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第6章 グリーバンス進化形 理性を奪う病
63: きれいな爆弾Clean bomb
しおりを挟む「俺の原体はクズ野郎だと思ってはいたが、まさかあの爆弾を、、。」
「勘違いしないで下さい。漆黒賢治がきれいな爆弾を使ったとは言っていません。あれの実行犯は未だにはっきりとは分かっていないのです。今言えるのは、組織のリーダーがレフと呼ばれていた事。そして彼らが駆使していたその高度な科学力から考えて、マルディグラのメンバーは絞られ、漆黒賢治もその候補にあげられるということです。でも可能性と言うことだけなら、あの平和賞を貰った安倍博士でさえ、マルディグラメンバーの候補に上がっているのですよ。、、ただ、鴻巣徹宗の場合は、それらの比ではなくマルディグラの中核メンバーであった可能性は極めて高い。だから私達は、時宗をリスク覚悟で追い詰めたのです。」
「慎重なあなたが、徹宗が時宗に入れ替わったと踏んで突っ込んでいったのは、そんな背景があったんですね、、。」
「ええ、あの時は、どうしても鴻巣徹宗を追い詰める必要がありました。もちろん鴻巣徹宗の名が、赤・フォルモサ・ダイオワン旅団の活動と共に再浮上して来た今も。、、そして漆黒賢治と鴻巣徹宗の間には親交があった。、、、そういう事です。」
俺に大きなショックを与えまいとして、この女性は表現を和らげていると漆黒は思った。
原体と鴻巣徹宗との関係がそんなふんわりしたものなら、ジッパーが今回のような形で漆黒に恩を売るような真似はしないだろう。
漆黒は腹を括った。
例え、きれいな爆弾に漆黒賢治が関係していようとも、俺は『耐えなければならない』と漆黒は思ったのだ。
漆黒賢治がやった事に対峙すること、それが俺が俺である事の証明になる筈だと。
「もうすぐ政府の組織は全て、対テロ準備に入ります。本当はこの世界の治安を維持するために、厳戒令を引いてもおかしくないレベルですが、多くの人達は、ヘブンがやられたくらいでは、世界はダメージは受けないと思っている。つまり自分たちは、まだそれ程、ヘブンの支配は受けていないと思い込みたがっている。逆に言えば、支配者側は、その都合の良い幻想を保つために、あまり大仰な事は出来ないということですね。そして旅団の狙いは、ヘブンと人々を切り離すこと。今度起こることは、この二つのバランスの上での攻防なのです。そんな戦いが始まるというのに、今ここで貴方を、闇の舟の下らない後始末で失うわけにはいかない。貴方の使命は、貴方だけがなしうるアプローチで、鴻巣徹宗を確保する事です。その為の貴方の自由は、できる限り、私達が保証します。」
「今回みたいに、又、助けてくれると言うことですか?」
「何時も、何でも、出来る訳ではありません。私達は警察より大きな力を持っていますが、直接の警察の上部機関という訳ではありませんからね。ただし今回は、政府の総力戦ですから、貴方の為に色々な事が出来るでしょう。」
つまりレオンが言っていた「本庁」が立つと言う事だ。
「そこまでしてもらって、鴻巣徹宗を捕まえられなかったら、あたたには首を引きちぎられそうですね。」
「それが出来なくとも、その過程で得られた情報を私達に提供して貰えればいい。私達も鴻巣徹宗の確保に向かっているのですからね。それだけ、鴻巣徹宗確保は私達にとっても難しいことなのです。」
「今回に限り、前のような縄張り争いはないという事ですね。」
「もちろん。確保が出来るのなら、それは誰がやってもいいのです。全ては一体です。」
好きなだけ暴れられる美味い話だとは思ったが、漆黒は何処かに、落とし穴があるような気がしてならなかった。
フジコ・ヘミングウェイ・パーマーが、この件で躍起になっているのは、彼女の個人的理由があるような気がした。
しかしそれは問題ない。漆黒が刑事として動いている理由も似たようなものだ。
問題はジッパーの意思だった。
ジッパーが単なるヘブンの出先機関のようなものだったら、あるいは、逆に反ヘブン勢力に過ぎなかったら、漆黒はただ政争の為の道具になるだけだった。
「正直に言います。俺は貴方の事を尊敬してる。それはあのロア教団事件の途中辺りからだ。でもジッパーは違う。今までの貴方の話は、貴方の考え方だ。俺は貴方に協力したい気はあるが、ジッパーの事は信用してませんよ。」
パーマー捜査官の表情が曇った。
「ジッパーの事を少し説明しておきましょう。・・・余りにも大きな力を持ちすぎたせいか、政府の一機関にしか過ぎないジッパーにも、いつの間にか思想のようなものが生まれました。ジッパーが考えているのは、現体制の維持です。それを具体的に簡単にいってしまえば、ヘブンが大きくなり過ぎないことと、ヘブンが地上と上手くやっていくことですね。ジッパーは、それを何時も考えています。」
「現体制の維持?こんな糞みたいな世界の?」
「そういう事を簡単に言わない事ですね。それがテロの始まりなんだから。ヘブンを潰してしまいたいなら、その後の事を考えて下さい。良かれ悪しかれ、今の世界はヘブンと地上は相互依存の関係にあります。何の方策もなしに、片一方が潰れたら、総てが壊れます。そういう事を考えたら、目指すべき道は朧気ながらも見えてくるんじゃないかしら。その道を辿って行って、上手く行くかどうかなんて誰にも判らない。でも何かをやれば、それなりの結果は出て来ます。それを待てない、あるいは、崩壊の後に新生があるとか、人間は滅びても良い存在だというのは、あのマルディグラの思想と同じです。その結果が、あのきれいな爆弾。貴方は、あの爆弾で一体何人の人間が眠りながら殺されたか、憶えていますか?」
その時のパーマー捜査官のあまりに強い視線に漆黒は、思わず目を伏せた。
「ふう、、、判りました。なんだか誤魔化されているような気もしますがね。」
「、、、、、。」
今度はパーマー捜査官がしばらく目をつむった。
何かの怒りを押さえつけているようだった。
「私が、あのブードゥー教団に拘った本当の理由を教えてあげます。今から話すのは全て私事です。私の関心は、教主のアレクサンダリオ・カトーより、鴻巣徹宗にあった。あの時、鴻巣徹宗は黒子に徹して、決して教団の陰謀の表面に出てこなかった。彼の目的は、アレクサンダリオを自分の先兵としてヘブンに送り込むことにあったのです。アレクサンダリオは総ての事柄は、自分の野望の為に回っていると考えていたのでしょうけど、実際は彼を操っていたのは鴻巣徹宗。あの『きれいな爆弾Clean bomb』は、二度と造れなくなっていたから、新しく、アレクサンダリオという名の人間爆弾を造って、今度はヘブンにそれを落とそうとしたのです。、、私は鴻巣徹宗を捕まえて、その先にいるレフという人物を追い詰めたいのです。そして償わせたい。あの爆弾の打撃は余りにも大きかった。大きすぎて、人々はあれを天災のように思って、忘れ去ろうとしている。でもあれは、間違いなく人が犯した犯罪なのです。」
これでもまだパーマー捜査官は自分の思いの全てを語っていないように思えた。
あのきれいな爆弾で破壊された人々の生活の営みの数は数えきれない。
そして生き残った人間たちは、どこかでその失われたものとの関わりがある。
多くの人間はそれを忘れようとしているが、中にはそうでない者もいる。
「一人殺せば殺人者、100万人殺せば英雄になるってセリフがあるが、たった一人が100万人以上殺したら、もう何も分からなくなる。悲しみと憎しみの母数が多すぎて、その殺人者は人の形をした天災になっちまう。それに犯人が見つかったとしても、その罪を償わせるには死刑を何回やっても追いつかない。、、忘れるしかないんだ。普通の人間は、自分の悲しみと怒りを癒すためにそう考える。」
漆黒は素直に自分の思っている事をいった。
「きれいな爆弾は、人間だけを殺した。しかも眠っている内に、痛みをまったく与えずに。それがあの爆弾に『きれいな』という名がついた由縁の一つでもある。、、確かに実際、人々はその点に救いを求めた。いえ、救いを求めざるを得なかった。そういう被害者家族たちは、大勢いた。でも、そのことさえも爆弾を作った人間の計算の中に入っていたとしたら、あなたはどう感じます?、、私は消して許さない。私が犯人を見つけたら、その人間を死刑にします。そして完全コピーのクローン体で、その人物をもう一度復活させ、また、死刑に処します。犠牲者と同じ数になるまで。」
「、、何年かかるでしょうね?」
「何年かかってもやるのです。やり遂げなければならない。そして私達は、それを見つめ続けなければならない。」
漆黒はパーマー捜査官の言葉に、えも言われぬ感情を抱いた。
それがなんであるのかの説明はつかなかったが、形としては、恐怖に似ているような気がした。
「、、、貴方はずっと前から、何かの理由で、一人でマルディグラと戦っている。その戦いの意義にようやくジッパーが、いや社会が追いついた。そう理解することにしますよ。、、俺は協力しますよ。でも一つお願いがあります。」
「なんですか?」
「レオンのことだ。奴にも便宜を図ってやってください。奴も鴻巣徹宗逮捕には執念を燃やしている筈だ。それに奴は役に立つ。情報戦なら奴は、数段、俺より上だ。奴は並の公安じゃない。」
「分かっています。それは私も考えていました。」
漆黒はレオンのまん丸に膨れあがった顔が「恩着せがましい事をしやがって」と喚き散らすのを思い描いたが、同時にこんな会談があったのに、漆黒が自分の事を売り込まなかったと知ったらレオンは漆黒に嫌みを百万遍言っているだろうと思った。
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