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第6章 第6特殊犯捜査・第6係の本気
45: ゲームは始まっている
しおりを挟む指尻ゑ梨花は、自分に対する「これ以上、危険な目に合わせられない」という6係の気持ちを充分に理解できていた。
しかしゑ梨花には、警察の委託コンサルタント業とは離れた部分で、真栄田陸への思いと、戸橋巡査に女装誘惑の手管を教え込んだという責任があった。
「要は、警察の動きの範囲外で、自己責任でって事ね。」
しかしそう考えてみると、自分には美馬やパペッターを調べる手段がまったくないことが判った。
美馬周辺についての情報収集なら、何人かのVIPな患者達の伝手を辿れば不可能ではないと思えたが、その為に自分の職業を利用するワケにはいかなかった。
パペッターに至っては、6係でさえ、その正体を突き止められないのだ。
しかしどんなに不可能と思える事でも、人が構築する世界である限り、そこに近づく為の何らかの手だてがある事を、ゑ梨花は知っていた。
「、、手がかりは女魃蛭だわ。虫に詳しい男がいる。しかもそいつは今、東南アジアを放浪してる筈。」
ゑ梨花は個人用の会計ソフトを立ち上げた。
指尻は自営業だから金の管理はきちんとしている。
個人的な支出も業務上の支出と混じらない様にと、振込先など細かなデータを残してる。
たしか、その男に金の無心をされ、施してやるつもりで一度だけ金を送金してやっている。
聞けば、この男の共通の友人達も全員、彼から金の無心を受けている。
相当な金欠、という事もあるが、基本的に金遣いが荒くだらしないのだ。
しかも珍しい「虫」を、手に入れるためなら幾らでも金を注ぎ込む。
この男の事だから、昔の連絡先など、もう役には立たないだろうが、口座が生き残っている可能性はある。
そして指尻自体の連絡先は、この男との最後のコンタクト以降、変化はない。
電話代わりに幾ばくかの金を、その口座に振り込んでやれば、直ぐに向こうから、折り返しの連絡があるのではないか、と指尻ゑ梨花は思った。
勿論、その内容は、さらなる金の無心だろうが。
そして、その国際電話は思惑通り、直ぐにコレクトコールでかかってきた。
男はまだ生きていて、そしてまだ相変わらず金欠だった。
「久しぶりね、悦豊君。どう、元気にしてた?」
「どういうつもりで、金を振り込んだんだ?」
「挨拶抜きってわけ?」
「この電話の支払いは、あんただ、これでも一応遠慮してる。」
「ふーん、そうなんだ。だったら言おうか?やっぱり振り込んだお金返してくれる?それと確か前のも返して貰ってないわよね。」
「冗談、言うな、、。俺は、、、。」
「判ってるよ、、もっと貸して欲しいんでしょ。何故だか知らないけど昔の友人が、又、金を恵んでくれた。もしかしたら、もっとって思って、ダメもとで電話して来たんでしょ。」
「、、、そうだ。何か目的があって、そうしたんなら直ぐに言ってくれ。こんな俺でも恵んで貰うより、何かの対価で金を手に入れる方が気持ちが良い。」
「話が早いわね。悦豊君、君、まだあの虫を追ってるの?」
「ああ。」
「だったらそのついでに、ある虫の事を調べて欲しいの。」
「虫を調べる?」
「そう、お手の物でしょ。虫の名は女魃蛭、チスイヒルの変種だろうって言う人もいるわ。それとそこから海馬美園国には行ける?」
「行けるも何も、今、俺はそこにいる。ここは食い詰めた旅行者が最後に流れ着く国だ。」
「凄い偶然ってか、やっぱり神様は、私に最後までやれって言ってるのね、、」
「あんたが、神様の名前を出すのは珍しいな。まあ、それはどうでもいいや。その女魃蛭って虫の事を調べたら、幾ら出してくれる?」
「値段は私が決める。価値のある情報だっら、それなりの金額を振り込んであげるわ。」
指尻はついでに、寂寥ファミリーや蓮華座の事も悦豊に調べさせようかと思ったが、ここはテストケースで様子を見ようと思った。
それに寂寥ファミリーは、そうとう危険な組織のように思えたし、自分が原因で、又、誰かを危険な目に合わせたくはなかったのだ。
そしてどの道、そちらは、餅は餅屋の言葉通り、6係が調べ上げるだろう。
「、、判った。何か分かったら、電話するよ。」
放浪の昆虫学者、悦豊武は、そう言ってあっさり電話を切った。
昔から、そういう男だった。
別に金に対して異様な執着があるわけではないのだ。
イヤむしろなさ過ぎるから、こういう金欠状態になるのだと指尻は思った。
指尻は、今さっき置いたばかりの受話器を見ながら、スマホでメールを香山微笑花に送る。
事のついでに、香山微笑花とも話をしておこうと思ったのだ。
香山微笑花には、自宅の電話番号を教えてあるから、仕事がなければ折り返しの電話が入る筈だった。
「6係の様子は、どう?」
「なんだか最近、丑寅さんが元気なくて、、僕はやっぱりプロファイルは向いてない、地道に脚で稼ぐ刑事の原点に戻る、、とか。」
「、、悪い事じゃない、、って、元から刑事さんなんだから。それとも丑虎さんて、脚で稼ぐ刑事だと、ヘボなの?」
「全然、、並の刑事より、ずっと上行ってると思いますよ。ただ、、。」
「ただ?何?」
「きつい言い方だけど6係には、その程度のレベルの刑事はいらないって事です。丑虎さんは、プロファイルが出来るから、丑虎さんなのであって」
「、、、そう、じゃ、次から話すことを、指尻から相談を受けたって言って、丑虎さんに伝えてくれない?」
「ええ、いいですけど、、指尻さんから直接じゃ駄目なんですか?」
「今までは依頼があったから、そちらに出向けたけど、今はお呼びがない限り、顔は出せないわ。いい?話はパペッターの事なの。」
「ええ。」
「私、パペッターって複数じゃなくて、やっぱり一人じゃないかって気がするのね。確かに、その考えが現実的ではないと言うのも、わかるんだけど。」
「そこを伝えて、丑虎さんのプロファイラー魂を再燃させるっていう方法なんですね?」
「ええ、まあ。革香を仕立て上げたヨンパリは、凄く腕が良い整形外科医で、他にも色々な施術技能を持ってる。それにブルーとかいうフィギュア制作者は、同時に相当優秀なメイクアップアーティストみたいだよね。いえ、何も彼らが、パペッターに関わってるとは言ってないの。ただ、そういったスタッフを揃えられる組織なら、一人の人間を別の人間に変えられるんじゃないかと思うのよ。後は演技力の問題だけど、パペッターの場合は、演技ってレベルじゃなく、自己催眠で別人になるなんて、お手の物なんじゃないのかな。私はこういう言葉は好きじゃないんだけど、パペッターのそれは、解離性同一性障害の変形に近い感じもするわ。」
受話器の向こうで、香山微笑花が深く思考しているのが判った。
6係の刑事達は、こうやって伝言一つを頼んだだけでも、それを自分事の様に、深く捉え直す思考方法が身についている。
「それとか、別の可能性として、誰かを完全に人格支配して、その人物にパペッターが、自分の人格パターンを刷り込んで動かしたら、他から見れば、その人物はパペッターと同じって事になるんじゃないかしら。」
ゑ梨花は、真栄田陸が飛び降り自殺する数日前に、自分が寝た中年男の事を思い出しながら、そう付け加えた。
陸と離れてから精神が不安定になり、夜の街に出た。
あの夜は、何故か自分をこっぴどく貶めたくなって、好きでもない男と寝て、自分が何処まで女を演じ切れて相手を騙せるか?そんな事に快感を覚えていたが、、、。
実は、あの時、騙されていたのは、あの男ではなく、私の方だったかも知れない。
そんな思いが急速に膨れあがっていた。
良く聞いてくれたまえ。
これから話すのは、私がこの醜い姿で、出会い系で出会ったある少女をむさぼり食った時の話だ。
きっと、これからの「君」に、役立つ話だと思うよ。
パペッターは、我々、チェルノボグ・サーカスの重要な要だからね、新人の君には、しっかり学んで欲しいんだよ。
某日曜日、この姿で夕方からカード式の出会い系を初めたんだが、相手との話が合わず、残り10分をきった時に、ようやくヒトミという声がカワイイ子につながったんだ。
ヒトミによると、どうやらスマホ代が払えず、やむなく援交するようだ、年は20、両親は温泉旅行で今夜は帰ってこないらしい。
値段が1.5と、お手ごろなこともあって話をまとめて、どうせ又、冷やかしだろと思いながら、あまり期待せずに待ち合わせの駅に地下鉄で向かったんだ。
1.5?金など腐るほどあるが、金銭感覚は腐っては、いないつもりだ。
それが悪人の最低条件だと思っているからね。
相手の目印はピンクの腕時計のみ、こちらはジーンズに黒のTシャツ。
こういう服装は、小太りだから返って、自分の見た目を悪くする。
これで汗臭ければ万全だがね、残念ながらいくら匠たちが制作したスキンスーツでも発汗の機能はない。
勿論、これは全部意識してワザとやっている事だよ。
私が演じるのは、そういう人物なんだ。
現地に着き、タバコを吸っていると、前方から「どう見てもこの子は多分違うだろ」と思われる超カワイイ子が、ゆっくりこちらに向かって来た。
ハイハイ、どうせ通り過ぎるんでしょと、ボーと彼女を見ていると、彼女はゆっくり立ち止まり、こちらをみているじゃないか。
ヒトミさん?と聞くと彼女はコクリとうなずいた。
私は喜びを隠し、心の中でガッツポーズをした。
これで私が、今回試みようとしていたゲームにピッタリの、醜い中年男と可愛らしい若い娘という絶好の組み合わせが成立する。
それに彼女は、私のライバルである指尻ゑ梨花にそっくりだった。
しかも指尻ゑ梨花を、小柄にして清楚にし、更に若くしたような感じなのだ。
彼女のような溢れそうな色気はないが、その代わりこちらの嗜虐趣味を、存分にかき立ててくれそうだった。
しかし、喜んでばかりはいられない。
組織から供給される変装用のスキンスーツは驚くほど良くできているが、映画に登場するような万能のものじゃないから、相手にこちらのパーソナルスペースに踏み込まれると、変装はいずれ時間の問題で間違いなくばれる。
そうなる前に、相手のこちらに対する認識度合いを「墜とし」てしまうんだ。
そんな時、相手が強敵だったり、自分が未熟だったりする時は、補助的に薬を使ってもいい。
薬の使い方は、その内に教えてやるよ。
そして、それらが出来そうにない時は、「それから先」を一切諦めて、撤退する事だな。
この見極めも重要だね。
私は彼女をタクシーに乗せると速攻、ホテルに向かった。
ここでちょっとしたヒントだ。
相手に暗示をかけるには、どんな場所がいいと思う?
そう、タクシーの中で太股を付けた状態で、緊張はしているが表面は何気ない会話ができる空間。
エレベーターのような濃厚な空気感の密室、、ただし、一度でやろうなんて思わないことだ。
段階を踏むことだね。
そうすると相手は、自分の意識を操作され初めている事に気付かない。
気付かないという事が、一番大切なんだよ。
ホテルについた時、彼女はというと、ほとんど喋る事もなくベットに座り下向きで全く元気のない様子だった。
まず私は「チョット匂い嗅がせて」みたいな事をいいながら、彼女をベットに押し倒し、首筋の匂いを嗅いだ後、次に髪の毛をスーハーと嗅いだんだ。
当然、彼女は私を軽蔑の眼差しで見て来た。
私は、おかまいなしに、自分の鼻を彼女の頭皮に擦り付けるようにして髪の匂いをかぎまくってやった。
だが、その時に「アーーアーー」と私がワザと気持ち悪い声を出しても、彼女は無言のままだったんだよ。
その無言の反応で、これはいける?と思ったんだよ。
ここらあたりは操作の結果じゃない。
私らがやるのは、ただ相手の中身を、相手の意向に反して「引き出す」事だけだからね。
「チョットいいかな」とか言いながらホテルの浴衣の細帯で、彼女を目隠して「こういうの興奮するんだ」と言うと、又、彼女は無言になった。
この時点で、もう私は、自分の計画が完全に成功する確信を得て、鼻から精液が出そうになったよ。
私は彼女の口に、むしゃぶりついた。
口の回りをべろべろ舐めまわし、上下の唇をめくり上げ、歯と歯茎を舐めまくり、彼女にベロを出させて狂ったようにそれを吸いまくった。
ああっ指尻ゑ梨花似の素人美少女が、こんなキモオヤジに、口の中を舐めまくられている、そう思うと、私は射精しそうになったよ。
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