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第7章 ブラザーシスター
76: 次のオプションはソウルガン
しおりを挟む「先輩、それはナノニードルガンですよね。持っているだけで罪に問われるしろものだ。」
漆黒はメイム・クリアキンの告白を受けて、彼女の追尾をすると決まった時以来、この銃をずっと身に付けている。
漆黒は今、スーツの前ボタンをはずして車のシートに座っているから、ナノニードルガンの握りが嫌でも見える。
それを目敏く見つけて、フレズベルクが楽しそうに言ったのだ。
車はデインデ第3支社の地下駐車場に停まったままなので鷲男には余裕があった。
この辺りが前の鷲男とは違うところだ。
ユーモアがなかったとは言わないが前の鷲男は、とにかく暗かった。
「俺は大丈夫だよ。何故か、判るか?俺自身が罪を問う方の人間だからだ。、、単純なズルだな。だが大方の権力の仕組みってのはそんなもんだ。俺はいいけど、お前はダメだ、みたいなな。、まあ俺の場合、権力とはちょっとちがうが。」
「そうですね、先輩のは権力ではなくて牙だ。で私にそれがあるとすれば、それは私のこの嘴だ。」
「、、お前、もし自分の頭が人間みたいだったらって、思った事はないのか?」
「先輩は、私のそういう姿を想像した事があるんですか?」
「いやない。想像すら出来ない。」
「私も同じですよ。」
漆黒は暫く間を置いて、おもむろに切り出した。
「、、、鴻巣徹宗が今度、彼女に要求したのは、ソウルガンと呼ばれるものらしい。」
「ソウルガン?一体、ソレはなんです。私のイグドラシル接続でも引き出させませんよ。」
「超一級の軍事機密なんだろうな。だがその仕組み自体は、俺もお前もよく知っている。漆黒賢治が造り上げて、自ら命名したソウルプリンターを使ってる。つまりソウルガンが機密になってる理由は、そんなものを軍事に転用しちゃまずいだろって、話だよ。」
「ソウルプリンターね、、、今考えても、あまりいいネーミングではありませんね、、。それは知的生命体に魂を生み出す為の作業なんだから、ソウル・ジェネシスとか、ソウル・ジェネレーターでも良かった筈だ。大昔の錬金術でもそんなネーミングはしなかったでしょうね。」
「、、、だな。このネーミングには、人間というか、知性に対する敬意ってものがない。それが漆黒賢治が屑野郎と言われる由縁だよ。」
そう言って漆黒は、メイム・クリアキンがこれから乗り込むはずのデインデの豪華な社用車をぼんやり眺めた。
車の監視は鷲男に任せておけばいい。
鷲男の目なら、こんな会話をしながらでも、磨き上げられた黒塗りの社用車の表面にたまたま付いたばかりの埃さえ、見逃さないだろう。
そういう点では、鷲男と組んでから、こういう張り込みも随分楽になっている。
「そのソウルガンをテロにどう使うのか、クリアキンさんからお聞きになっていますか?」
漆黒は、メイム・クリアキンが告白した内容の大体を鷲男に話している。
「ソウルガンなんて大仰な名前が付いてるが、要するにマインドコントローラーみたいなもんらしい。ほら、映画で良くあるだろう。怪物が怪光線かなにかを発射して人間を意のままにあやつるみたいな。あれだよ。その仕組みを、ソウルプリンターから流用してるらしい。敵地に侵入し、ソウルインクに相当する媒体を散布するか、相手に直接打ち込む。その媒体の質によって、相手をコントロールできる幅や質は変わるらしい。しかし意識の中身が直接書き換わってしまう事に違いはないから、その制御力は超強力だ。」
暗示ならいつかは解けるが、根本が書き換わってしまうのだから、もうどうしようない。
犯罪者にこの仕組みを応用して善人にする、それを刑罰に変えてはどうかという話が法曹界で持ち上がった事を、漆黒は過去に聞いたことがある。
「国防を目的としている筈のデインデが、何の為にそんなソウルガンを開発したかという問題点もありますね、、、。しかし、まず私達にとっては、それを使おうとしている鴻巣徹宗の意図ですね。」
「ああ。旅団のヘブンに対する一回目のテロ攻撃は成功を収めた。で、次のターゲットだが、これが難しい。普通のテロなら、手当たり次第に主立った施設を破壊して、市民に恐怖を与えればいいが、旅団の狙いは、今のところヘブンだけだ。しかもそのヘブンは、地上の真上にある。そういう制約があるから、クリーンセンターをやった。普通に考えれば、次にやれるのは再建中のクリーンセンターかシャフトだろう。だがシャフトでも破片が下に落ちるし、多くの人間が再建に関わっているクリーンセンターに攻撃を仕掛ければ、当然、市民達の反感が出る。」
「でソウルガンの登場。猟児さんは、今度、鴻巣徹宗は情報戦に出ると読んでるんですか?」
「地上に丁度良いのがあるだろう?ヘブン直営のアルジャラー放送だ。あそこを飛蝗人間で占拠して放送職員をソウルガンで動かす。ヘブンの内実なんて、真っ黒けだ。暴露するネタには事かかない。地上にはヘブンに逆らうメディアは一つもないが、その状況がこれで変わる。アルジャラー放送というヘブン第一の提灯メディアがそれをやるんだ。一部の市民は、拍手喝采するだろうな。今、市民のヘブンへの依存心は、かなり揺らぎ掛けてる。そいつをさらに増幅させようっていう腹だろう。鴻巣徹宗が、ヘブン転覆に関するどんなネタを持っているかは判らんが、ネタによっちゃ、そうとう効果があるもしれない。大体の人間は、今の現状については我慢して、諦めさせられているだけだからな。」
「凄い読みですね。まるで猟児さんと鴻巣徹宗が友達同士だったみたいだ。相手の腹の奥まで理解してる。」
「、、かもな。そんな事より、お前。この件、レオンに言ってないだろうな?伝えるなと口止めした時、お前不服そうだったぞ。」
この優秀な第2世代の精霊の欠点は、余りにも人間くさくなりすぎるという事だった。
「言ってませんよ。私は猟児さんじゃありませんからね。いいつけは守る。ただ、不服はいまでも不服です。私は今でも、この件は、レオン刑事に連絡をして、共同であたるべきだと思っています。」
「俺もそう思ってる。だがそれは今じゃない。俺たちの周りの状況が、いい方に変わってからだ。」
「つまりジッパーが、もう一度主導権を握るまで待てと言うことなんですか?」
「そうだ。情勢の変化はレオンが常に見てる筈だから、何かが変われば、奴の方から連絡してくる筈だ。その時に、この状況を教えてやればいい。」
「レオン刑事は、なぜ最初からこの事を教えなかったのかと立腹するのではないですか?」
「言わせておけばいい。これからやろうとしてる俺達の仕事は、必ず上手く行く保障はない。失敗したら刑事生命はないんだ。そんな仕事に、レオンを加えられるか。」
「しかし、レオン刑事と組めば、成功する確率は随分上がりますよ。」
「俺には刑事を止めても次がある、そうなりゃ、鴻巣を追い詰めるのには時間はかかるだろうし、やり方も非合法だ。それでも次がある。レオンには、次はない。奴は刑事そのものだからな。お前は知らないだろうが、奴が前の相棒の精霊を失った時どうなったか、、。第二次が始まらなかったら、多分奴はあのままだったろう。それが今度は精霊どころか刑事という職を失う事になる。そうなったら奴は、完全に沈没する。」
鷲男はその漆黒の言葉に一応、沈黙した。
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