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第三章 時空バイパス

45: 双子星

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「双子同志の間では奇妙な共感関係が成立するのは知っているな。遠くどんなに離れていても片一方に起こった事は、もう一人に伝わる。そういう関係が我らが故郷とこの世界にはあるんだ。第一、儂らがなぜこんなに遠くまで浚われて来る?二つの星の間には道が繋がっているからだよ。」
「道とは、あんたらの言うウビコン河の上流の空に開いた穴の事なのか?」

「あれはつい最近開いたものだ。昔からあるものではない。ウビコン河を渡る道は何処にでもある。こうしている今、この時だって、我々の目の前に新入りが現れるかも知れないし、百年経っても来ないかも知れない。道とはそんなもんだ。」

「共感関係と言ったな?それは具体的にはどんなものなんだ。」
「故郷の星の人々が抱く想念が、全てこの星に降り注ぎ、この星の内部に蓄えられる。時々はこの星が、その想念の一部を儂らの星に送り返す。双子である証とはそういう事だ。道はその作業の時に生まれた副産物にしか過ぎない。」
 岩崎は(道はその作業の時に生まれた副産物にしか過ぎない)という言葉に衝撃を受けた。
 岩崎にしてみれば、ここに来る為の道は、CUVR・W3やNEOHOKAIシステムを辿って切り開いてきたものだからだ。

「なぜそんな事になる。私にはその必然性が判らない?」
 この時BBは大声で笑った。
「『必然性。その訳。理由。』!理由か?あんたは、時代が新しいな。新しい時代の人間ほど、その様な事に拘る。神の摂理は我々人間には判らないもんだよ。新しい時代の人間は物事に全ての理由を求め、又、本人自身がかなりの事まで理解していると思っているが、実は何にも判ってはいない。第一、この現実をどう説明するのかね。」

「何でも神のせいにするのか?」

「儂はこの世界にやって来て、気付いた事が一つある。これは不遜な考え方だがな。それは神にも格があるという事だよ。地球にいる人間達が愛し敬う神は地球の神だ。絶対神ではあり得ない。『神はその姿に似せて人を創られた』の本当の意味を考えれば判る事だ。足が八本の宇宙人には神はいないのか?いやいるんだ。そしてその神は人間の姿をしている必要はない。全ての知的な存在にはぼんやりとした神の姿が捉えられる。神は人の意識と繋がっている。ちょうどこの星と地球とが繋がっているようにな。」

「関係が判らない。あんたの話を聞いていると、神がごろごろいる様に聞こえる。」

「残念ながらそういう事だ。それぞれの星にはそれぞれの神があり、それらを束ねるのがこの宇宙の神だ。神という名が嫌なら摂理や真理と呼んでも言い。」

 岩崎はこの話を打ち切ることにした。
 BBの話は、彼が何処かの眠気を催す講義で聞いた、インド神話を思い出す。
 この老人は、それを信仰するどこかのほら吹きにこの概念を吹き込まれたに違いない。

「あんたは、この星と地球とがその成立も含めて双子星だと言った。私も少しはこの世界にいて、この星の時間の流れが地球とあまり違わないのは理解している。なのに私とあんたとは地球から遣ってきた時代が違う。この事はどう説明するんだ。」

「浚われてきた時代は、この星の時間の流れと同調している。この星の力が時間を飛び越えさせる訳じゃない。違いは道の混みようなんだよ。ここに来るまでにあんたの様に一瞬でこれるものもいれば、何世紀もかかる者もいる。道の中では時間は動かない。それがこの町に色々な時代の人間が混在している理由なんだよ。」
 岩崎には納得できなかったが、少なくともタイムトラベルの様な事が、老人の口から出なかった事には安心できる部分があった。

「私の様にリアルタイムで、いやこの星に同調した時間の流れに乗って、こっちに遣ってきた人間は他にいるのか?」
 この言い方は、岩崎より未来から来た人間がこの世界に流れ着いていたら、根拠自体がなくなるのだが、岩崎は微塵もそんな事を考えていなかった。

「最近では儂の知っている範囲ではあと二人いる。一人はここであんたと同じ問答をした。最もあの若者の方が、あんたより物わかりが良かったがね。」
 真言の事を言っているのだと岩崎は思った。
 だがあとの一人は。

「その一人は保海真言と名乗ったんだろう?もう一人は誰なんだ?」
 BBは始めの問いに頷き、あとの問いには顔を顰めて見せた。

「町の連中は、本物の悪魔が通り過ぎたと言っておる、、、。悪魔が通り過ぎたあと、四人の人間と町の連中が宝の様に大切にしていた家畜が何匹も殺されていた。だから町の連中はあれは(悪魔の列車)から降り立ったものだと言っておる。目の見えぬ儂には気配しか感じられなかった。奴は夜中、この家の前を通り過ぎたのだよ。儂には足音がはっきり聞こえた。だからあれは悪魔かもしれんが肉体を持っている筈だ。(悪魔の列車)が通り過ぎた後に、お前さん達がウビコン河のほとりに打ち上げられた。時期が同じなんだ。奴も遣ってきた時代は、あんたらと同じだろう。それに道を一瞬にして渡った者達は、みんな何らかの共通点がある。」

 BBがいう悪魔とは実体化したアルビーノに間違いない。
 ・・・アマンダは、岩崎達が巻き込まれたあの現象を自分たちが経験した(悪魔の行進)と呼んだが、この老人は(悪魔の列車)と言って区別している。
 二つの現象は似てはいるが、少し違うのだ。
 そして私が、ここに流されてくる時に見た悪夢は現実の現れなのだ。
 岩崎はそう確信した。

「道を一瞬にして渡った者達の共通点は一体なんなんだ?」
「故郷の星でこちらに渡る為の強力な力を身につけていたか、何かの因果を持っていて、この星の引き込む力に巻き込まれたかのいずれかだ。少なくともその人間達は、この星が自分の意志で浚った人間ではないという事は確かだな。」
「もしかすると、そんな人間の中に、保海真言の父親がいなかったか?名前は保海源次郎だ。」

 BBは懐かしげな表情を浮かべた。
「ゲンジロウか、、、。あれはいい男だった。ものに拘らない大きさと、強烈な使命感を持っていたな、、、。そうかゲンジロウはあの若者の父親だったのか。名字が一緒だったから、もしやとは思っていたが。あの若者には、そういう事を聞くのが躊躇われる雰囲気があったのでな。」
 岩崎はBBの返事から、真言がこの老人に対して自分の父親の事を聞きたださなかった事を知った。

「真言は父親についてあんたと話をせずに、一体何を聞いていったんだ?」
 岩崎は少し憤慨しながら言った。
「彼は、町中が(悪魔の列車から降り立った者)の事で騒いでいたのを気にしていた様だ。それを追いかけると言っておった。彼はそれを自分の責任のように思っていたようだ。あとしきりと自分のもっておる地図の事を聞きたがったようだが、残念ながら儂にはその絵が見えない。随分がっかりしたようだった。」

 岩崎は激しく後悔した。
 真言は自分の事よりもアルビーノ・ブキャナンの追跡を優先させていたのだ。
 それは岩崎にとっても同じ事が言えた筈だ。
 私事などに拘っている時間はない。
 ここで留まっている時間が長くなればなる程、ブキャナンとの距離は遠ざかっていく筈だった。
 ただ岩崎は真言が、ブキャナンに対してそういう気持ちになってくれているとは思ってもみなかったのだ。

「私も奴を追わなければ!」
「若者の事はわからんが、悪魔は遠からず、この町に舞い戻ってくる筈だ。」
 BBは岩崎の焦りを見透かしたように言った。

「悪魔は殺戮に喜びを感じているようだ。それなら必ずこの町に戻ってくる。町から数百キロ離れればそこからは、この星の支配者の世界だ。地球から遣ってきた悪魔が蹂躙できるような世界ではない。あんたはここで待つべきだ。」
「冗談じゃない。真言には奴の行き先を教えたんだろう。」

「西とだけな。ここに浚われてきた人間の多くは一端は西へ誘われるようにして歩き出すんだ。そしてここが誰の世界かを思い知らされて帰って来るんだ。帰ってこない連中はどうなったのか想像もつかない。ゲンジロウだけが唯一例外だったがな。彼は自由にこの星を歩き回っていたようだ。あの体中の入れ墨に秘密があるのかも知れない。ゲンジロウは入れ墨は魔除けみたいなものだと言っておったが。しかしあれは不思議なものだったぞ。儂には見えないと言ったら、指でなぞれば見える。念ずれば見えるとゲンジロウは言ったが、本当にそうだった。」
 BBは昔見えていた太陽を思い浮かべる口調で言った。

「あんたが今夜、私に話してくれたこの星についての説明を源次郎は信用したようだったか?」
「彼はあんたのように闇雲に疑ったりしない。それに儂の話の内容のいくつかは、当のゲンジロウから聞いた話だ。」
 岩崎は黙りこくった。

「とにかく、あんたは動かない方がいい。足音で判ったがあんた、足を痛めておるだろうが。加えて老齢だ。そんな身体で案内もなしに西に向かうのは自殺行為だ。悪魔ならさっきも言ったように必ずここに帰ってくる。それまでに体力を付けて、武器を用意するのが得策じゃないのかね。それはこの町の為にもなる筈だ。頼むよ、、。」
 BBは分厚い手で岩崎の堅く組まれた両拳を包んだ。



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