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第6章 風と雲の色に聞け
49: ティムドガッドの国
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螺子は鉄蘇鉄の森からようやく抜け出て、荒い息のまま草原に転がり込んだ。
そして狂ったように歯噛みの剣に付着した緑や乳白色のドロリとしたものを、手近かな草でふき取っている。
カフカとの悪夢にも似た戦いで、その場に倒れ込みたいほど疲労していたが、剣に付いた粘液への嫌悪感がそれを許さなかったのだ。
草原は背の高い植物で構成されており、さし当たって外敵の気配は察せられなかった。
一段落ついて螺子は、頭上に広がる空を振り仰ぐようにして倒れ込んだ。
何をどうやって此処まで辿り着けたのかも良く思い出せなかった。
螺子がかって感じた事のない疲労の度合いだった。
百匹斬り殺したように思うが、実は一匹も殺すことが出来なかったのではないだろうか?
螺子が衝動的に自分のマスクをはぎ取ろうと首に手をかけた時、彼の手首を誰かが握った。
「マスクを取るのはまだ早いぞ。」
「キャスパー!」
「よく生きていた。カフカを何人殺った?」
ミネルバの全身も又、カフカの体液でまみれている。
「何人?、、、数え切れない程です。」
螺子はミネルバの言葉に何処か引っかかるものを覚えたが、あえてそれを忘れる事にして、ティムドガッドがあるだろうと思われる方向をむいて疲れたように言った。
「ここは不思議ですね。レヴィアタンみたいにドームに囲まれていないのに、空気が清浄化されている。それに上に広がっているのは本物の青空だ。どうやってあの光の毒を中和してるんだろう?」
「君も鉄蘇鉄と喋ったのか?どうやらあの鉄蘇鉄の森が、ドームの代わりをしているらしい。それが作り出している空気層が光の毒を遮断してる可能性があるな。仕組みは植物の光合成のようなものなのだろうが、やっている事は全然違う。」
「鉄蘇鉄と喋るですって?」
ミネルバは、余計な事を喋ったかのように、ばつの悪そうな顔をして話題を変えた。
「とにかく、森は抜けた。他の仲間達も何人かは成功した筈だ。早くティムドガッドの街まで出よう。ビーコンを設置したら急いで帰投するんだ。この国には余り長くいたくない。」
それはミネルバにしては珍しく落ちつきのない声音だった。
初代闇ファイトチャンピオンと七代目チャンピオンの脚力で平原を走り詰めて二十分後に、彼らはティムドガッドの外周と思える場所に到達していた。
ポツン、ポツンと民家とおぼしき建物が見えた。
石積みを中心にした家でレブィアタンに持ってくればハイパーレトロという事になるのだろう。
スード居留区の出である螺子さえ、その建物が古くさいと感じたのだ。
「どうやらティムドガッドは母星の中世ヨーロッパに逆進化したというのは本当らしいな。その意味では我々のレヴィアタンより先を行っている。」
見ていると一つの民家から桶を抱えた女性が出てきた。
どうやら外にある井戸に水を汲みに出てきたらしい。
女性は木陰に隠れるようにして立っていた二人を見つけたようだ。
既に彼らの外見は戦いの中でドブ泥をまとった泥人形のようになっている。
しかも、二人共マスクを付けたままだ。
何をどうしようもなかった。
キャスパーは自分たちの位置から遠くに見える城壁のようなものに視線を飛ばすと、ある見切りをつけた。
「あの女性を傷つけるわけにも行かない。ビーコンはここで放つ。見た限りでは、ここの文明程度では、ビーコンの移動を妨げるようなものはないだろう。ここで充分だ。だが念の為だ。螺子、君のもだせ。」
螺子は言われた通り、ベルトにつけてあったポーチから足の大きさ程の金属の塊を取り出し地面においた。
キャスパーも自分のものを置いて、二台のビーコンの目標地点を城壁に設定した。
すると程なく、ビーコンの腹から空気が吹き出し方と思うと、二台は地面から数十センチ浮き上がり、あっという間に城壁に向かって飛び去ってしまった。
「すいませーん!」
ミネルバが戸口のそばですくみ上がっている女性に大声で呼びかけた。
「っ、ちょっと!キャスパーさん、それは!」
慌てて螺子が言うがミネルバはそれを無視し、そのまま声を張り上げて言った。
「俺たち、牧の民なんですが、道にまよっちまって大変なんです!もう一度外に出たいんですが、鉄蘇鉄の森だけはごめんでね!抜け道みたいなのありませんかー!?。」
女性は桶を片腕に抱え直し、開いた手で、ある方向を指差した。
「帰るぞ、螺子!」
そういうとミネルバは突然走り出した。
螺子はミネルバの度胸に感心しながら、そんな彼についていくしかなかった。
彼らが通り抜ける事に成功した鉄蘇鉄の森は、女性が指差したとおり、木の密度がかなりまばらで、飛んでくる柳葉が届かない空白地帯があり、それが一種の道のようなものを作りだしていた。
おそらくその事を知っている地元の人間たちは、この地帯を抜け道として使っていたのだろう。
森を抜けた二人は安堵のあまり、その場所に座り込んだ。
「最初からこれが分かっていれば、仲間達の無駄死にが防げたかも知れませんね。」
「無理を言うな。あの道は、私達がティムドガッドに到着できたからわかったものだ。この場所から後ろを見て、あの森の奥に隙間が広がっているように見えるか?」
「そうですね。すいません。」
「いいさ。確かに私達は、この道を知らずに随分多くの同胞を死なせてしまった。でも覚えておいてくれ。これから私達がやろうとするのは、全てこれと同じようなものなんだ。後から全てが判るんだ。後悔より使命と希望を選ぶんだ。」
ミネルバはその声に悲痛さを滲ませて言った。
そして狂ったように歯噛みの剣に付着した緑や乳白色のドロリとしたものを、手近かな草でふき取っている。
カフカとの悪夢にも似た戦いで、その場に倒れ込みたいほど疲労していたが、剣に付いた粘液への嫌悪感がそれを許さなかったのだ。
草原は背の高い植物で構成されており、さし当たって外敵の気配は察せられなかった。
一段落ついて螺子は、頭上に広がる空を振り仰ぐようにして倒れ込んだ。
何をどうやって此処まで辿り着けたのかも良く思い出せなかった。
螺子がかって感じた事のない疲労の度合いだった。
百匹斬り殺したように思うが、実は一匹も殺すことが出来なかったのではないだろうか?
螺子が衝動的に自分のマスクをはぎ取ろうと首に手をかけた時、彼の手首を誰かが握った。
「マスクを取るのはまだ早いぞ。」
「キャスパー!」
「よく生きていた。カフカを何人殺った?」
ミネルバの全身も又、カフカの体液でまみれている。
「何人?、、、数え切れない程です。」
螺子はミネルバの言葉に何処か引っかかるものを覚えたが、あえてそれを忘れる事にして、ティムドガッドがあるだろうと思われる方向をむいて疲れたように言った。
「ここは不思議ですね。レヴィアタンみたいにドームに囲まれていないのに、空気が清浄化されている。それに上に広がっているのは本物の青空だ。どうやってあの光の毒を中和してるんだろう?」
「君も鉄蘇鉄と喋ったのか?どうやらあの鉄蘇鉄の森が、ドームの代わりをしているらしい。それが作り出している空気層が光の毒を遮断してる可能性があるな。仕組みは植物の光合成のようなものなのだろうが、やっている事は全然違う。」
「鉄蘇鉄と喋るですって?」
ミネルバは、余計な事を喋ったかのように、ばつの悪そうな顔をして話題を変えた。
「とにかく、森は抜けた。他の仲間達も何人かは成功した筈だ。早くティムドガッドの街まで出よう。ビーコンを設置したら急いで帰投するんだ。この国には余り長くいたくない。」
それはミネルバにしては珍しく落ちつきのない声音だった。
初代闇ファイトチャンピオンと七代目チャンピオンの脚力で平原を走り詰めて二十分後に、彼らはティムドガッドの外周と思える場所に到達していた。
ポツン、ポツンと民家とおぼしき建物が見えた。
石積みを中心にした家でレブィアタンに持ってくればハイパーレトロという事になるのだろう。
スード居留区の出である螺子さえ、その建物が古くさいと感じたのだ。
「どうやらティムドガッドは母星の中世ヨーロッパに逆進化したというのは本当らしいな。その意味では我々のレヴィアタンより先を行っている。」
見ていると一つの民家から桶を抱えた女性が出てきた。
どうやら外にある井戸に水を汲みに出てきたらしい。
女性は木陰に隠れるようにして立っていた二人を見つけたようだ。
既に彼らの外見は戦いの中でドブ泥をまとった泥人形のようになっている。
しかも、二人共マスクを付けたままだ。
何をどうしようもなかった。
キャスパーは自分たちの位置から遠くに見える城壁のようなものに視線を飛ばすと、ある見切りをつけた。
「あの女性を傷つけるわけにも行かない。ビーコンはここで放つ。見た限りでは、ここの文明程度では、ビーコンの移動を妨げるようなものはないだろう。ここで充分だ。だが念の為だ。螺子、君のもだせ。」
螺子は言われた通り、ベルトにつけてあったポーチから足の大きさ程の金属の塊を取り出し地面においた。
キャスパーも自分のものを置いて、二台のビーコンの目標地点を城壁に設定した。
すると程なく、ビーコンの腹から空気が吹き出し方と思うと、二台は地面から数十センチ浮き上がり、あっという間に城壁に向かって飛び去ってしまった。
「すいませーん!」
ミネルバが戸口のそばですくみ上がっている女性に大声で呼びかけた。
「っ、ちょっと!キャスパーさん、それは!」
慌てて螺子が言うがミネルバはそれを無視し、そのまま声を張り上げて言った。
「俺たち、牧の民なんですが、道にまよっちまって大変なんです!もう一度外に出たいんですが、鉄蘇鉄の森だけはごめんでね!抜け道みたいなのありませんかー!?。」
女性は桶を片腕に抱え直し、開いた手で、ある方向を指差した。
「帰るぞ、螺子!」
そういうとミネルバは突然走り出した。
螺子はミネルバの度胸に感心しながら、そんな彼についていくしかなかった。
彼らが通り抜ける事に成功した鉄蘇鉄の森は、女性が指差したとおり、木の密度がかなりまばらで、飛んでくる柳葉が届かない空白地帯があり、それが一種の道のようなものを作りだしていた。
おそらくその事を知っている地元の人間たちは、この地帯を抜け道として使っていたのだろう。
森を抜けた二人は安堵のあまり、その場所に座り込んだ。
「最初からこれが分かっていれば、仲間達の無駄死にが防げたかも知れませんね。」
「無理を言うな。あの道は、私達がティムドガッドに到着できたからわかったものだ。この場所から後ろを見て、あの森の奥に隙間が広がっているように見えるか?」
「そうですね。すいません。」
「いいさ。確かに私達は、この道を知らずに随分多くの同胞を死なせてしまった。でも覚えておいてくれ。これから私達がやろうとするのは、全てこれと同じようなものなんだ。後から全てが判るんだ。後悔より使命と希望を選ぶんだ。」
ミネルバはその声に悲痛さを滲ませて言った。
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