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第7章 壊されたショーウィンドウ

67: 女子高校生ノイジー

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 砂場近くで、はたき落とされたドローンの破片から、守門は過去の経緯とノイジーが待ち合わせに指定した公園を知った。
 公園に移動し、幼稚園のある方向にしばらく歩いていくと、一人の女子高校生が小さな森を後ろにして立っていた。

 女子高生が着ている制服は、守門が幼稚園に着くまでに何回か見かけているもので、目の前の少女も、その高校の生徒なのだろうと思った。
 ブレザーに短いスカートにハイソックス、いかにも最近の女子高生らしいスタイルだったが、その美貌が飛び抜けていた。
 こんな場所ではなく、街を歩いていたらスカウトが直ぐに声を掛けるだろうと、そういう事には疎い守門ですらそう思った程だ。
 その女子高生が、挨拶をする様に片手を軽く肩まで上げた。
 女子高生はノイジーだった。


「この町が君の逃亡先だったとはね。君は、いつも行く公園、と言っていた。」
「結構、気に入ってたのここ。礼儀正しくて、優しい人が多いし。やっばり人間、少しはお金を持ってないと駄目だよね。、、犯罪率が低い町って住みやすいし。ちゃんと工夫さえすれば、逃亡先としてはいい場所だよ。」
 幼稚園を見下ろす緑の斜面に、二人は腰をおろし、守門はノイジーにドローンの破片を返した。

「これは、君が飛ばしたドローンの破片だよ。幼稚園の砂場で拾った。で、その時に君があの事件にどう関わったかを、見せてもらった。」

「ふーん、エクソシストさんが持ってる特殊能力ってわけね。サイコメトラーって言うのかしら、サイラボにも良く似た力を持つ子がいたわ。」
 ノイジーが、自分の手の平に乗ったドレーンの破片を見ながらそう言った。
 そして次にその手を強く握りしめた。

「散歩のついでに、ここからよくあの幼稚園を見てたの。子供が好きって事もあるけど。、、ここの幼稚園の子達って恵まれた家庭の子が多いのよね。だから、何時もすごく明るいの。キラキラ、輝いてた。そういうのが羨ましかったのかな?」
 守門は、里見が、可愛そうで見ていられなかったというサイラボの子供達の姿を想像してみた。
 その中の一人が目の前のノイジーで、今は買えもしないショーウィンドウの中の「幸せな子供時代」を、覗き込んでいたというわけだ。

「ここはね、送り迎えしてる親の姿だとか、幼稚園の全体が眺められるし、気が向けば、園に備え付けてある監視カメラで、子どもの表情のアップも見れるんだよね。
 で、あの日、あいつと出くわした。
 最初は変な気配がして、何かやばいことが起るんじゃないかと、監視カメラで見てみたの。
 ・・その時は園長さんは、もう殺されてた。
 で、奴が子供の方に向かってるじゃない。
 咄嗟に、校舎内の備品室にあったドローンを使ったんだけど、それで、逆に辿られて一発でこっちの居場所が覚られちゃったみたい。
 でもあいつは、私を軽く見たのか、ドローンをはたき落としただけで、こっちは無視して子どもたちを、又、殺しはじめた。
 これは全力でやらないと止められないと思って、トレーラーを乗っ取った。
 でも、そこまでだったわ。
 奴は、あの場所から何か念力みたいなのを使って、私をこの後の木に貼り付けて動けなくしたの。
 それどころか、私の力を逆に利用して、監視カメラを使って、あの中継と一緒に子どもたちを殺す自分の姿を、延々と私に見せつけたわ、貴男があの幼稚園に姿を表すまでね。」

 守門は少し振り返って、1メートルほど後ろの太い立木を見た。
 この位置から吹き飛ばされたなら、相当な衝撃だったろう。

「あれって、心のレイプじゃないかって思う。いえ、絶対、あいつはそう思ってやったのよ。でも私はそういうの耐性があるの。・・・可愛そうなのは子供達よ。その時、絶対仇をうってやるって決めたの。悔い改めさせ、跪かせて、命乞いさせて、、、その後、ブチ殺してやるって。」

「同感だよ。それに、あれを見てから、ますます君を信用する気になった」
「でも、どうして僕を試す様なことをしたんだ。コミューターのやり取りだけでは、不足ということなのかい。確かに、会話をしたのは、あれが始めてだけど、君との付き合いは結構長かったろう?」
 そう最後は冗談ぽく言った。
 付き合いが長いと、そう言った守門は、女子高生に変装したノイジーの正体に暫く気が付かなかったのだが。

「最近、レッドの関係で、もう一件、悪魔祓いを成功させたんでしょう?貴方の気持ちを、もう一度確かめたかったの」
「どうして、そんな必要があるんだい?」

「人は、何か大きな事をする度に、心が変わって行くから。それが良い風にか、悪い風にかは、別問題。人は何かをきっかけに変わっていく。それが私が学んだこと」
「用心深いんだね。」

「貴方と私の共闘関係は、口約束というか、あるかないか分からない信頼関係で成り立ってる。というか、私の方が、圧倒的に不利。どんな小さな出来事でも、この関係に、変化を与えるような事が起これば、見逃せないわ。」

「羊飼の悪魔祓いの成功で、味をしめた僕が心変わりして、この際、ノイジーもやってやれって考えて、待ち合い場所に罠を仕掛けて来る、とか?」
「もっと色々なことを考えたわ、色々ね、」
 そう言いながら、ノイジーがクスリと笑った。
 多分、本物の女子高生も、こんな笑い方をするのだろうと、守門は思った。
 そして、このノイジーなら守門が考えも付かない、もっと「面白い」シナリオを、いくつも想定していたに違いないとも思った。

「生き延びる為のモノの考え方は、サイラボから先に脱走した先輩に仕込まれたのよ。どうせ逃げるなら、逃げるのはちょっと我慢して、必要なモノを手に入れてから脱出するってのもね。あっ、これ、貴方との関係の事じゃなく、サイラボの事だけど。」
 『なるほど、それで君は今の可愛らしい姿を手に入れた。』
 もし守門に、里見との会話がなければ、そう嫌味たらしく言っていた筈だ。

「それにしても、あいつの居場所が、どうして私に突き止められないんだろう?偽装をする為に、他の機器にあいつが細工をした時点で、私にはすぐに分かる筈なんだけど、」

「多分、擬態を終えた時点で、レッドがすぐに眠りにはいるからだと思う。君にとっては、変化の比較量が少なすぎるんだろうね。レッドにとって、眠りは、本当の意味で無に戻ることなんだ。この世界に所属するものは、例え電子的な存在であっても、無は感知出来ない。だって、ない、んだから。」
 ノイジーがコクリと頷く。

「よしんば感知できたとしても、下手に見つけて、レッドの寝込みを襲うようなことはしない方がいい。僕はこの前で懲りたよ。奴は、息を吸うように人を殺す。巻き込まれる人間が出る。奴が起きたら、被害の少ない場所に誘い出すのが一番いい。今は、上手い手が思い浮かばないんだけどね。」

「大丈夫。イザとなったら私が囮になるわ。類は類を呼ぶってね!なんだか同じような力を使えるから、あいつ、私の事、同類の格下だと思っているみたい。それに、一度、喧嘩を仕掛けてるから、私が挑発すれば乗ってくるんじやないかしら?よく判らないけど、あいつらって、せっかく人間に取り憑いたんだからっていうような、、、生存本能って、悪魔にもあるんでしょ?そいうのも利用出来るわ。」

「そうだね。でも、その方法については、もうちょっと考えて見ようよ。まだ、少しは時間がありそうだし、」
 もちろん時間が、後どれくらいあるのか全くわからなっかた。
 ただ守門には、ノイジーの「自分が囮になる」という申し出が、受け入れ難かっただけの話だ。

「ああそれと、その格好、かえって怪しまれないかい?今は丁度、学校が終わった頃の時間だから良いけど、君の感じだと何時もそのカッコウでいる感じがするんだよね。何だか、裏で不良やってる表面良い娘の女子高校生みたいだ。」
 ノイジーが、ケラケラと笑い出した。
 そして目尻に涙をためながら、こう言った。

「当たってる!この格好は、随分前からしてみたかったの。お気に入りなの。だから、外に出る時はずっとこれ。でも、この格好は貴方から逃げ回っていた頃は我慢してた。確かに、このスタイル、逃亡生活には不利だもんね。今だって状況はそんなに変わってないわ。でも、レッドをやっつけるって決めた時から、今の内に、やりたい事やっとかなきゃって思ったの。」
 ノイジーは、目尻の涙を拭いながら真顔で言った。

「あいつとやりあったら、死ぬかも知れない。私、覚悟してるよ。それにこのままだと、私の仲間達がレッドの身代わりの犯人にされちゃう。だから、何としてでも、やらなくちゃならないの。」
 私の仲間、、、赤座が言っていたMウェイストゥズの事かと、守門は思った。





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