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第2章 聖剣争奪戦
13: 試合のルール
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レヴィアタンの西の外れには居留区と呼ばれるヒューマンスード達の集落があり、東の外れにはレヴィアタンを外の脅威から守る壁・アイギスの最も高い中心部分がある。
全体としてのアイギス壁は、左翼右翼の高低差を持ちながらも鶴翼の形でレヴィアタンを包み、右翼はその高さをヒューマンスード集落で0とした。
西側の壁が最後まで高いのは「集落」という外界への緩衝地帯がないからだ。
この分厚い外壁の内側は、日常における必要度が低い様々な設備に転用されていた。
例えば、美術館や博物館などがそうだ。
ただ、それらの内容を充実させる為に必要な人間の歴史や文化などの蓄積はこの星には殆どなく、その結果、施設の中身は貧弱なものだった。
あるのは立派な外側をもつ入れ物だけだ。
それでも人々がこういった施設をわざわざアイギス壁の内側に造る造るのは母星文化への郷愁と国内経済循環の為だった。
従って人出は殆どなかった。
ただ、こういう施設だからこその、他の隠れた使い道はあった。
日が落ちてから外壁に近づく人間はいない。
アイギス壁の外側に広がる外界の恐怖がそうさせるのだ。
ましてやその外壁にあるのは、普段の生活とは縁遠い施設だった。
そんな施設の一つである美術館が、聖剣争奪戦の会場に選ばれていた。
ここに暮神と鹿島、そしてドナーの三人が集まっていた。
彼らが顔を合わせた場所は、この催しの為に臨時に作られた観客席だ。
観客席と言っても劇場のような設えではなく半分はパーティー会場のようなものだ。
彼らの仲間であるアンジェラは、今回、競技参加者として違う場所にいる。
パーティードレスで着飾った豪族の若い娘達は、少し離れたところから彼ら三人を憧れの眼差しで見つめていた。
もちろん彼女達も、豪族のハイソサエティ内で育っているから、暮神達の事は子供の頃から知っているのだが、彼らは、どちらかと言うと目立たない存在だったのだ。
少女達の恋愛対象としては、少年たちの中で一番目立っていたバンクス家のレナードなどが注目されていた。
それが成人してみると、この三人はそれぞれ違った個性を発揮する魅力的な男性に成長していたのだ。
ただそんな彼らが、三人で固まっていると、若い娘達には気後れが生まれるのか、遠巻きに見ているしかなかったようだ。
ハンサムな男が三人で濃密につるんでいては、そこに一人や二人で気安くモーションをかけられる訳がないのだ。
それに他の若い男達は中世貴族風の仮装を楽しんでいたが、彼らは一部の隙もないスーツ姿だった。
「いつもなら、ここにレナードの馬鹿もいる筈だけどな。そしてあのスードの格好を見て悪口をまき散らしていただろうさ。」
アドン鹿島が、わざわざレナードの名前を持ちだしたのは、暮神らが引き起こした事件の愚かさを彼らに思い出させる為だった。
アドンは、昔からこのグループの中で、そういうご意見番めいた立ち位置にいたのだ。
ドナーは恥ずかしそうに下を向いたが、暮神は平気だった。
「何が言いたいんだ、アドン?お前ならあの情況を変えられたとでも言いたいのか?確かにお前が見せる判断はいつも正しいさ。でもお前は、あの夜、あの場所にいなかったんだぜ。」
暮神は平然としている。
『起こってしまった事は全て受けいれる、その後の反省は全て無意味だ。人間の過ちは、いくら後で学ぼうが、後悔しようが、未来でもやはり回避出来ない。回避できるように思うのは錯覚だ。』
ある時から彼はそう考えるようになっていた。
自分のすることには常に覚悟が決まっていると言えば聞こえは良いが、それは一種の虚無主義だった。
「まあいいじゃないか二人とも。レナードの怪我なんて直ぐに治るさ。彼の処置の部位が増えるだけだ。」
ドナーが二人の仲を取り持つように言った。
だがドナーは、二人のことをさほど心配しているわけではない。
アドンと剣録の間にはいつも緊張があるが、この二人はお互いを嫌い合ってはいないからだ。
親友とはちょっと違うが、それに近い。
二人は、それぞれ違う意味で、親友を造らない。
それでも二人の結びつきが強いのを、ドナーは長年の付き合いで知っていた。
「それにしても驚いたよな、アンジェラのやつ。自分の代わりにあのスードをたてて争奪戦に参加するなんて。それもあの格好だ。彼女にどういうつもりで、あのスードに女史が身に付けるような、いや女性でもあんなエロいの身に付けないだろうけど、、鎧を着けさせたんだって聞いたら、チャイナが私の代わりだからって言ってたよ。、、あれは私よ、女が試合に参加して何か問題があるの?あの格好は、その主張の為だってさ。、、昔からやることが突拍子もなかったけど、こんな事までやるとはなぁ。しかも、もう決勝戦まで勝ち上がってる。」
ドナーが話の方向を、レナードの件から試合へと変えた。
「見えてないな、ドナー。凄いのはアンジェラの我が儘を許して、この試合で聖剣を取りにかかったエイブラハムさんの方だ。それと、商人のくせに、今回、同じくこの争奪戦に参加した張だよ。今まで聖剣争奪戦に参加しなかった張と、トレーシー家がそれぞれの際だったやり方でこの戦いに参加した。他の豪族の長達はウチも含めてみんなピリピリしてる。いよいよ、このレヴィアタンで覇権争いが始まるんじゃないかってな。それに、剣録がトレーシー家の顔を立てて、この試合に参加しなかった事も大きい。」
アドンにそう言われた剣録は、試合が行われる円形ステージを見つめたまま黙っている。
ドナーは、いつもは庇ってくれる剣録が何も言ってくれないので、ふくれ面でアドンに言い返した。
「、、そんな事ぐらい判ってるさ。科学院の長達も最近はいつもそんな話をしてる。でも僕は、この試合の成り立ち自体に疑問を感じてるんだ。だって聖剣って言うけど、あれは本当に聖剣なのかな?聖剣が起こした奇蹟の話なんて僕は一度も聞いたことがない。豪族達が有り難がって、それを利用してるだけだ。、、僕が言いたいのは、そういう中身のない洞窟みたいな世界に、今回アンジェラが無鉄砲にも飛び込んでいったって事だよ。」
剣録がようやく口を開いた。
「ドナー、俺は二本の聖剣を授けられた。兄貴がもぎ取ったのを入れると暮神家には聖剣が三本ある。七本の内、三本だ。俺も兄貴も剣は親父に渡したから、試合以降は、剣に触れていない。剣自体は屋敷に保管してあるが、誰もそれを見に行かないし、さわりもしない。おそらく他の聖剣保持の家も同じような状態だろう。つまり奇蹟を起こすにも、起こしようがないんだよ。というより、誰も奇蹟なんて望んでいないんだ。お前の言うように、持っているだけで箔が付くからな。それ以上の事は必要ない。だがグレーテル神から、あの剣を授けられた俺には、はっきり判る。あれは間違いなく聖剣だ。」
そこで口をつぐんだ剣録の後をアドンが引き取った。
「ドナー。次ぎにお前はこう言いたいんだろう?かりにもグレーテル神が、剣に力を与えたと宣言したんだ。それを実際に使おうとしなくても、聖剣である事は間違いない。それは認める。そしてそれを持つことが、この国の覇権争いの力の源泉になるのも。今までじっとしていたトレーシー家は、今回、意を決したようにそれを取りに来た。それはこの世界の覇権に向けて前に一歩踏み出そうとした現れだ。、、だがアンジェラは、父親のそんな思惑とは関係のない所で動いてる。だから僕は彼女を心配してるんだ、お前らだって、一緒だろう?ってな。、、、俺だって、彼女が自分の父親に良くない感情を抱いてる事や、あのスードの存在が、アンジェラが暴発する色んなきっかけになってる事に気づいてるさ。だがなドナー。彼女は何時までも、俺達の御姫様じゃないんだぞ。」
アドンが冷ややかに釘を刺した。
「、、分かったよアドン。でもあのスードが勝つとは限らないだろ?お前達が心配じゃないなら、僕だけでも、アンジェラに話してみる。棄権は認められているんだ。今のままじゃ、アンジェラは、自らを政争の具にして下さいと、その身を差し出しているようなもんだ。豪族同志の戦いに巻き込まれて揉みくちゃにされるんだぞ。結果は目に見えてる。」
「残念だがドナー、もう手遅れだ。それに俺はこの試合、あのスードが勝つと思う。」
剣録が静かに言った。
「どうしてだよ?アドンがそう言うなら判るが、なんで剣録がそんな事言うんだ。それに、ずっと試合を見てきたけど、スードの方は辛勝だったじゃないか。全部、審判の判定で勝ってる。それに対して、張の剣士は誰の目にも明らかな圧勝の連続だぜ。こういうのが苦手な僕だってあの剣士が凄いのがわかる。それにスードは人間に対して色々な縛りがある。」
「、、たしかにな。張は凄い人間を見つけ出してきたもんだと思う。剣の腕前で言えば、奴はレヴェィアタン一かも知れない。俺がもしこの試合に出ていたら、奴と当たっても勝てる気がしない。だがな。」
暮神はそこまで言って、ドナーへの説明をやり直す事にした。
この幼なじみは、理詰めでないと、物事を納得しない事を良く知っているのだ。
「、、この試合は剣でやる。だからこそ、スードが出ても、スードが剣を使ってやる限りには常識外れであってもルール違反にはならない。その上、スードは人間に手出しが出来ないように躾けられてる。だから試合をやっても、相手が人間だと、判定か相手の降参でしか勝てない。相手を打ち負かし、地面に跪かせるなんて勝ち方は元から無理なんだ。つまりスードは、聖剣争奪戦に出るには常識外れだが、相手の人間にとっては限りなくフェアな剣士であるってことだ。こうやって試合を見てみると、実際そういう試合内容だったんだから何処からも文句は出てない。トレーシー家はその穴を狙った。なっ、実際、最初の頃は不平や文句を言ってた皆もスードが試合に出る事をもう認めてる。、、でも素手で人間とスードがやり合えるんなら、人間がスードに敵うわけがない。そこだよ、そういうギリギリの所で、あのスードが勝機を見いだしたら、この試合どうなると思う?」
その剣録の言葉にドナーは、スードにつま先を喰い千切られたレナードの姿を思い出した。
スードは人間を傷つけられない筈だが、そのルールをアンジェラは自分の命令と態度で覆してしまっていたのだ。
全体としてのアイギス壁は、左翼右翼の高低差を持ちながらも鶴翼の形でレヴィアタンを包み、右翼はその高さをヒューマンスード集落で0とした。
西側の壁が最後まで高いのは「集落」という外界への緩衝地帯がないからだ。
この分厚い外壁の内側は、日常における必要度が低い様々な設備に転用されていた。
例えば、美術館や博物館などがそうだ。
ただ、それらの内容を充実させる為に必要な人間の歴史や文化などの蓄積はこの星には殆どなく、その結果、施設の中身は貧弱なものだった。
あるのは立派な外側をもつ入れ物だけだ。
それでも人々がこういった施設をわざわざアイギス壁の内側に造る造るのは母星文化への郷愁と国内経済循環の為だった。
従って人出は殆どなかった。
ただ、こういう施設だからこその、他の隠れた使い道はあった。
日が落ちてから外壁に近づく人間はいない。
アイギス壁の外側に広がる外界の恐怖がそうさせるのだ。
ましてやその外壁にあるのは、普段の生活とは縁遠い施設だった。
そんな施設の一つである美術館が、聖剣争奪戦の会場に選ばれていた。
ここに暮神と鹿島、そしてドナーの三人が集まっていた。
彼らが顔を合わせた場所は、この催しの為に臨時に作られた観客席だ。
観客席と言っても劇場のような設えではなく半分はパーティー会場のようなものだ。
彼らの仲間であるアンジェラは、今回、競技参加者として違う場所にいる。
パーティードレスで着飾った豪族の若い娘達は、少し離れたところから彼ら三人を憧れの眼差しで見つめていた。
もちろん彼女達も、豪族のハイソサエティ内で育っているから、暮神達の事は子供の頃から知っているのだが、彼らは、どちらかと言うと目立たない存在だったのだ。
少女達の恋愛対象としては、少年たちの中で一番目立っていたバンクス家のレナードなどが注目されていた。
それが成人してみると、この三人はそれぞれ違った個性を発揮する魅力的な男性に成長していたのだ。
ただそんな彼らが、三人で固まっていると、若い娘達には気後れが生まれるのか、遠巻きに見ているしかなかったようだ。
ハンサムな男が三人で濃密につるんでいては、そこに一人や二人で気安くモーションをかけられる訳がないのだ。
それに他の若い男達は中世貴族風の仮装を楽しんでいたが、彼らは一部の隙もないスーツ姿だった。
「いつもなら、ここにレナードの馬鹿もいる筈だけどな。そしてあのスードの格好を見て悪口をまき散らしていただろうさ。」
アドン鹿島が、わざわざレナードの名前を持ちだしたのは、暮神らが引き起こした事件の愚かさを彼らに思い出させる為だった。
アドンは、昔からこのグループの中で、そういうご意見番めいた立ち位置にいたのだ。
ドナーは恥ずかしそうに下を向いたが、暮神は平気だった。
「何が言いたいんだ、アドン?お前ならあの情況を変えられたとでも言いたいのか?確かにお前が見せる判断はいつも正しいさ。でもお前は、あの夜、あの場所にいなかったんだぜ。」
暮神は平然としている。
『起こってしまった事は全て受けいれる、その後の反省は全て無意味だ。人間の過ちは、いくら後で学ぼうが、後悔しようが、未来でもやはり回避出来ない。回避できるように思うのは錯覚だ。』
ある時から彼はそう考えるようになっていた。
自分のすることには常に覚悟が決まっていると言えば聞こえは良いが、それは一種の虚無主義だった。
「まあいいじゃないか二人とも。レナードの怪我なんて直ぐに治るさ。彼の処置の部位が増えるだけだ。」
ドナーが二人の仲を取り持つように言った。
だがドナーは、二人のことをさほど心配しているわけではない。
アドンと剣録の間にはいつも緊張があるが、この二人はお互いを嫌い合ってはいないからだ。
親友とはちょっと違うが、それに近い。
二人は、それぞれ違う意味で、親友を造らない。
それでも二人の結びつきが強いのを、ドナーは長年の付き合いで知っていた。
「それにしても驚いたよな、アンジェラのやつ。自分の代わりにあのスードをたてて争奪戦に参加するなんて。それもあの格好だ。彼女にどういうつもりで、あのスードに女史が身に付けるような、いや女性でもあんなエロいの身に付けないだろうけど、、鎧を着けさせたんだって聞いたら、チャイナが私の代わりだからって言ってたよ。、、あれは私よ、女が試合に参加して何か問題があるの?あの格好は、その主張の為だってさ。、、昔からやることが突拍子もなかったけど、こんな事までやるとはなぁ。しかも、もう決勝戦まで勝ち上がってる。」
ドナーが話の方向を、レナードの件から試合へと変えた。
「見えてないな、ドナー。凄いのはアンジェラの我が儘を許して、この試合で聖剣を取りにかかったエイブラハムさんの方だ。それと、商人のくせに、今回、同じくこの争奪戦に参加した張だよ。今まで聖剣争奪戦に参加しなかった張と、トレーシー家がそれぞれの際だったやり方でこの戦いに参加した。他の豪族の長達はウチも含めてみんなピリピリしてる。いよいよ、このレヴィアタンで覇権争いが始まるんじゃないかってな。それに、剣録がトレーシー家の顔を立てて、この試合に参加しなかった事も大きい。」
アドンにそう言われた剣録は、試合が行われる円形ステージを見つめたまま黙っている。
ドナーは、いつもは庇ってくれる剣録が何も言ってくれないので、ふくれ面でアドンに言い返した。
「、、そんな事ぐらい判ってるさ。科学院の長達も最近はいつもそんな話をしてる。でも僕は、この試合の成り立ち自体に疑問を感じてるんだ。だって聖剣って言うけど、あれは本当に聖剣なのかな?聖剣が起こした奇蹟の話なんて僕は一度も聞いたことがない。豪族達が有り難がって、それを利用してるだけだ。、、僕が言いたいのは、そういう中身のない洞窟みたいな世界に、今回アンジェラが無鉄砲にも飛び込んでいったって事だよ。」
剣録がようやく口を開いた。
「ドナー、俺は二本の聖剣を授けられた。兄貴がもぎ取ったのを入れると暮神家には聖剣が三本ある。七本の内、三本だ。俺も兄貴も剣は親父に渡したから、試合以降は、剣に触れていない。剣自体は屋敷に保管してあるが、誰もそれを見に行かないし、さわりもしない。おそらく他の聖剣保持の家も同じような状態だろう。つまり奇蹟を起こすにも、起こしようがないんだよ。というより、誰も奇蹟なんて望んでいないんだ。お前の言うように、持っているだけで箔が付くからな。それ以上の事は必要ない。だがグレーテル神から、あの剣を授けられた俺には、はっきり判る。あれは間違いなく聖剣だ。」
そこで口をつぐんだ剣録の後をアドンが引き取った。
「ドナー。次ぎにお前はこう言いたいんだろう?かりにもグレーテル神が、剣に力を与えたと宣言したんだ。それを実際に使おうとしなくても、聖剣である事は間違いない。それは認める。そしてそれを持つことが、この国の覇権争いの力の源泉になるのも。今までじっとしていたトレーシー家は、今回、意を決したようにそれを取りに来た。それはこの世界の覇権に向けて前に一歩踏み出そうとした現れだ。、、だがアンジェラは、父親のそんな思惑とは関係のない所で動いてる。だから僕は彼女を心配してるんだ、お前らだって、一緒だろう?ってな。、、、俺だって、彼女が自分の父親に良くない感情を抱いてる事や、あのスードの存在が、アンジェラが暴発する色んなきっかけになってる事に気づいてるさ。だがなドナー。彼女は何時までも、俺達の御姫様じゃないんだぞ。」
アドンが冷ややかに釘を刺した。
「、、分かったよアドン。でもあのスードが勝つとは限らないだろ?お前達が心配じゃないなら、僕だけでも、アンジェラに話してみる。棄権は認められているんだ。今のままじゃ、アンジェラは、自らを政争の具にして下さいと、その身を差し出しているようなもんだ。豪族同志の戦いに巻き込まれて揉みくちゃにされるんだぞ。結果は目に見えてる。」
「残念だがドナー、もう手遅れだ。それに俺はこの試合、あのスードが勝つと思う。」
剣録が静かに言った。
「どうしてだよ?アドンがそう言うなら判るが、なんで剣録がそんな事言うんだ。それに、ずっと試合を見てきたけど、スードの方は辛勝だったじゃないか。全部、審判の判定で勝ってる。それに対して、張の剣士は誰の目にも明らかな圧勝の連続だぜ。こういうのが苦手な僕だってあの剣士が凄いのがわかる。それにスードは人間に対して色々な縛りがある。」
「、、たしかにな。張は凄い人間を見つけ出してきたもんだと思う。剣の腕前で言えば、奴はレヴェィアタン一かも知れない。俺がもしこの試合に出ていたら、奴と当たっても勝てる気がしない。だがな。」
暮神はそこまで言って、ドナーへの説明をやり直す事にした。
この幼なじみは、理詰めでないと、物事を納得しない事を良く知っているのだ。
「、、この試合は剣でやる。だからこそ、スードが出ても、スードが剣を使ってやる限りには常識外れであってもルール違反にはならない。その上、スードは人間に手出しが出来ないように躾けられてる。だから試合をやっても、相手が人間だと、判定か相手の降参でしか勝てない。相手を打ち負かし、地面に跪かせるなんて勝ち方は元から無理なんだ。つまりスードは、聖剣争奪戦に出るには常識外れだが、相手の人間にとっては限りなくフェアな剣士であるってことだ。こうやって試合を見てみると、実際そういう試合内容だったんだから何処からも文句は出てない。トレーシー家はその穴を狙った。なっ、実際、最初の頃は不平や文句を言ってた皆もスードが試合に出る事をもう認めてる。、、でも素手で人間とスードがやり合えるんなら、人間がスードに敵うわけがない。そこだよ、そういうギリギリの所で、あのスードが勝機を見いだしたら、この試合どうなると思う?」
その剣録の言葉にドナーは、スードにつま先を喰い千切られたレナードの姿を思い出した。
スードは人間を傷つけられない筈だが、そのルールをアンジェラは自分の命令と態度で覆してしまっていたのだ。
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