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最終章 竜来る
74: 黄昏に飛び立つ
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封鎖地区の見えないモノリスの上で待機していたキャスパーの元に、白海王の連絡が届けられた。
『奴は、この手で葬らねばならぬ。』
キャスパーは白海王からの最後の報告を受けてそう決意した。
暮神の悪霊は、アンジェラの体内の子供を追いながら、自分が殺したスードを次々と取り込み続け、日増しに強力で凶悪な存在に生まれ変わりつつある。
・・・暮神の悪霊は、まだ自分がドナーに滅ぼされた人間だと思っているのだろうか、、。
それとも既に自分が、人間ではなくスードであることを理解しているのか。
どちらにしても責任は、自分が取らねばなるまい。
出来ることなら、来たるべき解放の日をこの場所で迎え、螺子とともに新しい世界を迎えるための戦いに我が身を投じたかったが、それよりも自分がやった事の責任を取る事の方が大きい。
それに螺子とアンジェラの子供は、スード全ての希望の星だ。
スードをただ単に開放しただけでは、この星のごく一部でしかないスードと人間の未来は先が知れている。
自分の目的はスードの解放までだったが、そこから先の夢を、螺子とアンジェラの二人にもう少し見させてもらったのだとキャスパーは思った。
だから彼らの子供を決して殺させてはならない、と。
キャスパーは、封鎖地区のモノリス頂上に、飛翔のリアルチャクラを持ったスード達を呼び集めると、自分がもし生還できない場合に備えて、全ての権限をトキマの獏に委ねる事を伝え、同時にそれを聞いた彼らをその証人とした。
しばらくの間、キャスパーはスード達が各部所に飛び去るのを見送った後、レヴィアタン国の北方カパーナに向けてその巨大な灰色の翼を広げた。
日は暮れかかっていた。
・・・正に『ミネルバの梟は黄昏に飛び立つ』だな、、だが私はふくろうだが、ミネルバではない。
技術や戦の神であるミネルバは、君だ、螺子。
・・・・・・・・・
アンジェラが、螺子のサーガ行きに同行する事になったのは、螺子に取って不本意な事だった。
確かにアンジェラを追っている暮神らしき怪物から、彼女を守るためには、居場所を変える必要はあったが、準汚染地区であるサーガが隠れ場所として適当なものであるとはとても思えなかったからだ。
しかし封鎖地区から出てきて間もなくレヴィアタンの国内事情に疎い螺子が、サーガに代わる適当な避難場所を見つける事は難しかった。
そして何よりも、ヴィルツの元を任務の途中で逃げだした螺子が再び、スードの掟を破る方法を探し出すには、サーガに行くしかなかったのだ。
サーガには全ての答えがある。
ジャンプオーバーフラッシュバックの力はその答えを引き出す為の鍵だ。
「協力者たれ」と言う言葉からの解放方法もきっとある、ヴィルツの邪悪な知識は必要ないはずだ。
サーガに行けば螺子の『ジョフ』能力が、キャスパーが螺子に求めていた全てを教えて呉れるだろう。
ティンカーボールが「暫くの間は、君は自分で答えを見つけ出す」と言ったのはこの事だったのだ。
だがそれでも螺子はアンジェラの同伴に不安を残していた。
螺子がアンジェラの体力を考え、メリッサから借りて来た荷車に彼女を乗せ、それを引いて半日がたった。
アンジェラはそれを嫌がったが、彼女を自分の足で歩かせたのはアイギス壁を越える時だけだった。
サーガの全容が螺子の目の前に広がっていた。
水平に広がる荒野の先が少し盛り上がって、灰色の空の中で混じり合っていた。
荒野のあちこちに突き出て点在する大小様々の黒い岩塊が否応なしに、この風景を厳しいものに見せていた。
「なんとなく思い出して来たわ。でもここって、私達が竜に出会った場所となんとなく似てない?これで晴れてたら、きっとそっくりのはずよ。」
「確かにね。あれ程急な岩山じゃないけど、叔母さんの話通り、この勾配のずっと向こうに渓谷があるんだとすれば、あの竜に会った場所と同じような地形という事になる。」
螺子はそう答えながら、ふと此処へなら、あの竜を呼び出せるかも知れないと思った。
それにここは、レブィアタンを覆う天蓋の外れになる訳だから、竜はここからレヴィアタンの中に入り込める。とも思った。
『でもそうやってレブィアタンに竜を呼び込んで一体何をしようというんだ?』
螺子は今も自分の腰に吊ってある歯噛みの剣に視線を落とした。
『決まってるじゃないか、聖剣を使って竜と話をして、、』
だがその想いは、何かの考えを螺子の中で形作る前に消え失せてしまった。
アンジェラが大声を出したからだ。
「そうよ!そうなのよ!思い出した!この近くに地下道があったの!それからトロッコみたいなのに乗ったんだわ。だから子どもでも、あそこまで行けたのよ!」
「そいつを見つけよう。俺は大丈夫だが、この先の道のりでは荷車がもう使えそうにもない。」
アンジェラの言う地下道の入口は、大きな岩塊の側にあった。
その岩塊はうずくまったライオンに似ていた。
アンジェラが、その事を思い出したことが手がかりになっていた。
地下道への入り口は、昔それなりの施設だったのか地面の上にはかすかに建物があった痕跡が残っていた。
ここでは螺子の『ジョフ』が働かなかった。
この下にあるだろう地下道はともかく、過去の螺子は、この施設を使ったことがないのだろう。
螺子はえぐれ込んだ地面の下にあった、ボロボロの防護柵をゆっくりと開け、アンジェラの手を握って、その闇に入り込んでいった。
『奴は、この手で葬らねばならぬ。』
キャスパーは白海王からの最後の報告を受けてそう決意した。
暮神の悪霊は、アンジェラの体内の子供を追いながら、自分が殺したスードを次々と取り込み続け、日増しに強力で凶悪な存在に生まれ変わりつつある。
・・・暮神の悪霊は、まだ自分がドナーに滅ぼされた人間だと思っているのだろうか、、。
それとも既に自分が、人間ではなくスードであることを理解しているのか。
どちらにしても責任は、自分が取らねばなるまい。
出来ることなら、来たるべき解放の日をこの場所で迎え、螺子とともに新しい世界を迎えるための戦いに我が身を投じたかったが、それよりも自分がやった事の責任を取る事の方が大きい。
それに螺子とアンジェラの子供は、スード全ての希望の星だ。
スードをただ単に開放しただけでは、この星のごく一部でしかないスードと人間の未来は先が知れている。
自分の目的はスードの解放までだったが、そこから先の夢を、螺子とアンジェラの二人にもう少し見させてもらったのだとキャスパーは思った。
だから彼らの子供を決して殺させてはならない、と。
キャスパーは、封鎖地区のモノリス頂上に、飛翔のリアルチャクラを持ったスード達を呼び集めると、自分がもし生還できない場合に備えて、全ての権限をトキマの獏に委ねる事を伝え、同時にそれを聞いた彼らをその証人とした。
しばらくの間、キャスパーはスード達が各部所に飛び去るのを見送った後、レヴィアタン国の北方カパーナに向けてその巨大な灰色の翼を広げた。
日は暮れかかっていた。
・・・正に『ミネルバの梟は黄昏に飛び立つ』だな、、だが私はふくろうだが、ミネルバではない。
技術や戦の神であるミネルバは、君だ、螺子。
・・・・・・・・・
アンジェラが、螺子のサーガ行きに同行する事になったのは、螺子に取って不本意な事だった。
確かにアンジェラを追っている暮神らしき怪物から、彼女を守るためには、居場所を変える必要はあったが、準汚染地区であるサーガが隠れ場所として適当なものであるとはとても思えなかったからだ。
しかし封鎖地区から出てきて間もなくレヴィアタンの国内事情に疎い螺子が、サーガに代わる適当な避難場所を見つける事は難しかった。
そして何よりも、ヴィルツの元を任務の途中で逃げだした螺子が再び、スードの掟を破る方法を探し出すには、サーガに行くしかなかったのだ。
サーガには全ての答えがある。
ジャンプオーバーフラッシュバックの力はその答えを引き出す為の鍵だ。
「協力者たれ」と言う言葉からの解放方法もきっとある、ヴィルツの邪悪な知識は必要ないはずだ。
サーガに行けば螺子の『ジョフ』能力が、キャスパーが螺子に求めていた全てを教えて呉れるだろう。
ティンカーボールが「暫くの間は、君は自分で答えを見つけ出す」と言ったのはこの事だったのだ。
だがそれでも螺子はアンジェラの同伴に不安を残していた。
螺子がアンジェラの体力を考え、メリッサから借りて来た荷車に彼女を乗せ、それを引いて半日がたった。
アンジェラはそれを嫌がったが、彼女を自分の足で歩かせたのはアイギス壁を越える時だけだった。
サーガの全容が螺子の目の前に広がっていた。
水平に広がる荒野の先が少し盛り上がって、灰色の空の中で混じり合っていた。
荒野のあちこちに突き出て点在する大小様々の黒い岩塊が否応なしに、この風景を厳しいものに見せていた。
「なんとなく思い出して来たわ。でもここって、私達が竜に出会った場所となんとなく似てない?これで晴れてたら、きっとそっくりのはずよ。」
「確かにね。あれ程急な岩山じゃないけど、叔母さんの話通り、この勾配のずっと向こうに渓谷があるんだとすれば、あの竜に会った場所と同じような地形という事になる。」
螺子はそう答えながら、ふと此処へなら、あの竜を呼び出せるかも知れないと思った。
それにここは、レブィアタンを覆う天蓋の外れになる訳だから、竜はここからレヴィアタンの中に入り込める。とも思った。
『でもそうやってレブィアタンに竜を呼び込んで一体何をしようというんだ?』
螺子は今も自分の腰に吊ってある歯噛みの剣に視線を落とした。
『決まってるじゃないか、聖剣を使って竜と話をして、、』
だがその想いは、何かの考えを螺子の中で形作る前に消え失せてしまった。
アンジェラが大声を出したからだ。
「そうよ!そうなのよ!思い出した!この近くに地下道があったの!それからトロッコみたいなのに乗ったんだわ。だから子どもでも、あそこまで行けたのよ!」
「そいつを見つけよう。俺は大丈夫だが、この先の道のりでは荷車がもう使えそうにもない。」
アンジェラの言う地下道の入口は、大きな岩塊の側にあった。
その岩塊はうずくまったライオンに似ていた。
アンジェラが、その事を思い出したことが手がかりになっていた。
地下道への入り口は、昔それなりの施設だったのか地面の上にはかすかに建物があった痕跡が残っていた。
ここでは螺子の『ジョフ』が働かなかった。
この下にあるだろう地下道はともかく、過去の螺子は、この施設を使ったことがないのだろう。
螺子はえぐれ込んだ地面の下にあった、ボロボロの防護柵をゆっくりと開け、アンジェラの手を握って、その闇に入り込んでいった。
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