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第3章 ベイギャング達の死
11: 闇の船の壊滅
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映像が動き始めた。
先ほど画面に登場した髭面男が、彼の背後にある三叉路の内の一つを指差してニタニタと笑っている。
髭面男の上半身が、アップになって映し出された。
はだけたシャツの胸元にびっしり彫り込まれたタトゥーが見える。
「ギャングの内の一人が、面白半分でこれを記録してたようだ。こいつら冗談みたいだが、組織のサイトをもってやがる。こいつを撮影した野郎は、調べた所によると広報担当だったみたいだな。でもこの絵は、やば過ぎてさすがに自分トコじゃ上げられなかったようだ。だから後から匿名で闇の投稿サイトにでもアップするつもりだったんだろう。自分らの組織の怖さが、ちょっとでも世間に広がれば、それで良いっていうゲス根性だ。何処かのテロ組織の猿真似だな。で、この映像を見つけたのは、さっきの鉄山だよ。地面の上にちぎれて転がってた手首が、撮影カメラをしっかり握ってた。それをもぎ取ってる鉄山の姿を、みせたかったぜ。」
突然、画面が地面を映し出し、その画面がクラクラと揺れた。
音から察するに撮影者が走り出したようだ。
近くで、もう一つの足音がした。
一人か二人、撮影のためのベストポジションに移動しようとしているのだろう。
「撮影カメラって、証拠品でしょ?そんな事を、勝手にしていいんですか?」
守門は揺れ続ける画面を横目で見ながら呆れたように言った。
今度は非難したわけではない。
本当に呆れていたのだ。
自分が知っている昔の赤座には、多分にこういう強引な部分があった。
その部下も、しかりというワケだ。
それは直っていない。
いや、以前より酷くなっているのかも知れない。
赤座は、既に何回かこれを見ているらしく、その視線は守門に置いたままだ。
二人の視線が絡まり合う。
「良くないのに決まってるだろう。、、普通の捜査ならな。だが自分らの場合は、正規の手順で真面目にやってると、途中で証拠品がロストしたり、ねじ曲げられたりする可能性があるんだ。この部署は発足してまだ間がない。現場レベルでは、未だに理解がされていなくて、色々な所から邪魔がはいる。現場どころか、中間層の幹部連中だってコードFの筋をちゃんと理解していない奴らがいて、自分らは今まで何度も、そういう奴らに煮え湯を飲まされてる。だから部下たちには、これは、と思ったら、何でも好きなようにやれと言ってある。責任は全部、俺が取るとな。まあ実際、最後の最後に責任をとってるのは俺じゃなくて、お前の組織の上の人間達さ。責任をとるというよりは、文句をたれる連中を無理やりねじ伏せているみたいだがな。」
赤座が自分の視線を守門からディスプレイに戻した。
「・・そしてうちの鉄山は、そういう手法が大好きなんだよ。・・さあ始まるぞ、本番だ。」
そう言うと、赤座は音量を大きく上げた。
・・・・・・・・・
「何だぁ?やけに背が高い野郎だな、、。」
男の声が、スピーカーの手前から流れ出す。
どうやら撮影者のもののようだ。
画面の奥で、ブルーシートをポンチョのように全身に巻き付けたモノが、道の向こうからやって来た。
身体を揺らしながらの前進なので、頭部がグラグラと揺れている。
頭部も深くシートで覆われており、目の部分だけが見える状態になっているのだが、その目もシートの出っ張りが庇代わりになっていて、すっかり影の中にあった。
男が言ったように、このやって来たモノが、「背の高い・男性」なのかはどうかは判らない。
だが、限りなくそう見えるのは確かだった。
おそらく映像の最初に登場した髭面の男が、自分たちのテリトリーに侵入したこの「モノ」を発見して、みんなに知らせたのだろう。
勿論、仲間への警戒警報の為ではない。
何処かの間抜けが、俺たちの巣に迷い込んで来たから、みんなで楽しもうぜという事なのだろう。
それでこの撮影者が、いち早く反応したというところか。
「ねえ、あんた。あんまり顔を近づけないでよ。息が臭いんだから」
今度は女の声、おそらく撮影者と一緒にモニターを覗き込んでいるのだろう。
「仕方ないだろ。このモニターの大きさなんだから」
「おーっと、転けそうで転けないな、こいつ酔ってやがるのか?」
「酔ってるかどうかも含めてさ。背が高いとは限らないわよ。こいつ高すぎ、2メートルを軽く超えてる。その割には肩幅ないし、あれじゃ病気だわ。あのブルーシートの覆いの下が問題なのよ。何かに乗ってるのかも」
「・・そうか、そういう手があったな。思い出した。変形タイヤ自転車だ!奴はそれに乗ってやがるんだ。」
「変形タイヤ自転車?何それ?」
「昔、俺の家の近くの遊園地でそういうのがあったんだよ。タイヤが丸じゃなくて馬鹿でかい六角とかな、それで三輪なんだ。サドルも見晴らしが良いように高くつけてある、だから進むとゆらゆら変な風に揺れるんだ。」
「それが遊具なの?アンタの故郷ってどんな田舎?信じられない。」
だが、そう推理した男の観察には理由があった。
ブルーシートで包まれた物体の移動自体は、ゆらりゆらりと揺れるものの、地面を転がるようにスムースだったからだ。
「おっ、我がバイカー隊のお出ましかよ、厄介なのが一番手だな。まあ見てる方にゃ、こいつらが一番刺激的だがな、」
「そうかしら、こいつら、やる事が早すぎるのよ。楽しむって事を知らない。瞬間沸騰以上、、リーダーが、あだな通りのフラッシュだからね。おまけに薬のやり過ぎで、頭にガタが来てる。」
「くくっ、フラッシュな。本人は自分の渾名は、もっとクールな意味だと思ってるぜ。さあフラッシュ様のご到着だ。」
「向こうの音、大きくなんないの?」
「ああ、遠くのも拾える。聞くか?ちょっとまってろ。」
「うーん、早くしなさいよ。」
音質が切り替わる。
カメラ近くの男女の鼻息などが小さくなり、代わりにあまり音質の良くない音が、大きくなる。
「酔ってるのか、てめえぇ・」
嗄れ、苛立った男の声が、突然飛び込んでくる。
アメリカンバイクに乗ったままの男が、長身のポンチョ男らしきものを見上げて吠えた。
繋がった頬髭と顎髭が異常に長く、それがモコモコ動き、スキンヘッドの頭皮にびっしり彫り込まれたタトゥーの下で血管が浮き上がっている。
フラッシュだ。
彼の周囲のバイカー達は、ニヤニヤと事の成り行きを見守っている。
「・・・酔ッテルノカ、テメェェ・・・」
ポンチョからオウム返しの返事が返ってくるが、その様子は録音したものを再生した感じだった。
これで「モノ」は、一応、人間らしいと推測できた。
「ちっ、もう一度聞くぜ。酔ってるのか、」
「ちっ、もう一度聞くぜ。酔ってるのか、」と再びオウム返し、だが今度はそのイントネーションが変わっていた。
何かの原因で、録音の再生速度やピッチが変わったように思えた。
それがフラッシュの耳には、相手の自分に対する嘲りの色に見えた。
「ふざけんな!」
フラッシュは何の躊躇もなくバイクの革ケースに差し込んであった散弾銃を引き抜くと、その引き金を2度引いた。
出会いの会話から、発砲まで数分と経っていない。
金属同士の衝突音が折り重なって聞こえたかと思うと、ポンチョ男のブルーシートが見事に吹き飛んだ。
「なんだこりゃ、、?」
カメラのレンズがブルーシートの下から現れたモノをズームアップしていく。
「ロボットじゃん!」
「こりゃいい、血塗れ骸骨ロボットかよ、映画みたいだな。」
男は血塗れと表現したが、ロボットは散弾銃で撃たれても血を流したりしない。
赤く見えるのはロボットの赤いメタリック塗装の色のせいだ。
それも単にデザイン的な塗装ではなく、何か意味のあるコーティングがされているのだろう、その赤は奇妙な光沢を放っていた。
そして赤い金属ボディのあちこちにこびり付いている干涸らびた肉や皮の塊。
「腕が四本付いてる!ほら見てよ。言ったとおりでしょ。脚がスッゴク長くて、足にスケートみたいなのを付けてるわ!」
長い脚部の先には、鳥の足のようにも見え、又、女が言ったようにローラーブレードを履いた人間の足のようにも見える奇妙な複合体がついていた。
男は骸骨と表現したが、そのロボットは人間の骨格状の金属だけで形成されいるわけではなく、人間の内臓や筋肉に相当する金属部分の塊が幾つかあった。
それぞれの塊の表面はなだらかでも平面でもなく放熱の為なのか細かな溝が切ってあり、それが畝って見えている。
一言で言えば金属のクセに有機体の様に見えるグロテスクだった。
それらの中で、一番奇妙に見えたのは、むき出しの金属肋骨の隙間が、荒いメッシュ状の皮膜で覆われていたことだ。
その部分だけが、あまり機械的な印象がない。
胚嚢に当たる内側の容量部分には、おそらく色々なパーツがぎっしり組み込まれているのだろうが、外からはその塗装とメッシュの被覆のせいで、生皮を引き離した肌があるだけのように見え、それが際だって見えるのだ。
「でも、なんであんなにグロなの?映画に出てくる化物みたい」
「そりゃ、決まってるだろ。相手にショックを与える為さ。機能だけならロボットの頭は人間みたいに作る必要は全くないらしいぜ。俺たちのファッションだってそうだろ。目立って相手をビビらせてこそ値打ちがあるんだ。」
だが、目に見える映像を元に、二人がお気楽に感想を述べ合っていられたのはそこまでだった。
そのロボットは四本あるマニュピレーターの中から、背中に近く肩の上部に付いた腕を前にせり出し、その手の平に当たる大きなメス状のピンセットを回転させ始めた。
「へっ、何のつもりだぁ?このポンコツが。」
フラッシュが、再び散弾銃を構える。
この辺りが、ヤク中末期だった。
目の前の異形に何の恐怖もおぼえていない。
ロボットの赤い鬼灯のような丸い眼がフラッシュの顔を見据えている。
丁度、その両レンズの脇にこびり付いた肉の塊があって、その陰影のせいでロボットが目の前の存在を嘲笑っているように見えた。
それが又、フラッシュのカンに触った。
だが今度は、引き金が引けなかった。
自分の指先に命令を送るはずのフラッシュの頭部が、血煙と共に蒸発してしまったからだ。
この時、もう既に、ロボットは男の頭に突き入れた自分の腕を引き戻している。
このロボットの動きをしっかり確認できたバイカー達は、いなかったに違いない。
遠くから一部始終を撮影している筈のカメラ映像でさえ、何が起こっているのか良く掴めないほどに、ロボットの動きは高速だったのだ。
その後は修羅場だった。
逃げようとするバイク。
ロボットに突進しようとするバイク。
ライフルやら拳銃やらの発射音の交錯。
だがことごとく、バイカー達は血の海に沈んで行く。
次にロボットが稼働スピードを落とした時にも、その機体は今もって、ゆらゆらしていた。
しかしそれは損傷を受けた為ではない。
第一、高速で稼働している時には、その揺れが止まっているのだ。
もしかしたらフラッシュが言ったように、本当に「酔っている」のかも知れなかった。
初めは、殺戮という美酒の予感に、そして今はその酩酊に。
今度は数台の車が、すっ飛んできた。
仲間の救援などと言う感情ではなく、憎しみ、面子を潰された怒り、その様なものに飲み込まれた動きだった。
先にロボットに切り刻まれたバイカーやバイクを踏みつぶし、今にもロボットにぶつかろうとするような荒々しい動きだった。
それでも次に、車群をロボットを中心にして取り囲むように展開させたのは、彼らが暴力のプロだったからだろうか。
内、フロント部分の長い2台が、ロボットを挟み撃ちにするように突進した。
ロボットの左右の逃げ場には、既に他の2台がスタンバイしている。
そのまま踏みつぶそうというのか、あるいは動きを止めてから次の銃撃などを加えようとしたのか?
兎に角、フロント長の2台は、ロボットの身体に触れる寸前まで進んだ。
進んだが、突然、ロボットの腰辺りから2本の光の筋が発射され、それによって車は完全に二つに断ち割られてしまった。
何が起こったかも判らぬうちに、断ち割られた車の断面から逃れようとしたドライバーの胸板に、ロボットの回転する手が突き入れられ、そこに血の穴があいた。
もう一人のドライバーは恐怖にすくみ上がり、傾いだ運転席から動けなくなった。
それを見計らったように、ヒビだらけのフロントグラス越しに突入してきた、回転する「手」が、ドライバーの頭半分を削り取っていた。
そうやってロボットの一人舞台は、撮影者を殺害するまで延々と続いた。
いや本当は、もっとその殺戮は続いていたのだが、、。
ある時、主を失ったカメラは、女の悲鳴を拾った後、延々と傾いだ地面だけを記録するようになっていたのだ。
先ほど画面に登場した髭面男が、彼の背後にある三叉路の内の一つを指差してニタニタと笑っている。
髭面男の上半身が、アップになって映し出された。
はだけたシャツの胸元にびっしり彫り込まれたタトゥーが見える。
「ギャングの内の一人が、面白半分でこれを記録してたようだ。こいつら冗談みたいだが、組織のサイトをもってやがる。こいつを撮影した野郎は、調べた所によると広報担当だったみたいだな。でもこの絵は、やば過ぎてさすがに自分トコじゃ上げられなかったようだ。だから後から匿名で闇の投稿サイトにでもアップするつもりだったんだろう。自分らの組織の怖さが、ちょっとでも世間に広がれば、それで良いっていうゲス根性だ。何処かのテロ組織の猿真似だな。で、この映像を見つけたのは、さっきの鉄山だよ。地面の上にちぎれて転がってた手首が、撮影カメラをしっかり握ってた。それをもぎ取ってる鉄山の姿を、みせたかったぜ。」
突然、画面が地面を映し出し、その画面がクラクラと揺れた。
音から察するに撮影者が走り出したようだ。
近くで、もう一つの足音がした。
一人か二人、撮影のためのベストポジションに移動しようとしているのだろう。
「撮影カメラって、証拠品でしょ?そんな事を、勝手にしていいんですか?」
守門は揺れ続ける画面を横目で見ながら呆れたように言った。
今度は非難したわけではない。
本当に呆れていたのだ。
自分が知っている昔の赤座には、多分にこういう強引な部分があった。
その部下も、しかりというワケだ。
それは直っていない。
いや、以前より酷くなっているのかも知れない。
赤座は、既に何回かこれを見ているらしく、その視線は守門に置いたままだ。
二人の視線が絡まり合う。
「良くないのに決まってるだろう。、、普通の捜査ならな。だが自分らの場合は、正規の手順で真面目にやってると、途中で証拠品がロストしたり、ねじ曲げられたりする可能性があるんだ。この部署は発足してまだ間がない。現場レベルでは、未だに理解がされていなくて、色々な所から邪魔がはいる。現場どころか、中間層の幹部連中だってコードFの筋をちゃんと理解していない奴らがいて、自分らは今まで何度も、そういう奴らに煮え湯を飲まされてる。だから部下たちには、これは、と思ったら、何でも好きなようにやれと言ってある。責任は全部、俺が取るとな。まあ実際、最後の最後に責任をとってるのは俺じゃなくて、お前の組織の上の人間達さ。責任をとるというよりは、文句をたれる連中を無理やりねじ伏せているみたいだがな。」
赤座が自分の視線を守門からディスプレイに戻した。
「・・そしてうちの鉄山は、そういう手法が大好きなんだよ。・・さあ始まるぞ、本番だ。」
そう言うと、赤座は音量を大きく上げた。
・・・・・・・・・
「何だぁ?やけに背が高い野郎だな、、。」
男の声が、スピーカーの手前から流れ出す。
どうやら撮影者のもののようだ。
画面の奥で、ブルーシートをポンチョのように全身に巻き付けたモノが、道の向こうからやって来た。
身体を揺らしながらの前進なので、頭部がグラグラと揺れている。
頭部も深くシートで覆われており、目の部分だけが見える状態になっているのだが、その目もシートの出っ張りが庇代わりになっていて、すっかり影の中にあった。
男が言ったように、このやって来たモノが、「背の高い・男性」なのかはどうかは判らない。
だが、限りなくそう見えるのは確かだった。
おそらく映像の最初に登場した髭面の男が、自分たちのテリトリーに侵入したこの「モノ」を発見して、みんなに知らせたのだろう。
勿論、仲間への警戒警報の為ではない。
何処かの間抜けが、俺たちの巣に迷い込んで来たから、みんなで楽しもうぜという事なのだろう。
それでこの撮影者が、いち早く反応したというところか。
「ねえ、あんた。あんまり顔を近づけないでよ。息が臭いんだから」
今度は女の声、おそらく撮影者と一緒にモニターを覗き込んでいるのだろう。
「仕方ないだろ。このモニターの大きさなんだから」
「おーっと、転けそうで転けないな、こいつ酔ってやがるのか?」
「酔ってるかどうかも含めてさ。背が高いとは限らないわよ。こいつ高すぎ、2メートルを軽く超えてる。その割には肩幅ないし、あれじゃ病気だわ。あのブルーシートの覆いの下が問題なのよ。何かに乗ってるのかも」
「・・そうか、そういう手があったな。思い出した。変形タイヤ自転車だ!奴はそれに乗ってやがるんだ。」
「変形タイヤ自転車?何それ?」
「昔、俺の家の近くの遊園地でそういうのがあったんだよ。タイヤが丸じゃなくて馬鹿でかい六角とかな、それで三輪なんだ。サドルも見晴らしが良いように高くつけてある、だから進むとゆらゆら変な風に揺れるんだ。」
「それが遊具なの?アンタの故郷ってどんな田舎?信じられない。」
だが、そう推理した男の観察には理由があった。
ブルーシートで包まれた物体の移動自体は、ゆらりゆらりと揺れるものの、地面を転がるようにスムースだったからだ。
「おっ、我がバイカー隊のお出ましかよ、厄介なのが一番手だな。まあ見てる方にゃ、こいつらが一番刺激的だがな、」
「そうかしら、こいつら、やる事が早すぎるのよ。楽しむって事を知らない。瞬間沸騰以上、、リーダーが、あだな通りのフラッシュだからね。おまけに薬のやり過ぎで、頭にガタが来てる。」
「くくっ、フラッシュな。本人は自分の渾名は、もっとクールな意味だと思ってるぜ。さあフラッシュ様のご到着だ。」
「向こうの音、大きくなんないの?」
「ああ、遠くのも拾える。聞くか?ちょっとまってろ。」
「うーん、早くしなさいよ。」
音質が切り替わる。
カメラ近くの男女の鼻息などが小さくなり、代わりにあまり音質の良くない音が、大きくなる。
「酔ってるのか、てめえぇ・」
嗄れ、苛立った男の声が、突然飛び込んでくる。
アメリカンバイクに乗ったままの男が、長身のポンチョ男らしきものを見上げて吠えた。
繋がった頬髭と顎髭が異常に長く、それがモコモコ動き、スキンヘッドの頭皮にびっしり彫り込まれたタトゥーの下で血管が浮き上がっている。
フラッシュだ。
彼の周囲のバイカー達は、ニヤニヤと事の成り行きを見守っている。
「・・・酔ッテルノカ、テメェェ・・・」
ポンチョからオウム返しの返事が返ってくるが、その様子は録音したものを再生した感じだった。
これで「モノ」は、一応、人間らしいと推測できた。
「ちっ、もう一度聞くぜ。酔ってるのか、」
「ちっ、もう一度聞くぜ。酔ってるのか、」と再びオウム返し、だが今度はそのイントネーションが変わっていた。
何かの原因で、録音の再生速度やピッチが変わったように思えた。
それがフラッシュの耳には、相手の自分に対する嘲りの色に見えた。
「ふざけんな!」
フラッシュは何の躊躇もなくバイクの革ケースに差し込んであった散弾銃を引き抜くと、その引き金を2度引いた。
出会いの会話から、発砲まで数分と経っていない。
金属同士の衝突音が折り重なって聞こえたかと思うと、ポンチョ男のブルーシートが見事に吹き飛んだ。
「なんだこりゃ、、?」
カメラのレンズがブルーシートの下から現れたモノをズームアップしていく。
「ロボットじゃん!」
「こりゃいい、血塗れ骸骨ロボットかよ、映画みたいだな。」
男は血塗れと表現したが、ロボットは散弾銃で撃たれても血を流したりしない。
赤く見えるのはロボットの赤いメタリック塗装の色のせいだ。
それも単にデザイン的な塗装ではなく、何か意味のあるコーティングがされているのだろう、その赤は奇妙な光沢を放っていた。
そして赤い金属ボディのあちこちにこびり付いている干涸らびた肉や皮の塊。
「腕が四本付いてる!ほら見てよ。言ったとおりでしょ。脚がスッゴク長くて、足にスケートみたいなのを付けてるわ!」
長い脚部の先には、鳥の足のようにも見え、又、女が言ったようにローラーブレードを履いた人間の足のようにも見える奇妙な複合体がついていた。
男は骸骨と表現したが、そのロボットは人間の骨格状の金属だけで形成されいるわけではなく、人間の内臓や筋肉に相当する金属部分の塊が幾つかあった。
それぞれの塊の表面はなだらかでも平面でもなく放熱の為なのか細かな溝が切ってあり、それが畝って見えている。
一言で言えば金属のクセに有機体の様に見えるグロテスクだった。
それらの中で、一番奇妙に見えたのは、むき出しの金属肋骨の隙間が、荒いメッシュ状の皮膜で覆われていたことだ。
その部分だけが、あまり機械的な印象がない。
胚嚢に当たる内側の容量部分には、おそらく色々なパーツがぎっしり組み込まれているのだろうが、外からはその塗装とメッシュの被覆のせいで、生皮を引き離した肌があるだけのように見え、それが際だって見えるのだ。
「でも、なんであんなにグロなの?映画に出てくる化物みたい」
「そりゃ、決まってるだろ。相手にショックを与える為さ。機能だけならロボットの頭は人間みたいに作る必要は全くないらしいぜ。俺たちのファッションだってそうだろ。目立って相手をビビらせてこそ値打ちがあるんだ。」
だが、目に見える映像を元に、二人がお気楽に感想を述べ合っていられたのはそこまでだった。
そのロボットは四本あるマニュピレーターの中から、背中に近く肩の上部に付いた腕を前にせり出し、その手の平に当たる大きなメス状のピンセットを回転させ始めた。
「へっ、何のつもりだぁ?このポンコツが。」
フラッシュが、再び散弾銃を構える。
この辺りが、ヤク中末期だった。
目の前の異形に何の恐怖もおぼえていない。
ロボットの赤い鬼灯のような丸い眼がフラッシュの顔を見据えている。
丁度、その両レンズの脇にこびり付いた肉の塊があって、その陰影のせいでロボットが目の前の存在を嘲笑っているように見えた。
それが又、フラッシュのカンに触った。
だが今度は、引き金が引けなかった。
自分の指先に命令を送るはずのフラッシュの頭部が、血煙と共に蒸発してしまったからだ。
この時、もう既に、ロボットは男の頭に突き入れた自分の腕を引き戻している。
このロボットの動きをしっかり確認できたバイカー達は、いなかったに違いない。
遠くから一部始終を撮影している筈のカメラ映像でさえ、何が起こっているのか良く掴めないほどに、ロボットの動きは高速だったのだ。
その後は修羅場だった。
逃げようとするバイク。
ロボットに突進しようとするバイク。
ライフルやら拳銃やらの発射音の交錯。
だがことごとく、バイカー達は血の海に沈んで行く。
次にロボットが稼働スピードを落とした時にも、その機体は今もって、ゆらゆらしていた。
しかしそれは損傷を受けた為ではない。
第一、高速で稼働している時には、その揺れが止まっているのだ。
もしかしたらフラッシュが言ったように、本当に「酔っている」のかも知れなかった。
初めは、殺戮という美酒の予感に、そして今はその酩酊に。
今度は数台の車が、すっ飛んできた。
仲間の救援などと言う感情ではなく、憎しみ、面子を潰された怒り、その様なものに飲み込まれた動きだった。
先にロボットに切り刻まれたバイカーやバイクを踏みつぶし、今にもロボットにぶつかろうとするような荒々しい動きだった。
それでも次に、車群をロボットを中心にして取り囲むように展開させたのは、彼らが暴力のプロだったからだろうか。
内、フロント部分の長い2台が、ロボットを挟み撃ちにするように突進した。
ロボットの左右の逃げ場には、既に他の2台がスタンバイしている。
そのまま踏みつぶそうというのか、あるいは動きを止めてから次の銃撃などを加えようとしたのか?
兎に角、フロント長の2台は、ロボットの身体に触れる寸前まで進んだ。
進んだが、突然、ロボットの腰辺りから2本の光の筋が発射され、それによって車は完全に二つに断ち割られてしまった。
何が起こったかも判らぬうちに、断ち割られた車の断面から逃れようとしたドライバーの胸板に、ロボットの回転する手が突き入れられ、そこに血の穴があいた。
もう一人のドライバーは恐怖にすくみ上がり、傾いだ運転席から動けなくなった。
それを見計らったように、ヒビだらけのフロントグラス越しに突入してきた、回転する「手」が、ドライバーの頭半分を削り取っていた。
そうやってロボットの一人舞台は、撮影者を殺害するまで延々と続いた。
いや本当は、もっとその殺戮は続いていたのだが、、。
ある時、主を失ったカメラは、女の悲鳴を拾った後、延々と傾いだ地面だけを記録するようになっていたのだ。
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