ゴックン、その口で食べるの? /Osaka発ドラァグドライブ、掛け違いの旅

Ann Noraaile

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【 東南アジアの旅 】

05: ベトナム サイゴン・サイゴン ⑤京都の雪

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 ベトナム旅行の最終日、タムちゃんがアン達を空港まで送ってくれた。
「ベトナムの男は働かないんだね。」と言うアンに「そんなことありません。そう見えるだけです。この国の男の人はよく働くからあんなに高いオートバイを一人で2台も3台もかえるんですよ。」と言ったタムちゃん。

「こんな運転してたら日本じゃ喧嘩だらけだよ、ベトナムって交通ルールがないんだね。」とやや憤慨していったアンに、少し困ったような顔をして沈黙を守っていたタムちゃん。
 そうだよね。
 誰だって自分の国に対する誇りはあるんだ。
 タムちゃんの母国はベトナムで、アンの母国は日本だって事だ。

「タムちゃん、どうして日本語勉強する気になったの?」
 同伴者は「そりゃ可能性の問題だよ。スワヒリ語やってもビジネスチャンスないでしょ。逆に言えば可能性があればスワヒリ語でも勉強しちゃうんじゃない。」って言ってたんだけど、、。

「京都が好きだから。」
 タムちゃんは、はにかみながら言った。
 アンは一瞬、虚を突かれた感じになったけど、同時になんとなく、お腹の中が暖かくなって来るのも感じた。
 やっぱり「若い」って素敵なんだ。

「そうなんだ。京都の何が好きなの?」
「着物がすきです。舞妓さん、、。それと雪、、。」
「雪?」
「雪みたことないし、涼しいのが好きなんです。」
「涼しい、、そうね。でも雪の時は京都、凄く寒いよ。」
 雪が降りしきる冷え込んだ京都で、立ちすくんでいるタムちゃんの姿を一瞬想像した。

 そのあと短い時間だったけど、送迎の車の中で、タムちゃんの家族の事や、彼女が語学の為に違う大学に二回も行った事など色んな話をした。
 その間中、相変わらず、車の外ではオートバイがひしめき合うように走っていた。
 最後にタムちゃんがアン達に聞いた。

「ベトナムはどうでしたか?又、来たいですか?」
 頭の中では色んな答えがあったけれど、タムちゃんへの答えは一つしかなかった。
 おそらくその答えの裏側にあるものを、頭のいいタムちゃんなら一瞬にして見抜くだろうけれど、、。

「とっても面白かったよ。又、来るね。タムちゃんもいつか京都においでよ。」

 タムちゃんはアン達の出国手続きを最後まで見送ってくれていた。 
 帰りは夜の遅い便で、フライト待ちの長いこと長いこと、、疲れ切った頭で待合いロビーのベトナムTVを観てるとチョー・ユンファと前田吟を足して2でわったような男優さんが映ってた。 
 あれはトラン・アン・ユン監督の「夏至」に出てた人だよね。
 二女の旦那で、せっかく旅先でチャンスがあったのに女房が怖くて浮気しそびれるって役だったはず。

 そう言えば「夏至」も3姉妹の物語だった。
 長女の旦那は浮気をしてバレバレだけど、その報復に妻も浮気をして、しかもそれが全然、夫には悟られていない。
 三女は接吻しただけで妊娠したと思うようなネンネ。
 トラン・アン・ユン監督は女性しか撮らないって言われてるみたいだけど、「夏至」はベトナムそのものだと思うよ。

 「ウエィク・アップ!!」
 その声にボーっとしていた待合い客が全員しゃきっとする。
 だれよ。偉そうに!!直訳すると「起きろてめえら!!」だよ。
 ふざけるなっての。
 声の方を見るとアオザイを来た空港職員の若い女の子が男性職員を数人従えて、女王様よろしく腕組みをして仁王立ちしているのであった。
 これだからベトナムは、、、。
 最後のカウンターパンチだった。

 でもそんな彼女の後ろに、アンがオーダーした服を出発間際の私たちの為にホテルまで走って届けに来てくれた女の子の姿が重なったのも確か。
 あなたが自分のお姉さんみたいに、アンの手を握って店の中を案内してくれた事は今でも憶えているよ。

 そして2ドルを差し出した時、1ドルだから受け取れないと毅然と言ってのけたタクシーの若い女性運転手の引き締まった表情の事も。
 これからのベトナムは「女」が作っていくんだって気がした。
 日本だってそうだよ。競争だよ。タムちゃん。
 きっと京都にやってくるんだよ。


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