた。
遠目でも燕青の胸が凹んでいるのが分かる。
ハダカにされた上、胸に大きな擦過傷を負った燕青は、大きな目を開けて私を見ている。
それは色っぽい顔だった。
だがすぐに痙攣が始まり、「あっ、あっあっあっあっあっあっ」と燕青は痙攣に合わせて悲鳴を上げ、ばたりと倒れた。
全ての人間達の視線が、燕青の胸の傷に張り付いていた。
今年の司祭となる者の一人が、裸を見せた上に、神聖なる胸に傷を受けたのだ。
その間、燕青は、大の字になり革のノースリーブの破れ残りを、生暖かい風にひらひらとさせて気絶していた。
燕青は全ての目に視姦され、しばらく放置されていたが、やがて救護の為の竹で編んだストレッチャーがやって来て、注意深く燕青の身体をそれに乗せて運び去った。
燕青の仲間達の司祭どもは、彼のヒラヒラのノースリーブの破れ残りでキズを隠してやりながら、気絶している燕青を押収していくのだった。
私・黄金髑髏が、みんなの前で裸に剥いてやった燕青は、今や私の言いなりの存在だった。
神事ガルッカで最終対決をする事になる二名の内の敗者は、勝者の言う事を聞かなければならないのが習いだ。
そして燕青は私の一撃を受けて惨めに敗北した、おそらくそれは燕青にとって初めての体験だったのだろう。
しかも、只の敗北ではない。
普通はチームの者を数人残した上で試合の勝敗が付くのに、燕青はチーム仲間を全て失っている。
更にパロサントバトンから放たれたヨロイモグラゴキブリボールを受け、胸にそのヨロイモグラゴキブリが滞留し、着ていた聖衣である革のノースリーブを撒き散らしてハダカに剥かれぶっ飛んでいったのだ。
私は、勝利者の当然の権利として、目が覚め放心状態だった燕青を、仲間に見せびらかし、そのまま輪姦する事が出来た。
燕青の胸にくっきり残る刻印は、あまりに急激に傷ついたため、痣もなく、かなり綺麗なまま残っていた。
その刻印は、私のトロフィーだ。
私にとって信仰など何の意味もない。
私の趣味である裸体のスケッチと、筆による燕青への乳首攻めは、2・3時間で終わり、私は亜馬森の女神にも似た燕青の姿を、自分の草ガルッカチームの後輩達に見せてやるつもりになっていた。
練習場では4人の後輩達が練習していた。
分厚いプロテクターは、彼らを無骨だが完璧な戦士に見せている。
私は、このチームでの自分の後継者として考えている戦士を一人残らせ、残りを帰らせた。
私が「それにしてもゴツいな。その鎧、見てるだけで暑苦しい」と言うと、後輩は「でもコレがないと、とっくにくたばってますぜ。皆が皆、兄貴みたいに凄い訳じゃない。」と袖がないプロテクターから見える花の入れ墨が入った太い腕を折り曲げて、自分の胸板を親指で指した。
この男は、鎧など必要がないくらいの分厚い筋肉に覆われた大男だったが、そのような人間が鎧を必要とするのは、草ガルッカがヨロイモグラゴキブリボールを、競技球としてよりも、武器として扱うせいだった。
ボールのラリーより、デッドボールとしての効果に主眼を置くのだ。
私は「だから、それを着ないとどうなるか、見てみるか?って言ってんだよ」と言い、神事ガルッカ戦の記録を貴重なビデオを通じて後輩に見せてやった。
それは私・黄金髑髏のショットを受ける燕青の姿だ。
プロテクターどころか、ひらひらのノースリーブで私と勝負する女の様な燕青。
当然勝負になどならずに、私の本気のショットにノースリーブを派手に撒き散らし、乳首とへそをさらけ出して後ろに吹っ飛ぶ燕青。
後輩は興奮しはじめた。
「うへへ、コレ、いいなぁ」
私が後輩に「お前のショットも、こいつに受けさせてやれよ・・」と言ってやると、彼は一瞬驚いたような顔をした。
だが直ぐに、ニタァと笑い、「こいつにやれるんですよね・・・いいな」と小さな画面の中で倒れているセミヌードの燕青を指差した。
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