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第8章 地下世界のマルディグラ

86: 第一の答

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「これで俺達の挨拶は終わりだ。さて、そろそろ本題に入ろうか。」
 漆黒はうっそりと言った。
「、、、何が聞きたいんだね。君とは昔のよしみがある。私の言える範囲の事は答えるつもりだ。又、君は怒るかもしれないが、私は君と喋っているのが楽しいんだ。あの頃が蘇ってくる、、。」
 この鴻巣の様子を、パーマー捜査官は目を細めながら侮蔑的に眺めている。
 ジッパーの尋問専門家達が苦戦した、これがあの鴻巣徹宗なのか?と。
 今の鴻巣徹宗は、まるで惚れた女の前で、やに下がっている男のように見えた。

「漆黒賢治が、あのきれいな爆弾を落としたのか?」
 漆黒は自分が一番聞きたかった事を最初に聞いた。
 本当は、問うても答えは出てこない質問だと、思っていたのだが、、。

「、、いきなりだな。この会話はジッパーも聞いてるんだろうな、、。まあ良いか。君がそれを聞きたくなるのは当たり前だし、私はその疑問に答えられるからな。結論から言おう。漆黒賢治は私達の計画に途中まで参加していた、しかもかなり深い所でね。だが彼は直前で、私達を裏切った。その意味で、漆黒賢治は、あの爆弾を落としてはいない。それどころか彼は、あの爆弾を無効化する方法を考え出して、この惑星上でそれを揮発させた。従って、あの爆弾は次が使えなくなった。」

 答えが出た!
 漆黒の胸のつかえが下りた。
 ずっと世界を覆っていた霧が晴れたようだった。
 鴻巣には嘘を言う理由がない。

「、、、俺はずっと、お前と漆黒賢治がぐるだと思っていた。だが俺の原体は、ずっと俺にお前を追いかけさせていた。そこには、お前との何かの因縁がある筈だと俺は考えていた。つまりお前が、漆黒賢治を死に追いやるような裏切りをやったんだと。」
「私が、漆黒賢治を裏切ったって?冗談だろう。裏切ったのは、漆黒の方だ。彼のせいでマルディグラの計画は中途半端に終わり、それがこの世界をかえって悪くしているんだ。漆黒があの時、あの粒子をばらまいたせいで、私達の爆弾の意味はなくなった。つまり最初の爆弾で死んだ人間達の死は、無意味になったという事だ。これ以上の大罪があるかね。」

「ふざけるな!」
 努めて冷静にいようとした漆黒だったが、この言い草には激高した。
 今度は演技ではなかった。
 だが鴻巣は、そんな漆黒の変化にびくともしない。

「マルディグラの他のメンバーの名を言え。リーダーの名は?レフの正体は?」
 漆黒の中では、もう少し後で出すつもりだった質問が飛び出た。
 マルディグラの思想そのものへの彼の怒りがそうさせたのだろう。

 それに鴻巣が漆黒賢治を死に追いやったのではないとするなら、何故、漆黒賢治は鴻巣に拘り続けたのかという疑問が残る。
 それは、漆黒賢治も自分を追い詰めた相手の正体が掴めないでいて、それを知っている人間が唯一、鴻巣だったからなのかも知れない。
 その相手は、単純に考えてレフだった。

「ほほう、君もジッパーと同じ事を聞くんだな。お笑いぐさだ。いいか私は身体にナノマシーンを融合させた人間だぞ。君も知ってのとおり、身体を分離して、二重存在にもなれる。それはつまり私の場合、肉体のフレームも意識のフレームも、通常の人間のそれとはまったく違うって事を意味してるんだよ。従来の拷問や自白の技術では、私の頭の中からは、何一つとして情報を引き出すことは出来ない、金輪際ね。」

 漆黒は怒りを抑えて考えてみた。
 ・・・もう一人の鴻巣、つまりカミソリ男だけがナノマシン製で、この鴻巣の肉体がまったくの手付かずの完全な人間であるなら、二つを分離したり同一化したり遠隔操したりするのは不可能な筈だ。
 その連携の仕組みは、分離後の鴻巣の頭の中に残されていることは、ジッパーの調査で既にわかっていて、漆黒はそれをパーマー捜査官から教えられていた。
 だから今、鴻巣が言った事は正しい。
 しかし、その事が、本当に鴻巣にとって強みになるのだろうか?と。

「それは知ってるさ。だがお前は、そのリンクのせいで、俺達に易々と捕まってしまったんだろ?俺達はお前の片割れに、銃弾をぶち込んで弱らせた。するとどうだ、遠くの安全地帯に居るはずのお前は、それでダメージを受け意識朦朧としている所を踏み込まれ、逃げることも出来ずジッパーの手に落ちた。つまりお前が思ってる程、お前の科学なんて、たいしたもんじゃないってことさ。」
 鴻巣の表情が少し歪んだ。
 この方向で揺さぶれる、、こいつの科学者としてのちんけなプライドが突破口だ、、こいつはそんなに難しいヤツじゃない、ジッパーは鴻巣について勘違いをしているのだ、漆黒はそう思った。

「こいつは驚いたね。君は漆黒のクローン体のくせに、私から分離したものを、拷問すれば私が喋る、、なんて単純な事を考えてるんじゃないだろうな?」
 鴻巣は迂闊にも漆黒の考えの先回りをするような事を言った。
 おそらく目の前の漆黒に、かっての論敵でもあった漆黒賢治の姿を重ねたのだろう。

 フジコ・ヘミングウェイ・パーマーはこの様子を固唾を呑んで見つめていた。
 もしかして、この尋問から、自分が長年追い求めてきたものの姿が見えて来るかも知れない、と。
 彼女は唇が読める。
 彼女の正面に居る鴻巣の唇から、漆黒がどう攻めていくかが判った。

「そんなに単純じゃないだろうさ。だが、あのナノ群体はジッパーが押さえている。彼らならいずれナノ群体の仕組みを解明するだろう。確かにアンタは天才だが、初めてモノを作るのは難しくても、模造品を作るのは凡才でも出来るってことさ。この世の中自体が、それを証明してるだろ?いずれ判明するその逆ルートから、ジッパーが、あんたの口を割らせる。」
「ふん、出来るものならやってみるがいいさ。」

 この時、フジコ・ヘミングウェイ・パーマーは、鴻巣が自分の方を見ていった様な気がした。
 鴻巣は、もう冷静さを取り戻しているように見える。
 この男は漆黒賢治のクローン体が揺さぶっても隙を見せないのか?
 いや、まだだ。
 漆黒猟児の尋問はまだ続いている。
 自分の知っている漆黒猟児はタフだ、彼なら最後までやり抜く、、。

 この時、パーマーのいる部屋の照明が突然切れた。
 嫌な予感に身構えたパーマーのストリングに、着信があったのはその直後だった。


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